演習終了!



「私の絵が下手·····? そんなはずないわ、ちゃんとリアルにやったつもりよ·····」


「·····なー、アレどうすんだ?」

「ほっとけ、付き合うだけ無駄だ」


「私が悪かったですの!ルクシアさんの絵は上手ですの!!!」



 ドラゴンを撃退した後、ルクシアたちは特にトラブルも起きずに合流し演習の到着地へと歩みを進めていた。

 まぁ、ルクシアだけは合流した途端にオーロラに『すっっっごいヘタクソでしたの!!』と言われショックを受けて凹んでいるが、特に何も起きていないの範疇でいいだろう。



 ちなみに大騒ぎになる前までに倒した魔物の討伐の証拠は隊員が回収しているため、残すはルクシアを宥める事とゴールに到着するだけの二つしかやる事は無い。



「ルクシアちゃん、そろそろちゃんとして·····? 本当にこの道で合ってるの?」


「絵の練習はちゃんとしてるはずなのに·····」

「あっダメだ」



 が、ルクシアがマトモにならないと道案内ができる人は現状ここにはいない。

 いや居ないわけではないが、ルクシアに任せていたため現在地がわからず先導を交代するのはかなり難しいのが現状だ。


 つまり、ゴールするにはルクシアを正気に戻す必要があるのだが、そのルクシアは正気に戻る気配がなくブツブツと何かを言いながら森の中を彷徨っていた。



「·····そもそもなんで絵なんて描く必要あるのよ」


「はぁ····· どうする?任せてたら今日中には到着しないぜ?」

「何とかするしかないんですの」

「もうすぐお昼すぎるのに·····」


「あっまってやー、そっち藪の中やから進まん方が····· あぁもう、皆ついてくで!!ルクシアを一人にさせたらアカン!」



 挙句、ルクシアは通り道の無い藪の中へと突っ込んでいってしまった。



『なっ!?なんで来れたんだ!?!?隠匿の結界を張ってるはずだぞ!?』

『夕方になるまで見つけられないはずです!なぜ·····ルクシアさんが!?』

『結界が緩んでいたか?·····いやそんな事は無いな、なんなんだ』

『偶然·····?ってまてまてまてまて、止まれ止まれ、どこへ行くんだ』



「·····はい?」

「今の、先生方の声だったですの」

「先生の声だな·····」


「·····まさか」


 が、何故か藪の奥から居るはずのない先生の声が聞こえて来た。

 それを確かめるべく、隊員はルクシアが入っていった藪へと突入すると·····



「はっ!?景色が急に変化したんですの!」

「幻影魔法で森を偽装してたのか?」

「あっ目的地やなここ」

「なるほどぉ····· しばらくは見えないようにしてたんだ」

「意地が悪いな」


 そこには、外から見れば一発でわかるほど大きな拠点があり、先生たちが集まり採点や会議、そして多分解体したであろうガルドイェプの素材などが置かれていた。

 そう、ここは皆が目指していたゴール地点だったのだ。


「なっ第3分隊の他の生徒まで····· なんでわかったんだ」


「え?あれどこかしらここ····· あぁ目的地に到着したのね」


 が、本来ここは夕方ごろになるまで·····

 正確には授業であるため、授業終了時刻までは早く終わらせる事ができないという事情から、その時間になるまで隠匿の結界を展開して潜んでいたのだ。


 故に、他の分隊もいまだ見つけられず森の中で魔物を狩っているはずなのだが·····



「地図を見てたのよ、マークは済んでいたから隠れても無駄よ」



 ルクシアは事前にゴール地点を見て記憶しており、ぶつくさと言いながらも足は目的地へ向け一直線に進んでいたのだ。

 ·····というより、本来隠匿の結界は外部の対象の意識を逸らす事で『何となく近寄らず遠回りしよう』と動いてしまうため、侵入できなくなる効果がある。

 それに加え、入りたくないくらい深い藪の幻影を見せているため普通は入ろうとしない。


 が、ルクシアは生憎ずっと自分の絵が下手な事を指摘されショックを受けてそっちに思考が夢中で、目的地まで自動で足を動かしていたため結界の効果がうまく働かなかったのだ。


 結果、ルクシアはあっさりと隠匿の結界を超えて早めにゴールしてしまったという訳だった。



「どっ、どうされます?」

「見付けられたなら仕方ない····· ゴールはゴールという事にしよう」

「先程ドラゴンと、奇妙な正体不明のバケモノも出現しましたからね····· 生徒の危険も考え早めに来れるようにするのも良いかと」


「うっ·····」


 ルクシアは『正体不明のバケモノ』に心当たりがあったが、黙っておいた。

 これ以上、自分のプライドというか心を傷付けたら立ち直れない気がしたから。



「そっ、それで?私たちの処遇はどうなるのかしら?」


「あー····· 5分待ってくれるか?臨時職員会議をする」


「わかったわ」



 結局20分ほど待たされたが、その間ルクシア達は集めた魔物の素材を整理整頓したり休憩して過ごしたため、あっという間に過ぎ去って行った·····





 ガサガサッ·····


「ん?おっ!お前ら!目的地に到着だぜ!喜べ·····って、なんだテメェら先に着いてんのかよ」



 待つこと2時間後、藪の中から筋骨隆々な巨漢のマッハが現れ、その後ろから隊員が続々と現れた。

 どうやら第1分隊が到着したようだ。



 ちなみに、臨時職員会議の結果、演習は少し早めに切り上げる事が決まり昼過ぎには隠匿の結界を解除して来れるようにしていた。

 その1時間後くらいにようやく第1分隊がここを見付け、到着したという訳だ。



「あれ?元気そうね····· 道中でくたばってるかと思ったわ」

「はんッ、お前も····· 何だっけ?ナントカ魔法が無かったら野垂れ死んでた癖によ」


「はぁ····· 私は疲れてるのよ、ケンカする気も無いわ」

「いやケンカ吹っかけてきたのそっちだろ」


 マッハは冷静にツッコミを入れた。



「そうかしら?」

「チッ、まぁいい、先生この荷物どこに置きゃいいんだ?」


「こっちのテントに置いて下さい、私たちで査定するので」

「おぅわかったぜ」



 ツッコミを入れきれなくなったマッハは、持ってきた魔物の討伐の証拠を提出しに行ってしまった。


 そして別に他の隊が何を倒したのか等に興味のないルクシアは、全員揃うまでもう一眠りすることにしたのだった·····





 そんなこんなで寝て過ごすと時は光のように過ぎ去り、私が目覚めた頃には既に第2分隊も集まっていた。

 そして諸々の確認も終えたのか終了の集会に集まるよう号令がかかり、その声で私は目覚めた。


「んっ、んん〜····· ふぅ、よく寝たわ」


「おはよ、もう集まるよう言われてるから行くけど大丈夫?」

「ええ大丈夫よ、どうせ話は長いでしょうから立ったまま眠るわ」


「·····出来るの?」

「分からないわ」


 ルクシアはまだ眠気が残る目を擦りがら、集会へと向かった。




『えー以上となります、結果の発表は1週間後、それまでは休みとなりますが自主勉強は欠かさずやるように、部活のある生徒は登校しても構いません、ではこれにて終了とします、お疲れ様です』


「·····思ったより寝れなかったわ」

「だね·····」



 が、集会は今後の予定を伝えただけで終わってしまい、さっさと帰る事になってしまった。


 ルクシアもほぼ眠れず少し不満を漏らしていた。



『帰りはあちらに魔物馬車が用意されていますので翌朝には到着します、·····自前の移動手段があるという生徒は使わず帰っても構いません』


「·····そういえば山越えの道、あったわね」

「まぁそこを通ったら訓練になりませんわ、むしろ帰りもやらされるより楽ですわ」


「そうね、ふぅ····· 馬車の中で寝るかしら」


 ちなみに帰りは馬車だ。


 ルクシアたちが超えてきた山脈には、実はちょっと遠回りするだけで簡単に通れる幹線道路が通っている。

 昔ドラゴンがその辺を巣にするため攻撃して山を吹き飛ばしたせいで、そこだけ標高がかなり低くなっているのだ。


 今はそのドラゴンも去ってしまったため、人間が有効活用していた。


「元々は往来の難所やったらしいんけどな?これ出来たお陰でウチらも大助かりしとるんや!」

「コメリカは西方の国出身だったわよね?その恩恵を預かれて良かったじゃない」


「あーちゃうちゃう、ウチはその子孫や、もう800年前の話やからなぁ」



 ちなみにこれが起きたのは800年前の話でだいぶ昔だ。

 ·····800年前から存在しているコメリカの家系の商店は何気に超老舗の名家だ。



「まぁそれでも1日掛かるけどな····· 面倒臭い」


「そうね、だから私はお先に失礼するわ」

「はぁ?」


「ふふ、もう限界なのよ、寮のベッドでちゃんと寝たいわ····· 『ルクシオン』」

「あっ待て!」


 シュンッ!!



 ルクシアは隊員を置いて、光速で真っ先に寮へと帰って行ってしまったのだった。


 そして帰るなりすぐにシャワーを浴びてベッドに潜り込み、野宿では出来なかった熟睡を心ゆくまで堪能した。

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