ルクシアのバカンス
3日かかる演習を無事に終えた私は、貰えた長期連休を堪能していた。
「·····ふぅ、暑いわ」
「ジュース、イカガ?」
「えぇ貰うわ、何杯も申し訳ないわね」
「イエイエ」
その一日目は、とにかくのんびりしようと思い、とにかくのんびりと休んでいた。
「んっ····· ふぅ、やっぱり南国のフルーツの果汁は美味しいわね」
·····南国のリゾート地で。
ルクシアは絶海の孤島で自主練する過程で見付けていた、洋上の楽園にやって来て水着に着替えてバカンスを楽しんでいたのだ。
ちなみに普通に来ると、遥か西方のヴェルグ地方からここまで数ヶ月かけて船で来るか、私たちの国辺りからなら1ヶ月くらいかかる。
ここは商船航路の道中にあって、船乗りたちの休憩地点がリゾート地として発展した場所だ。
だからルクシアの言葉も拙いが伝わるし、お金だって使う事が出来た。
「キビニ群島····· いいわね、日差しも心地良いわ、それに水着もオシャレじゃない」
ちなみに水着は学校指定の物を持ってきていたが、このキビニ群島付近の民族が着ている服をアレンジして作った水着が売っていたため、それを購入した。
見た目はほぼビキニ型の水着で、この世界にしてはかなり珍しいオシャレな見た目だった。
が、ここは実際にはリゾート地というより『船乗りたちの休息所』だ。
つまり、ここには荒くれ者の多い船乗りが多数集まる訳で·····
「よぅ嬢ちゃん、そんなエロい格好して誘ってんだろ?」
「まぁー金は払うからよ?なぁいいだろ?」
「·····また来たのね」
しっかり美人な水着美女が1人で居たら、長い船旅で性欲を持て余した船乗りはゴブリンと同じくらいの知能になる。
ちなみに今来ている2人はまだ金で買おうとしてるだけマトモな方だ。
酷いと無言で服をその場に残してルパンダイブしてくる。
·····が。
「やめとくのよン」
「そうよぉン、アタシ達みたいになりたくないならねェン♡」
「あらそれよりオニイサン、結構イケてるジャナーイ、ウァターシたちと岩陰に行かないン?」
「ひっ!?なんだテメェら!?俺らソッチ系じゃねぇ!!」
「ってバッカマ!?お前なのか!?どうしちまったんだ!!」
「そこのコに股間蹴られたのよン」
既に数人に襲われて、全員即座に返り討ちにしていた。
それも割と遠慮なく股間を蹴り飛ばして。
流石に殺人は犯したくないから光速魔法は使わず自力で蹴り飛ばしていたが、鍛え抜かれた彼女の御御足は破城槌の如き破壊力を持つ。
そんなもので股間を蹴られたら·····
想像するのも恐ろしいことになる。
いや、そうなった結果があの様子のおかしい集団だ。
急に女々しくなり、女性用水着を身につけてやたら男に手を出そうとする怪しい集団がルクシアの周囲に出来てしまった。
爆発寸前の性欲がルクシアの蹴りの衝撃により破砕され、行き場のない欲求が思考回路を破滅させてしまったのだ。
「うふふん、姉御のヴァカンスの邪魔はさせないわよォーウ」
「というかアチシらの二の舞が増えるのを防ぐのよン!姉御の為にも!」
「·····ガチで痛ぇし姉御容赦しねぇからネェン♡」
「それが好きならいいけどやめとくのよン」
「·····悪寒がするぜ」
「あ、あぁ、他にいい女は沢山いるし別のヤツのとこ行くぜ」
悪い予感がした2人は、少し名残惜しそうにルクシアを見て、視線に割り込んできた厚化粧をしたオッサンを見て慌てて目を逸らして逃げていったのだった。
「さっ、姉御の平穏なヴァカーンスは守れたワ♡ これからも姉御を守るのヨ♡」
『『応♡』』
「·····静かに過ごさせてくれないかしら」
ルクシアも嫌そうな顔をして、ビーチチェアに横になりながら、嫌な物を見たくないとばかりに買ったばかりの麦わら帽子を顔に被せた。
◇
その後、オカマ(仮)達により黒髪黒目の巨乳美人には絶対手を出すなというウワサがあっという間に広まった。
そのお陰で少しセクシーな格好をしていてもルクシアは襲われることなく、のんびりと砂浜でくつろげていた。
ちなみに変質者たちは半分正気に戻ったのか、既にルクシアの近くから離れて各自の船に戻っていた。
「·····白い砂浜、白い雲、青い海、青い空、日光浴には最高ね」
ジリジリと焼くような南国の日差しも、ルクシアにとっては関係ない。
その体表で紫外線を魔力に変換し、体内に還元しているから日焼けすることも無く、むしろ魔力が溜まり続け元気になってきていた。
「うん、順調に『煌玉』も集まってきたわね」
更に、新たな魔法である新鮮な太陽光を固めた光の玉『煌玉』を多数生成し、貯蓄もしていた。
当然光源になり、いざとなれば閃光弾にもなり、投げれば光の弾丸となり、魔力補給用の回復剤にもなる優れ物だ。
それを無限に作れる南国バカンスは、ルクシアにとって最高の贅沢だった。
「次は何をしようかしら····· 一瞬で世界中に行けるからこそ、何処に行くか迷うわね」
トロピカルなフルーツジュースをキュッと飲みながら、もう数時間はぐうたらしていた彼女は、また何処に行くか悩んでいた。
光は速い。
この星ならたった1秒で何処へでも行ける。
だからこそ、選択肢が多すぎて選びきれなくなっていた。
「·····面倒ね、今はここでいいわ」
が、色々考える前に今はこの場所を堪能することにしたのだった。
◇
ざざーん·····
ざぱーん·····
「·····はぁ、せっかく海に来たのなら泳ぐべきなんでしょうけど、あまり得意じゃないのよね」
満足するまで日光浴を楽しんだルクシアは····· というよりも日光浴に飽きたルクシアはようやく海に入る気になった。
しかし波打ち際に来ると、その足が止まってしまった。
実は文武両道な彼女でも、泳ぎはあまり得意では無い。
彼女の出身地は内陸で海が無く、あっても広い河川か池くらいで泳ぐ機会がなかったため、苦手なのだ。
でも海に来たのなら泳がないと勿体ないのよね、水着も買ってしまったし·····
「はぁ、別に溺れても光になれば平気よね」
覚悟を決めた私は、熱せられた砂浜から波打ち際へと足を踏み込んだ。
「ひゃっ!ビックリしたわ·····」
すると波が足を飲み込み、舞い上がった砂が足の感覚を刺激して、私は驚いて変な声を出してしまった。
·····実はちゃんと海に来て泳ぐの初めてなのよ。
こんな感じなのね、面白いわ。
「さて、どれくらい泳げるかしら?」
ザブザブッ
「結構冷たいのね、気持ちいいわ·····」
腰あたりまで来た海水の温度は丁度いいくらいの冷たさで、火照っていた体が冷やされて心地よかった。
そして私の中に、早く泳ぎたいという気持ちが生まれ、私はそれに従うことにした。
「このあたりからなら泳げるかしら?せぇのっ·····」
ざぶっ
「〜〜〜〜〜っ!!?」
·····けれど、海水に顔をつけた途端に目に針でも刺されたかのような痛みが襲ってきた。
海水って、こんなに目に染みるのね·····
「けほっけほっ····· ·····無理ね」
私は即、泳ぐ事を諦めた。
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