演習3日目 魔物よりヤバい女



「邪魔よ」


 ドゴァッ!!


『バヒロバガラバゴロッ』


「う、うわぁ·····」

「なぁヘンチ、あれ出来るか?」

「お前頭狂った?マッハのヤツでも無理だって」


 出発から3時間後、演習の終着点まであと3時間くらいで到着できる場所で、私たちは魔物を狩っていた。


 ·····あの無惨なゴブリンの破片を燃やして魔物をおびき寄せようとしたら、集まりすぎたのだけれど。



 ちなみに今はおびき寄せられた牙の生えた肉食の牛?みたいな魔物を蹴り飛ばした所よ。

 30mくらい転がって行ったかしらね。


 あっ木に激突して身体が反対に折れたわ。

 あれはもう再起不能ね。



「ふぅ、多すぎるわ·····」

「この辺りの魔物、狩り尽くす勢いやなぁ」

「いい加減もう限界だ、逃げるか?」

「回復が必要な人いるー!?すぐやるから言ってね!!」


「痛っ、チッ!厄介なヤツばっかりだ!!」

「こっちピンチですわー!!数が、数が多すぎますわ!!」

「渦巻く水よ槍となり貫け『アクアスピア』っ、くっ詠唱が間に合わない·····!」



 と、呑気·····でもないけれど牛の魔物を蹴っていたらオーロラたちの方がピンチになっていた。

 狼·····にしては変な····· ハイエナかしら?何か犬っぽい魔物が群れになって襲いかかってきていて、デルタが捌ききれず怪我をしてしまっていた。


 流石にちょっとマズそうね·····



『キキャーッ!!』


「あっ丁度いいところに来てくれたわね、ストーンヘッドモンキーじゃない、それ頂くわ」

『キャ!?』


 私は3人を助けるべく、頭上から降りてきて襲ってきたストーンヘッドモンキーの頭を掴んだ。


 次の瞬間



「ふんぬ」

 ゴリュリュッ

 ブヂィッ!!


『ギャーーーゥ!!?』

「皆!避けて頂戴!!」


「「「は?」」」


 私はストーンヘッドモンキーの頭を力技で拝借して、引きちぎれる勢いそのままに『ターディオンγ』を発動、同時に音の10倍の速度で頭を投げつけた。


 頭に岩の兜を被っているかのような体をしたストーンヘッドモンキーは、頭をもぎもぎすればそのまま投擲武器になる野生の武器だ。


 それを音速の10倍で投げつけたのなら·····



「き、緊急回避ですわーッ!!!」

「お嬢様が率先してヘッドスライディングすんのかよ!!!」

「でもやらなきゃ死ぬ!!!」



「シッ」


 ッッッガァァァアアアアアンッ!!!


『ヴギョィイッ!?』

『ヴゥーォァウウッ!!??』

『ギャインッ!?』

『ピギァっ』



 隊員3人が捨て身で避けた瞬間、ベイパーコーンを纏いながら飛翔した石頭猿の頭部がハイエナのような魔物の軍勢に直撃した。


 瞬間、先頭のハイエナが猿の頭と共に爆散、飛び散る破片がショットガンのように周囲に飛散して悲惨な事になった。

 まるでボーリングのように周りに群れていた10匹近いハイエナが吹き飛ばされ破片で大ダメージを負い中には貫通した猿の頭で即死する者まで居た。



 ひゅおおおおぉぉぉぉぉぉ·····

 ドッッッガァァァアアアアアアアンッ!!!



 そしてハイエナの軍勢を駆逐した石頭猿の頭は、大木に激突して真っ二つにへし折りながら粉微塵になって爆散した。

 ちなみに頭を引き抜かれた体の方は噴き出した血がルクシアにちょっとかかり、嫌そうな顔をされながら蹴飛ばされどこかに吹っ飛んで行った。



「ふぅ、危ないところだったわね?」


「「「ルクシア(さん)が1番危ない!」ですわ!」」


「そ、そうかしら?結果的に助かったからいいじゃない」


 1歩間違えれば隊員たちまで巻き込んでいたが、ルクシアの思考回路は『結果的に結果を得られたならいいじゃない』という意味不明なロジックで成り立っている。

 彼女にとって、『隊員が巻き込まれない(無事)』『魔物の驚異が去る』を達成すれば結果オーライなのだ。



「·····ってマズいわね」


「うーわー·····」

「今度こそ逃げるですわ」


 バサバサバサバサバサバサバサッッッ


『ギョーッ!』『ギギョー!!』

『ウキョー!!』『ギャギャギャ』『ギョルー!』

『ギャッギャッギャッ!!』『ギョー!』『ザー!』『ミンミン!』『オウショー!』『ギャギャギャ?』『キョーンッ!!』『ココギャガガ!!』


 先程の爆音や飛び散る肉片の臭いに誘われたのか、ハゲワシのような大型肉食鳥類の魔物が大量に集まり、上空をグルグルと旋回し始めていた。


 例に漏れず奴らも生きている人間も襲う危険な魔物だ。



 それが空を覆うほど集まっている、絶望的な光景にルクシアは·····


「なんか変なの混ざってるわね」

「変なこと言ってないで、逃げるよ!!」


 呑気にツッコミを入れていた。





 一方その頃(の少し前)、第1分隊では·····



「ふぅ、へへっこんなもんか?」

「流石アニキ、つえぇ!!」


 無事に山脈を超えたマッハたち第1分隊も、ルクシアたちと同じく魔物を狩っていた。


 倒したのはD級のそこそこ強い魔物だったが、冷静に対処したため危なげなく倒せていた。



「っと、俺はちと休むからよ、解体は·····お前やれ」

「了解」


 ぶっきらぼうに命令したように見えるが、ちゃんと考えて魔物専門の解体屋の家系に生まれた専門家のブチャリーに任せている。


 その間に、戦闘で体力と魔力を消耗したマッハはしっかり休み、また次の戦闘に挑む効率的な立ち回りだ。



 悪いヤツそうに見えるが、マッハは以外としっかり者だった。

 というより言動が少し横暴な常識人だ。


 何せ·····



 ヒューーーーッ·····



「ん?何の音だ?」


「あ、アニキ!上、上ッ!!」


「あん?·····うっおおおお!?!?!?」


 バッ!!


 ヒューンッ

 バガォォオオンッ!!


「な、なんだァ!?」



 一見するとマトモそうなのに、もっと非常識でヤバいヤツがこのクラスには潜んでいるのだから。



「猿の····· 体だけ?」

「なんか胸部が足の形に凹んでるんだけど」

「蹴られたの·····?」

「ストーンヘッドモンキーのストーンヘッド抜きですね」

「それモンキーじゃね?」


 飛んできたのは、ストーンヘッドモンキー(ストーンヘッド抜き)だった。

 そう、ルクシアが蹴り飛ばした胴体が結構離れた場所にいたマッハ達の元まで届いたのだ。


 ちなみにマッハに直撃するコースだったのは偶然だ。


「お前ら気をつけるぞ、コイツを蹴り飛ばしてここまで飛ばせるバケモノが近くにいr」


 カッッッッ!!!


「·····訂正だ、ルクシアだな」

「ルクシアだ」

「絶対ルクシアですね」


 マッハが仲間に警戒をうながした瞬間、遠くの森で激しい光の帯が出現した。


 それを見て即座にアレがルクシアのせいだと、つまりさっき飛んできた猿の体もルクシアが蹴ったのだと皆が理解した。





 そしてこっちでは何が起きていたのかというと·····


「全部撃ち落とせば逃げる必要も無いでしょう?」

「無理だって!数が多すぎるもん!!」


「問題ないわ、·····まだ実戦導入はしていないのだけれど、ぶっつけ本番よ」



 ルクシアがまたやらかしていた。


 今度は新技を披露するようで、ルクシアを引っ張って逃げようとするルビーを無視してハゲワシの魔物の大群に立ち向かった。



「ふぅ····· イメージするのよ私·····」



 ルクシアは最近、とある法則に気が付いていた。


 彼女は週末になると時々、大洋の遥か彼方にある絶海の孤島で光速魔法を扱う練習を重ねていた。


 以前大怪我をした亜光速パンチも、色々工夫して打てるようにはなったほど練習した。

 ·····そのせいで島が3つほど消し飛び大津波が起きたりしたが、結果オーライだ。



 話を戻して、亜光速の攻撃を繰り返す中でルクシアはある事に気がついた。



「物体は早ければ早いほど”重く”なる、そして重くなれば重くなるほど力は”強く”なり光は”歪む”·····」


「つまり、『重さ魔法』を使えば光は”曲げられる”のよ、·····いえ」


「もう”重さ”じゃないわ、質量と力を操る魔法·····『重力魔法』よ」



 ルクシアは、人類では未だ学問にすらなっていない『重力』という存在を発見してしまった。


 が、例に漏れず変に解釈しているため·····



「私の光は直進しかしなかったわ····· でも今は違うわ!曲射も反射も何でも出来るのよ!『重力レンズ』発動、光よ入り乱れなさい!!」


 ギュォオオォォオオオオオッ

 カッッッッ!!!!


 ルクシアが何も無い空間に重力魔法をかけると、その空間が歪み始めた。

 そしてそこへ、大量のレーザーが打ち込まれた。


 するとブラックホールのような重力源がいくつも出現して光を湾曲させ、周囲に触れるだけで蒸発するほどの光を蓄えたレーザーが重力レンズの効果により屈折を繰り返し、網の目のように張り巡らされた。


『ギャギャ!?』『キギェー!!』『ガギョア!!』『ギョーザ!!?』『ギャギィ』『ギョー!!?』


 それと同時に、大量に居た鳥の魔物が1秒と立たずに蜂の巣にされた。


 いや、それどころではない。

 無尽に張り巡らされた動き回る光の立体交差により穴を穿ち切断し最後は見えない程の細切れになると高出力レーザーで瞬時に炭化し消し飛ばされ、全個体が一片も残らず消失した。



「ふぅ、こんなものかしら?」


「す、すげぇですわ·····」

「オーロラ、口調が壊れてるぞ」

「こっわ·····」

「それあれば大体の敵倒せるんじゃね?」


「·····これを使うと跡形も残らないのよ、だから討伐の証拠が揃うまで使わなかったのよ」



 この魔法は絶海の孤島で大量の渡り鳥系の魔物に襲われた時に編み出した魔法で、瞬時に全個体を消し飛ばした経歴がある。

 ただ、この演習では魔物を倒した証拠を確保する必要があるため、ある程度の数の証拠が集まるまで相手を消し飛ばす魔法が使えなかったのだ。


 だが今回の大襲撃で素材の確保は完了し、これ以上集める必要は無いと判断したルクシアはついに全力を出したのだ。



「さて、じゃあ皆·····」


『ガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』


「·····逃げるわよ」


 が、その強烈な光におびき寄せられ、ヤバいのが来てしまった。


 陸海空どの面においても最強。

 地上最強の生物·····




 ドラゴンの襲来だ。





『『逃げろおおおおおおおおおおおおおお!!!!』ですわ!!!!』


 そして皆一斉に逃げ出した。

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