危険を冒し金を得る
「困ったわね」
「どうしたんですわ?」
私は困っていた。
学院の食堂の支払い口の前で、私は困り果てていた。
それもそのはず、私の財布の中身が無くなっていたからだ。
「財布の中身がほぼ無くなってるのよ」
「え!?大変な事ですわよ!?誰ですルクシアさんのお金を盗むぐっ!?」
私はオーロラの口を光速で塞いだ。
「·····買い物しすぎたのよ、恥ずかしいから言わないで頂戴?」
·····先日の露天市場で使いすぎてしまい、財布の中身が非常にマズい事になってるのよ。
私は学生で、あまりバイトも出来ないから親からの仕送りで何とかやりくりしているのよね。
·····親が貴族で一応領地もあって、収入が結構あるため仕送りは多いのだけれど、この前みたいな買い物をしすぎるとあっと今にお金が無くなってしまう。
現に財布の中身は1500イェン程度しか入っていなかった。
ちなみに今頼んだ学食は700イェンのハンバーグ定食だ。
こうなるんだったら安いヘルシー定食にでもしておくべきだったかしら·····
「お金が無いのなら私が支払って差し上げますわよ?」
「施しを受ける程じゃないわ、ただこの先どうするべきかしら·····」
仕送りまではまだ2週間はあるはず、しかも次の休日まであと3日もある。
朝昼晩の食事の事を考えると、どうにかしてすぐにでもお金を稼ぐ必要がある。
「·····そうね、ちょっと色々試してみようかしら」
「何をするんですの?ま、まさかその豊満なお身体をですわ·····!?」
「しないわよ、ただ少し危険かもしれないわ」
「どういうことですわ?」
「ちょっとアテがあるのよ」
◇
「·····あの、本当に良いのですか?この荷物ははるか先、5000マイレにある国ガンディーラの首都のギルドに届ける物でキャラバン専用の依頼なのですが」
「いいわよ、昼休みがあと30分で終わりなの、早く手続きを終わらせてくれるかしら?」
私はギルドにやってきていた。
そしてとある依頼を受けようとしていた。
その依頼は、荷物の配達だ。
この依頼は私の暮らすスィーエンス皇国から遥か西方にある国、ガンディーラの首都のギルドに荷物を届けるという内容だ。
その達成報酬はなんと200万イェン、通常の依頼の数百倍はするとんでもなく高い報酬だ。
それもそのはず、この国とガンディーラは交易路でつながっていてよくキャラバンが行き来していて、だいたい200日ほどかけて移動する道の終着点に荷物を届けるのだから、依頼料は物凄く高くなる。
今回運ぶ荷物は個人的な贈り物やギルド同士の書類などをまとめた物(総重量約22ドンポ(約10kg)の木箱)で、私が持って運べる程度の余り大きくないサイズだ。
荷物が大きい代わりに報酬が高い依頼もあったのだけれど、今回はお試しかつ私が運べる大きさで受けられるものがあったからコレにしてみた。
「·····途中での荷物の破棄や、虚偽の達成報告による報酬受け取り詐欺は厳罰が下されますが、本気で言っているんですか?」
「えぇ本気よ?」
「はぁ····· こういう調子に乗った新人冒険者が毎年問題を起こして迷惑なんですよね·····」
『いいではないか、やらせてあげなさい』
「·····誰かしら」
受け付けの職員と私が揉めていると、ギルドの受け付けの奥から声が聞こえて来た。
そして無精ひげを生やした元冒険者のような軍人にも見えるガタイの良い男が出てきて私に自己紹介をしてきた。
「ハルディン、鋼鉄のハルディンと聞けばわかるか?」
「誰かしら」
「·····最近の若者は知らないかもな」
「貴方が活躍したの30年以上前ですものね」
ちなみに彼は『鋼鉄』のハルディンと言い、王都防衛隊の元隊長の1人で魔族の大規模な襲撃から王都を完全に守り切った英雄のうちの1人だ。
今は引退し、この町のギルドマスターをやっている。
·····が、結構昔の話のため、最近の学院生は知らない事が多い。
「それで、受けさせてくれるのかしら?」
「いや·····」
「いいぞ、鼻っ面が伸びた若いもんは一度へし折られてからが本番だ、一回ブチ折ってやれ」
「ですが····· はぁ、仕方ありませんね、先日のスリムオークの依頼が失敗····· 目標が居る場所が消し飛んだので完全な失敗ではありませんが、次の失敗で降格となりますので気をつけてください」
なにやらいろいろな思惑があったりデメリットがあったりゴタついたりしているようだが、依頼を受けさせてくれそうだ。
まったく、受けさせてくれるのならさっさとやってくれればいいのに。
「·····これが荷物です、どう運びますか?」
「背負えるように····· なってるわね」
「荷馬車まで運ぶための物ですから、·····まさかとは思いますが、背負って歩いて向かうつもりですか」
「違うわよ、もっと早い方法よ」
「はぁ·····?」
◇
無事に依頼を受ける事に成功した私は、22ドンポもある重い木箱を背負い町の外へと出てきていた。
「ふぅ、流石に22ドンポもあると重さを軽くしないと疲れるわね」
そして荷物を背負ったまま、私ははるか先の5000マイレにあるガンディーラの首都に向かおうと準備をしていた。
ちなみに昼休みは残り20分、早く行って向こうで手続きを終わらせて報酬を受け取って帰らないと授業に間に合わなくなる。
余談だが、ガンディーラでは彼女の話す言語は通じないが、依頼達成手続きなどに必要な書類やギルドに行った時に話す言葉に関しては、依頼主の親切心なのかあらかじめ手紙が付属していたため問題なかった。
なおかつ、ギルドの証は全世界共通で達成を記録する魔導機械も共通のため、向こうで達成報告をすればお金を貰えるため、わざわざギルドに戻ってくる必要は無い。
~閑話休題~
「さて、まずは場所を特定するわ、『千里眼』」
·····実は、この依頼を受ける決め手となった事がこの前あった。
前に私が造った『千里眼』の魔法で暇つぶしで世界中を見ていたのだけれど、その時にガンディーラの首都を偶然見つけていたのよ。
とても大きな都市だったからすぐにわかったわ。
そして今回も視界を天高く飛ばし、この星が丸く見えるほど遠くまで飛ばし、そして目的地が見えた。
不思議な、この国とは全く違う石造りの家が雑多に立ち並ぶ都市が見え、各国共通で掲げられるギルドの看板もある大きな都市だ。
文字は読めないけれど、ギルドの建物に書かれた文字は私がさっき見た目的地の文字と全く同じで、ここが目指す場所だとすぐにわかった。
「見つけたわ、じゃあ早速やるかしら····· 『ルクシオン』!!」
カッッッ!!!
目的地を見つけた私は、『ルクシオン』を発動して荷物まで光へと変換した。
そして軽く地面を蹴った次の瞬間、私の体は天高くにまで移動していた。
(·····綺麗ね)
到達した高度は約7.5マイレ(約120km)、いわゆる熱圏と呼ばれるオーロラが出現するほどの高度だ。
この高度から地上を見下ろすと、自分が暮らす国や他の国々がはっきりと見える非常に美しい景色を見る事ができた。
·····一瞬でこの星を何周も出来る光速に至る魔法『ルクシオン』にとっては地上のありとあらゆる物が行動を阻害する邪魔者となる。
だからその移動を邪魔する物の無い高度まで来てから移動を始める合理的な判断を取っていた。
更に熱圏では酸素が全く無く呼吸は出来ないが、全てを光に置き換えた彼女に呼吸は不要で同様に温度に関しても問題なく活動できた。
強いて言うならば、呼吸に伴う発声が不可能なため会話が出来ない事が欠点だろうか。
(っと、見とれてる暇はないわ、もう授業が始まっちゃうもの)
私は目的地の方を見ると、ルクシオンを利用してそちらに体を動かし始めたその次の瞬間に、目的地のガンディーラの首都の上空へ到達していた。
光速の前に、5000マイレの距離は近所というレベルではない程に近すぎたのだ。
(のこり12分、大丈夫そうね)
私は地上の裏路地へ向けて光となった体を向かわせると、あっという間に地上にたどり着いた。
地上に到着したルクシアは『ルクシオン』を解除すると、大きく深呼吸をしt
「へくしゅっ!!うぅ····· なんだか変な匂いね、スパイスの香りかしら·····はっ、こっちでスパイスを買って向こうで売れば儲けられるんじゃないかしら!? でも今はお金がない·····いえこの後貰えるわね、買って帰るとするわ、ふふっ·····」
悪だくみを思いついたルクシアは、笑みを浮かべながらギルドへ入り依頼を達成しお金を受け取った。
·····が、受付日を確認した職員が信じてくれずゴタつき、こっちのギルドマスターが出てきて荷物を開けて中身を確認して本物と確認できるまで完了手続きが終わらないというトラブルが起きていた。
更にその後授業開始時間の事をすっかり忘れスパイスをしこたま10万イェン分買い漁ったルクシアが、授業開始時刻をとっくに過ぎている事に気づくのは30分後の話だった·····
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