ルクシアの平穏な休日
「よく見えるわ、·····この町ってこんな景色だったのね」
翌日、ルビーが黙々と作業を続けてくれたお陰もあり完成したメガネを掛け、ルクシアは街へと繰り出していた。
そしてそのメガネの調子は良く、今まではボヤけて見えていた景色も、何処までも鮮明に映っていた。
「·····これなら、命中率も上がるかしら」
今まではボヤけて見えにくい的を狙うのは難しかったが、このメガネと魔法があれば何とかなる、そんな気がしてきた。
「よぉ嬢ちゃん、ウチの店のフトモモダイコンは安いぜ!·····ってなんだその見慣れねぇメガネは」
「友達に作って貰ったのよ、レンズに関しては魔法で····· 待ちなさいフトモモダイコンって何よ」
「よくぞ聞いてくれた!フトモモダイコンは太ももみてぇな大根の魔物だぜ!!いいだろぅこの御御足はよぉ」
「そ、そう·····」
変な大根の魔物を勧められたルクシアは、かなり困惑した。
そしてそこで気がついた。
今まであまり良く見えていなくて気にしていなかったが、この町の商店街には変なものが大量に置いてある事に。
「安いよ安いよ!マッスルマッシュが今なら5000イェンっよォ!」
「今朝とれたて新鮮なバスケットスッポンダケ、今なら1500イェンだ」
「さぁさ買うたさぁ買うた!色良し!味良し!器量良しッ!バナナが安いよ!!!」
「ウチの畑で採れたてのソナツマシとかあるよ、見てきな!」
「·····野菜市場なのかしら」
「シルバーのアクセサリー、オーダーも受けてる、見てけ」
「エルフ特製の張形はいかがかしらぁ?良い木材を丁寧に磨いてるから痛くないわよぉ·····『こら貴様!サキュバスだろ!!』あら警邏兵ね撤収よ、うふふふっ」
「魔物素材、なんでも揃ってるぜ」
「と思ったけれど、変な物も売ってるわね····· ちょっと気になる物もありそうね」
視力の悪かったルクシアは気が付かなかったが、この町の露天市場では割と変なものが色々売っている。
なんならサキュバスが来て変なモノを売っていたりと、カオスさが極まる場所だ。
そして初めて気がついたルクシアは、露天市場に興味津々だった。
「へぇ、これ面白いわね」
「おっ?嬢ちゃんいい目をしているな、そりゃ伝説の剣より強ぇ武器だぜ」
ルクシアがまず気になったのは、冒険者らしき男がやっていた店の商品だ。
この店に置かれている物は、どうやらダンジョンから出てきた発掘武器のようで、特殊な効果があったりなかったり、価値がありそうだけれど通常買取だと安く買われそうな不思議なコインなどがあった。
その中でもルクシアが気になったのは·····
「でもこれ、ただの木の棒じゃないかしら·····」
「そうだぜ?まぁ変に湾曲してる剣みたいな棒なんだけどよ、それがまァ強ぇんだ」
ただの木刀だった。
この世界に刀は存在しないので正確には若干反っている木の棒なのだが、ある効果が付いているため捨てたり薪にされずに持ち帰られた物だ。
「金剛不壊ってどんな効果かしら」
「簡単に言うとな、それどんな扱い方しても壊れねぇんだよ」
「へぇ?」
この世界の武器や防具や道具、アクセサリーなどには稀に特殊な魔導的な力が付与される事がある。
例えば切れば燃える剣や、水が湧き出すコップ、防御障壁を展開するネックレスなどなど、様々な物がある。
その中でも、最強と言われる特殊効果がある。
それが『金剛不壊』だ。
一言で言うと、どんな事をしても魔力を流している間は絶対に壊れない効果だ。
その効果は凄まじく、過去の記録では金剛不壊の効果が付与された伝説の鎧を着けた勇者が巨大なドラゴンに踏まれたが、一切歪むことも無く耐えたと言われている。
·····が、この金剛不壊には弱点もある。
消費魔力が尋常ではないのだ。
その消費量はモノにより異なるが伝説の鎧では1秒間に1000も消費し、長く効果を出すことは不可能な代物だった。
だが例えば普通の木のスプーンにこの『金剛不壊』の効果が付与された場合、その消費量はたったの3となる。
つまり金剛不壊が付与されたモノの性質などによりその効果に対する代償が大きくなるのだ。
で、この木刀はというと·····
「消費魔力は30、毎秒だからちと高ぇんだけどよ、案外便利なもんだぜ?」
「なるほど、なかなかいいわね」
消費量は毎秒30、ルクシアの魔力の自然回復量より遥かに少ないため、永続的に効果を付与できるだろう。
そしてルクシアはとある事を思いついた。
「私が全力で武器を振ったら壊れるのよね····· でも壊れないのなら助かるわ」
「どういう事だ?嬢ちゃんが振るだけで壊すほど筋力あるとは思えねぇけどな」
「振る速度が速いのよ、だから普通の武器が耐えられないって訳ね」
ルクシアは亜光速で動く事が出来る。
だが、その速度で動く事に耐えられる物はあまり多くない。
というか、大気圏内で亜光速を出して無事で済む物質なんぞこの世に存在しない。
·····が、この棒が『
そしてもし耐えるのなら、私にとってはオリハルコンの剣より遥かに強い武器となってくれるだろう。
「良いわね、買うわ」
「おっ?買ってくれんのか?いや助かるぜ、意外とデカくて邪魔なんだよなそれ」
「そうなのね、ちなみに幾らかしら?」
「そうだな····· なんかダンジョンで会ったユーシャ?だかって名乗ってる変な強ぇ奴がもう使わねぇからってくれたんだよな····· レアそうだし高めでいいか?」
「·····値段によるわ」
「そうだなァ····· 5000イェンでどうだ?木の棒なんて何の役にも立たねぇからよ」
「良いわ、取引成立ね」
という訳で、ルクシアは無事に絶対に壊れない木の棒を手に入れたのだった。
「·····所で、持ち手っぽい方にあるこの彫刻は何かしら?」
「さぁな?あーそういやソレをくれた奴が『俺の世界の言葉で太陽の光って意味だ』って言ってたぜ?」
「へぇ、太陽光ね、なかなかいいじゃない気に入ったわ、感謝するわ」
「へへっ、毎度あり」
そうしてルクシアは良さげな木の棒を担ぎ、また市場をめぐり始めた。
·····その木刀の柄には『日光』と彫られていた。
◇
その後もルクシアは買い物を続けていた。
「この服良いわね、·····何処で仕入れたのかしら?」
「貴族様がいらないからって捨ててたモンらしいですよ?いやーでも、アンタに似合うか·····?」
「これいいブランドの服なのよ?うんサイズも合うわね····· 買うわ」
「それ割となんて言うか、カワイイ向けっていうか、アンタかっこいい系だから似合うかねぇ·····」
「似合うわよ?」
そう言ってルクシアが買ったのは、見た目的には日本で売られている『地雷系ファッション(黒のゴスロリ系)』に近い貴族の着ていたフリル等でゴリゴリに装飾されたシスター服にも似たような感じの服だった。
そしてそれを買おうとしているルクシアは割と高身長の凛々しい顔つきのため、露天商が困惑するのも仕方ない。
「·····ってよく見たら、似たような服着てんのな」
「えぇ、似合っているでしょう?」
で、実はルクシアは可愛いモノ好きな性格だ。
まぁ彼女の『可愛い』の感性は割とカッコ良さげな方に近いのだが、総合的に見れば間違いなく可愛い物好きだった。
それ故に彼女は制服以外では可愛いと感じる服をいつも着ているため、割と周囲からは浮いていた。
「今日は王都のブランド、サブルカの服よ」
「へ、へぇ·····」
今日の彼女の服は、いわゆる黒色のサブカル系のチェーン多めな服装だ。
それが彼女の凛々しい顔つきと合わさり、異様な威圧感を持つほどの仕上がりとなっていた。
「じゃあ····· 7500イェン!?安すぎるわね····· 本当に良いのかしら」
「まぁ、良いですけど·····」
「買ったわ、ふふっ帰って着るのが楽しみね」
「·····すげぇもん見たなぁ」
木刀を背負ったチェーンごりごりなサブカル系ルクシアは、ホクホク顔でまたほかの店へ向かって行ったのだった。
·····実はこの露天市場、色々と危ない場所のため魔法学院の生徒には『近寄らないように』と言われている場所なのだが、ルクシアは誰にも絡まれなかった。
いや、なんかヤバい奇抜な服装をした木刀を背負った女学生が嬉しそうな顔で歩いてきたら、誰だって話しかけたくないに決まっているが·····
それを知らないルクシアは、露天市場の奥深くへと消えていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます