光から戻れるのなら



 私は閃いた。



「ルクシア、昨日まで右手無かったよね?」


「えぇ、でも治したわ」


「どうやって!?どうやってそんな高度な治療魔法を!?」

「触らせてくれねぇから分かんねぇんだけどよ、マジで本物の腕なのか?」

「本物の腕ですわ、このオーロラの審美眼に間違いはありませんわ!!」

「·····オーロラさん、この前なんか偽物掴まされてませんでした?」



 右手が治った翌日、私は普通に登校してクラスに入ると、早速クラスメイトが治っていた右手に驚き、集まり始めた。

 特に近付いてきたのは、治癒魔法使いのルビーでどう私の腕を治したのか聞き出そうとしてきた。


 別に隠すことでもないから、私はあっさりと答える事にした。



「体を1度光に変換して、失った部位を光で作ったあと元に戻ればいいのよ、簡単でしょう?」


「··········????」

「あら、理解できなかった?ええと····· 実演は痛いからしたくないのだけど·····」


「じっ、実演なんかしないで!?でも、ええと·····?」

「·····おい、俺バカだから分かんねぇんだけどよぉ、アイツいまだいぶ変な事言ったよな?」

「ですわ」


「だから、私が光になれるのなら光を私に変換する事だって出来るじゃない?それで私の手を光で作れば、イコールでそれは私の手になるのよ」


「絶対間違ってる·····」


「でも事実こうなってるのだから、間違ってないわよ?」


「ああもう!そんなんがまかり通ったらわたしの役割無くなっちゃうよ!!!」



 そう叫んだルビーは、頭を掻きむしった。

 フィジクス先生も同じような反応をしていた事から察すると、やはり相当おかしい事らしい。



「私が悪かったわよ、ルビーの回復魔法だって凄いじゃない、いつか欠損の回復まで出来るようになるわよ」


「うん·····」


 私はルビーの回復魔法を褒めてあげて、錯乱状態だったルビーを落ち着かせたのだった。




 その後、座学の先生にも腕が治った事に驚かれたしもしたけれど無事に授業は進行した。


 もっとも、私はまだ右手が完全に治った訳ではなくて、若干の痺れが残っていて文字が書きにくかったから、既に予習した範囲だったから暫くリハビリに専念したのだけど。

 そのお陰もあって、ほぼ元通りの文字をかけるようになった。



 それはさておき、今の授業は半分くらい実技の魔法理論の授業だ。



「えー、魔力とは太陽光や地中の地脈などから供給される物であるからして、我々はその魔力に自身の魔力で術式を書き込み魔法へ変化させてるであるからして、つまり魔法は基本的に魔力で出来ている物であるからして、体内に取り込んだ魔力を術式により変換する事で魔法へ変換してるからしてですね、つまりー、魔法は魔力であるからして〜」



「·····ルクシアちゃん、わかりやすくまとめてくれない?あとあの先生、今日は何回『〜であるからして』って言った??」


「20回目よ、それに分かりにくいわよね····· 同じこと2回も言ってるし」


 ただ、この魔法理論の先生の授業は物凄く分かりにくい。

 元々は魔法学界の権威で引退後に魔法学校で教授をしているご年配のボケジジ····· ご老人だから仕方ないのだけど、分かりにくすぎるわ。


 ちなみに口癖は『〜であるからして』よ、過去最高記録は1回の授業で57回ね。

 あの授業は酷かったわ。



「つまりそうであるからして、魔法は術式を破壊すれば魔力に戻す事も出来るのですな、であるからして魔法の防御に応用する事も可能であるからして〜、では実技の時間にするであるからしてたってペアを組むように」


「·····あっ」


 24回目ね、なかなか早いペースよ。

 じゃないわ、今先生何か物凄く重要なことを言ってなかったかしら?


 分かりにくくてまだ理解しきれて居ないのだけれど·····


「魔法は上手く術式を破壊すれば魔力へと戻せるそうよ、でもそれって·····」

「それがどうしたの?」


「·····行けるかもしれないわ」


「なにが??」

「そうよいけるわ!だって教授が言ったんだもの!!『太陽光を取り込めば光から魔力を無尽に吸収出来る』のよね!!」


「ルクシア君、儂はそんな事言ってないであるからして〜」


「そうなれば早速試すしかないわね!ルビー、私とペアを組みなさい」

「う、うん、いいけど·····」


「ちっ、俺様と組ませてやろうと思ってたのに·····」

「風の速さの癖に行動はおせぇな!アッハハ!あっまって殴るなお前が殴ったら俺が死ぬ」



 なんか周囲が騒がしいけどそんなことはどうでもいい。

 先生の言っていた、現象から魔力へ変換·····だったかしら、説明が分かりにくくてうろ覚えだけれど、とりあえず新しい理論を試すのが先よ。


  現に『私→光』と『光→私』は成功しているのだから、『私の魔力→光』と『光→私の魔力』だって成り立つはずよ。

 (※成り立ちません)




 なお、ルクシアはまた酷い勘違いをしている。


 確かに太陽光や月光は魔力の供給源だが、光に混じって魔力も届いているだけで光は通常の太陽と同じ核融合反応による光が届いているだけだ。


 だから光を魔力に戻すということは不可能で、更に言えばこの理論も教授が言った理論も魔法の半分にしか当てはまらない。



 魔法を発動すると出てくる事象の出処は魔力で構築された訳ではなく、魔力で周囲から該当する物を集めている場合が多い。

 ただ、周囲に該当する物質がない場合(砂漠地帯で水魔法を使う場合や、洞窟内で光魔法を使う場合など)は、魔力が一時的に水や光を再現する事で発現するため、術式破壊を行えば魔力にする事が出来るという訳だ。


 また、周囲から物質を集めるタイプの魔法の場合でもその集める術式を破壊する事で形状を崩壊させ魔力へと戻す事が出来る。



 〜閑話休題〜



 つまり何を言いたいかというと、『ただの太陽光を吸収して魔力にすることは不可能』ということだ。




「丁度晴れてるわね、都合がいいわ····· イメージするのよ、私」


 私のイメージは、全方位に拡散するように降り注ぐ太陽光を、私の魔力が届く範囲で捻じ曲げて私へ収束させ、その光を私の高速魔法で魔力へと戻す感じだ。



「ふぅ····· 光よ集まりなさい『収斂』」



 その瞬間、世界に異変が発生した。



「な、なに?何が起きたの!?」

「当然暗くなったぞ!?」

「夜みたいになったな、なんなんだ」


 燦然と輝いていたはずの太陽が急激に光を発するのをやめてしまい、まるで夜空になったかのように暗くなってしまったからだ。



 実際は半径5km程の太陽光が全てルクシアの元へと収斂し、地上に光が届かなくなったため発生しているので、その範囲外から反射してきた光は届いており、暗めの夕方くらいの明るさになってしまっていた。



「おい、なんだ!?」

「えー、光が無くなった場合、授業が続けられないであるからして、ルクシア君、明かりをお願いするであるからして〜」

「教授!悠長なこと言ってないで····· って、ええっ!?ルクシアちゃんなにそれ!?!?」

「またルクシアだな!?こんな異常を起こすようなのはお前しか居ないだろ!!ちっ、やっぱりお前だったか····· って光り過ぎてルクシアか分からねぇ!!」



 全ての光が収斂したルクシアは、恐ろしいほど真っ白に輝いていた。


 それもそのはず、太陽光は50mくらいの太陽炉(光を反射して収束させる装置)でさえ、焦点部分の温度は3000度を超える。

 そして理論上、降り注ぐ太陽光を収束し完全にロス無く放熱させずに温度を蓄積した場合の最高温度は、太陽表面と同じ6500度と言われている。


 更に太陽光は一般的な蛍光灯の200倍と言われており、更に光を極限まで収斂した事で太陽より明るく輝くはずだ。


 つまり今、ルクシアに集まった光は6000度を超え、太陽よりも明るく輝く超高エネルギーの塊になっているのだ。



「眩しいわね····· でもいいわ、これを変換すれば·····っ!!??!?!?」



 だが、ルクシアは魔法によりその光をほぼ完全に閉じ込めているため、天体望遠鏡で太陽をのぞき込むが如く目が潰れる事は無く、物凄く明るい程度になっていた。


 そして、99%近い量の想像を絶する光を留めているルクシアは、それを魔力に変換し始めた。


 ·····ちなみに、光魔法の強さは消費魔力によって変動し、蛍光灯(500ルーメン)程度の明かりの場合の消費魔力は50[m/m](魔力/分)、工事用に使われる照明などは4000〜10000以上ルーメンとされており、ルクシアが外で使う照明魔法の消費魔力は500[m/m]となっている。


 つまりだいたい10ルーメンあたり1の魔力を毎分消費する感じだ。



 ちなみに他属性の消費魔力は、風属性の『ウィンドカッター』が1発500、火属性の『ファイアキャノン』が1発450、水属性の『アクアランス』が600、土属性の『アースウォール』が650くらいだ。


 そしてルクシアの同級生の平均魔力量は5000、ルクシアを除く最高値は18700で、個人差はあるが毎秒50〜200程度回復する。



 で。

 ルクシアはというと、普段から光魔法を使わされ、場合によっては野球場クラスの範囲を数時間照らし続ける生活を幼少期から繰り返した結果、その魔力量は14万という宮廷魔術師クラスの魔力量となっていた。


 まぁ、使い道が無いため宝の持ち腐れなのだが。



「始めるわ、『魔力光換』開始よ!」


 ギュォァァアアアッ!!!


 ルクシアが光を魔力に変換する魔法を発動した瞬間、莫大な量の魔力が彼女の身体に入り込み始めた。


 その魔力量は推定7850億。


 ·····7850億!?

 と思うかもしれないが、計算式はこうなる。



 太陽光は1平方メートルあたり10万ルーメンと言われており、彼女は半径5キロメートル内の光を収束したため、78,539,816m·····7850万平方メートルだ。

 そのルーメンは78,539,81600000ルーメン、約7兆8500億ルーメンとなる。


 魔力を光に変換する際は光の強さの1/10の消費のため、逆変換する場合は10ルーメンで1の魔力を回復する。


 すなわち7兆8500億を10で割る事で、7850億という数値が導き出される。



「うっ、くっ·····!!うぶっ!!?!?」



 つまり、ルクシアが保有できる魔力の実に560万倍という桁違いの魔力が彼女へと流れ込んだのだ。

 吸収を始めた次の瞬間には魔力が溢れ、限界を超えた魔力を蓄積した事で目や鼻などの毛細血管が破裂し出血、激しい吐き気や頭痛が襲ってきた。

 だがまだ僅か500万程度しか身体に入ってきておらず、魔力はどんどんルクシアの身体に侵入してきていた。


 魔法は、指定を誤ると大変な事になってしまう危険な力なのだ。



「くっ、気持ち悪いわ····· お゛ぇぅ·····」


「ルクシア!今すぐ光と魔力を上に向けて放て!それ以上はお前が危険だ!!」



 あまりに多すぎる魔力に私が苦しんでいると、いつの間にか来ていたフィジクス先生の声が聞こえてきた。


 ·····その通りね、今回は多すぎてもう限界だから、余った分は天に返そう。



「はああっ·····!!この光、貴方太陽に返すわ!!」


 私は自分を取り巻く光を操作し、体の周囲に光の帯のようにして纏わせ、渦巻かせた。

 そして手を天に向け、収束した光を打ち出した。



 ズギャァァァアアアアアアンッ!!!


 その次の瞬間、莫大な魔力を込められた超高エネルギーを持つ光の線が空へと直進し、雲を消し飛ばしながら太陽へと帰っていった。



「ふぅ、ふぅ····· 少し····· やりすぎたわ·····」


 これで、集めた光は使い切った。

 ·····だけれど、私の身体に入り込んでしまった余剰魔力までは完全には使いきれず、私は重度の魔力酔いになっていた。


「光が戻ったぞ!!」

「マジでヤベぇな、ルクシアのやつ·····」

「ルクシアちゃん、大丈夫·····?」


「大丈夫だと思うかしら····· 気持ち悪いわ」



 その後、ルクシアがやらかした事のせいで授業どころではなくなってしまったため、授業は一旦中断された。

 ルクシアはフィジクス先生に叱られながら、しばらく余剰魔力を消費して体調を回復させるため部屋へと連れていかれたのだった。

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