遠くが見えないなら景色を持ってくれば良いじゃない



 翌日


 私は寮の自分の部屋で休んでいた。


 ·····謹慎になった訳じゃないわよ?

 今日は普通に魔法学院が休みで、暇だから部屋でくつろいでいるだけよ。



「·····光速魔法、本当に素晴らしい魔法ね」



 ちなみに今は、光速魔法で新たに何が出来るかを考えている所だ。


「ちょっとルクシアちゃん、服着てよ!」

「いいじゃない、ルビーしか居ないのだから、それにちゃんと着けてるじゃない」


「下着は服に入らないよぅ!!」



 ·····まぁ、同室のルビーが居るから、時々話しかけられて中断させられてしまうけれど。


 ちなみに私は部屋では服は着ない派だ、だって邪魔だもの。

 特に夏場は暑くて服を着る余裕なんて無いわ、だから下着だけで過ごしてるのよ。



「·····ねぇルビー、ちょっといいかしら?」


「なに?·····聞いたら服着てくれる?」


「まぁ、望む答えが返ってきたら考えるわ」

「じゃあいいよ」


「私って目が悪いじゃない?治す魔法って無いかしら」

「無い」


「·····そう、回復魔法って不便なのね」


「違うから!!わたしの魔法は怪我を治すのがメインだから!!病気とかは治癒魔法が専門だからわたしは出来ないの!!」



 ちょっと解説すると、治癒魔法は外科的な傷を治す魔法の総称で、回復魔法は風邪などの内科的な症状を回復する事に向いている魔法の総称だ。


 ただ完全に分けられた訳ではなく、治癒魔法の傷を治す『ヒール』は回復魔法分野の胃潰瘍を治したり出来るし、回復魔法の『アンチドート解毒』は傷口に入った毒や雑菌を除去する事にも使える。


 そしてルビーは2つの魔法のうち、外科的な傷を治す魔法を主に使う治癒魔法使いだった。



 だから、視力の低下を治す魔法は使えないのだ。


 ·····というより、そもそもの話そんな魔法は存在していない。

 一応目の構造を詳しく理解し、どこを治癒すれば視力に影響するかを判断出来れば可能だが、この世界の一般的に普及している魔導医学ではまだ不可能だ。



「やっぱりそうなのね····· メガネ、買うべきかしら」


「でもメガネって·····」


「高いわ、この服を5着は買えるわよ」

「へー····· って、そのブラジャーとショーツそんな高いの!?えーっと·····えっ!?だいたい2万イェンもするの!!?わたしの3000イェンくらいなのに·····」


「私は胸が大きいから基本オーダーメイドなのよ、市販の物がほぼ無い上に合わないし、動くと胸が邪魔なのよね、はぁ····· もう少し小さければいいのに」


「·····コロス」


「何か言ったかしら?」

「イッテナイヨ」



 ちなみにルビーは慎ましいサイズかつ、それにコンプレックスを抱いているタイプだ。


 ただ、今回はルクシアもルビーの事を煽った訳ではなく事実を述べただけだ。

 まぁそれがルビーを傷付けたのだが、この世界ではまだ衣服の工業的な量産はあまり行えておらず、魔動機械による紡績は実現しているがそれでもまだ衣服は高い。


 その中でも下着は割高で、更にルクシアくらいのサイズとなると市販品が存在していないため、オーダーメイドかセミオーダーでないと購入が出来ないのだ。

 だから必然的に高くなるという仕組みだ。


 そしてそのため、ルクシアが身につける下着は市販品よりもレースや凝った装飾が多く施されており、現代の高級ランジェリーとあまり変わりないデザインとなっている。

 ちなみに着け心地も良いらしい。



 〜閑話休題〜


 またこの世界のメガネは下着よりも更に高く、1本あたり10万イェンを超えている。

 レンズの製造が難しいからだ。


 更に視力調整もあまり正確ではないため、劇的に目が良くなる訳でもない。



 そして更に彼女たち女学生にとっては致命的な欠点がある。



「デザインが悪いのよね、何とかならないかしら」

「むりなんじゃない?わたしは分からないけど」


 そう、見た目が良くないのだ。


 その見た目はいわゆる瓶底メガネのような、丸く分厚いオシャレさの欠片もないデザインのため、ルクシアも随分昔から目が悪いが未だにメガネを掛けていなかった。



「でもさルクシアちゃん」


「何かしら?」


「近くのものなら普通に見えるんでしょ?だったら光魔法でどうにかならないの?」


「·····あ」


 盲点だったわ。

 確かに、光魔法を上手く利用すれば遠くの景色が見れるかもしれない。


 なら早速試すべきね。



「やってみるわ、·····遠くから届く光を光速魔法で集めて私の目元に届けさせる魔法よね、·····できたわ」


「できたの!?早くない!?」


「名付けて『鷹の目』よ、さてどうかしら?」



 私の目は遠くの物に対してピントが合わなくなるようになっている。

 だから光魔法でその光を集め、目の前に光を出せば否応なしにピントが合うはずよ。



 ちなみにこの魔法の理論を現代風に解釈すると、近視の人がスマホのカメラを通して画面に映る鮮明な景色を見るようなイメージだ。


 目のピントを合わせる機能が低下しているため、それを第三者に補って貰う事で擬似的に視力を回復しているため、実際には目が良くなった訳では無いが、結果的には視力が回復しているようになる。



「·····見えるわ、今まで見えなかった物も、全部見えるようになったわ!画期的な魔法ね、これは!」


「え、ええぇ····· 出来ちゃうんだ·····」


 そして鷹の目を発動したルクシアの視力は劇的に回復し、はるか遠くまで見渡せるようになった。


 ·····が、問題もあった。



「ただ、目に光を集めるのを維持するのが大変ね····· かなり集中力が必要そうよ」


「だよね」


 流石のルクシアでも、目に光を集めて景色を見続けるよう魔法を展開するのは難しく、気を抜けばピントや位置がズレて酷いことになってしまうようだった。


 ただ、魔法の場所を固定し続けるのが難しいだけで、展開自体は何時間でも可能そうだった。


 これで何か目の前に魔法を安定して展開できる装備でもあれば良いのだが·····



「·····そうよ、この魔法ならレンズの形に囚われないから、いいデザインの眼鏡を自分で作れば良いんだわ」


「え?·····まって、ルクシアちゃんってあんまり器用じゃなかったよね?ってことは·····」

「えぇ、ルビーは人形作りとか小物を作るのが得意でしょう?頼むわ」


「えー·····」

「服はちゃんと着るようにするわ、だからお願いしてもいいかしら」


「·····お金は取るよ?」

「もちろんよ、ちゃんと払うわ」



 ルクシアは、ルームメイトのルビーに自分の伊達メガネを作って貰うことにした。


 それも普通に普及している瓶底メガネのようなデザインではなく、現代で普及しているオシャレなデザインの眼鏡を作らせようとしているのだ。



 だいぶ非常識な事をしようとしているのだが、ルクシアはもう既に常識なんて吹っ飛んでるためあまり気にしていなかった。







【オマケ】



 カチャカチャ·····

 カチッ、ボォォオオオッ!!


 ジュゥゥウウウウッ·····



「·····で、ルクシアちゃん」


「何かしら?」


 数時間後、ルビーが趣味用に作ったお手製の金属加工台でメガネのパーツを溶接し冷却しながら、約束通りちゃんと服を着たルクシアへと話しかけた。



「いまそれさ、何してるの?」


「遠くの光を持ってこれるのだから、肉眼では見えない場所も魔法で持ってくれば見れると思ってやってみてるのよ」


 ルクシアの目の前には、中に浮かぶ実体の無い窓が浮いていた。

 現代に例えるなら、ホログラムのディスプレイたろう。

 いや現代にホログラムディスプレイなんてまだ無いが、最も似ているのはそれだった。


 そしてそこに映る景色は、ルクシア達が通う魔法学院の上空からの映像だ。

 ルクシアは暇潰しに色々考えた結果、光を捻じ曲げる事で本来見れない場所も見る事が出来るようになっていたのだ。


 そう、いつの間にか千里眼を獲得してしまっていた。



「えええっ!?それ魔法学院を上から見た景色!?すっごーい····· ねぇどんな所でも見れるの?」


「えぇ、光が完全に遮られる密室の中とか暗闇の中とかでなければ可能よ」


 ルクシアは映る景色を切り替え、町全体の景色や上空から見た山々などを画面へと写し、最後は自室へと視点を戻した。



 そしてそう聞いたルビーは、一瞬凄く悪い顔をした後恥ずかしそうに顔を赤らめ、ルクシアへとお願いをした。


「ね、ねぇ、そろそろ男子が入浴の時間だったと思うんだけどさ、その〜····· ラルゴが居ないかとか見れない·····?」


「私に覗きの共犯者になってくれって事かしら?」

「ちちちちちちちがっ、その····· 気になっただけ!」


 ちなみにルビーの想い人はラルゴという同級生だ。

 そしてルビーはそのラルゴの裸が気になるようで、ルクシアに覗き見をして貰おうと画策したのだ。


 もちろんそんな行為は犯罪行為だし、許される行為では無い。



「良いわよ?」

「え?」


 が、ルクシアは罪悪感が先日の大爆発のせいでカンストしていたため、盗み見程度なら別に·····というイカれた感覚になってしまっていた。


「ただ場所が何処か知らないのよね、ちょっと待ちなさい」

「えっ、いいの?」


「メガネを作ってくれる報酬よ」


 そう言うとルクシアは男用の共同浴場を探し始めた。

 ちなみに魔法学院のあるこの町は火山地帯の近くにあり、町の近くで温泉が湧いているため寮にも温泉がひかれており、珍しく入浴が可能な寮となっている。



「あったわ、湯気からしてここで間違いないわね」


「ほんと!?見せて見せて!!」

「ちょ、押さないでくれるかしら、キツいわ」


 ルクシアが男風呂を見つけた瞬間、ルビーが飛び付いてきて画面を覗き込んだ。


「ってまだ外からじゃん」

「今から入るのよ、·····こういう禁止された事をこっそりするのって何だかワクワクするわね、ちょっと楽しいわ」


「うんうん、だから早く早く」


 男子高校生のようなノリの年齢的に女子高生の2人は、早速千里眼を風呂場に潜入させその秘密の薔薇園を覗き·····



「·····」

「·····」


「·····おえ」

「ここで吐かないで頂戴?はぁ····· やっぱり男子ってバカなのね」


 が、画面に映ったのはマッハ率いるムキムキ軍団が何故か風呂場で取っ組み合いのレスリングらしき格闘技をしてる、画面越しでも蒸し暑さと臭さが伝わってきそうな酷い光景だった。

 当然全員全裸なため、絵面はもう筆舌に尽くし難いほど最悪だ。


 もうお目当ての男子を探す気も失せた2人は、千里眼を解除して部屋で大人しくする事にしたのだった。




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