スパイス富豪ルクシア
「もう嫌よ····· スパイス料理は食べたくないわ·····」
「·····なぁルクシア、いい加減スパイス臭いから学食にスパイス掛けるのやめてくれねぇか?」
数日後、ルクシアは学食で一番高いミニドラゴンバーガー(3500イェン)に、しこたまスパイスを振りかけて食べていた。
あの依頼で一気にお金持ちになったルクシアだったが、授業に遅れた事で先生からまたとんでもなく怒られてしまい、成績に影響が出ると宣告されてしまっていた。
それに加え、ルクシアが買って来たスパイスは何と全く売れる事は無かった。
それもそのはず、どこの馬の骨か光かもしらん小娘が謎に大量に袋に詰めたスパイスを買い取ってくれと言っても誰も買ってくれるはずがない。
·····一応、それでも3万イェン分は目利きが得意な商人に買ってもらえて10倍近い値段で売れたが、それ以外が売れなかった。
というのも、彼女はスパイスには詳しくなかったためあまり売れないスパイスまで大量に買い込んでしまっていたのだ。
「仕方ないじゃない!売れなかったけど捨てるのは勿体ないから使うしかないのよ!」
「だからってここで掛けまくんなよ!」
「じゃあ貴方も使ってくれるかしら?1瓶1000イェンでいいわよ」
「いらねぇ·····」
「チッ·····」
ルクシアは売れなかったスパイスをとりあえずマッハに売りつけようとしたが、当然の如く売れる事は無かった。
そんな訳の分からない商人でさえ買わないスパイスが売れるわけがない。
だから困っていた。
「はぁ····· 憂鬱だわ·····」
ルクシアの頭と鼻腔にこびり付いたスパイスの悩みはなかなか消えそうになかった。
◇
数日後·····
「る、ルクシアちゃん·····?」
「何かしら?」
「その~····· 様子、全く違うけど大丈夫·····?」
「ふっ、大丈夫よ?何せ今の私は大富豪よ?」
ルクシアは調子に乗っていた。
それもそのはず、彼女が仕入れたスパイスが飛ぶように売れるようになったからだ。
今の貯蓄はなんと1000万イェンを超えていて、あまりの大金にトチ狂ったのかガンディーラで買って来たカラフルな伝統衣装の布を頭に掛けて物凄いドヤ顔を晒していた。
大金は人をおかしくさせるのだ。
ちなみにだいぶスパイス臭い。
·····では、なぜ急にスパイスが売れるようになったのかを説明しよう。
彼女が大量に仕入れたスパイスのうち、特に売れ残った物は
・クニッツ(ターメリックみたいなスパイス)
・チパクー(コリアンダー的な独特な香りのスパイス)
・アムムモ(カルダモンのような風味のスパイス)
・ジャンジャ(生姜、どこにでもある)
・ミリスティカ(ナツメグに近い植物の種子のスパイス)
の5つだった、それに対し
・ズィーレ(ほぼクミン)
・ペッパー(胡椒)
・ケイヒー(シナモン)
・ジローフル(クローブ)
の4つは普通に売れた(若干残ってる)。
つまり半分以上が残る大惨事になっていた。
そこで悩んだルクシアは、とりあえず全部混ぜた。
捨てるなら混ぜてやるとヤケクソでとりあえず混ぜ、生のまま捨てるのも良くないかと思いとりあえず炒めてみた。
すると何やらとても良い香りが漂いはじめ、急激に食欲がそそられ始めた。
それを舐めてみたルクシアだったが、味はほぼ無く香りだけが良かったため、とりあえず町に行って旨味とかが出そうな乾燥タマネギやらニンニクやら干し肉を買ってきて、砕いて塩も加えて一緒に混ぜてみた。
そうしたら味の方も改善し、更に突き詰めると良い香りの発生源がよく売れたスパイス4種(特にズィーレ)から出ている事に気が付き、また買い足しにガンディーラまで赴いた。
そして買い足したスパイスを余ったスパイスにしこたまブチ込み、全部混ぜ合わせて炒って粉々にしてみたところ、なんだか物凄いモノが完成してしまった。
「私が作った『ルクシアスパイス』は万能よ、何に掛けても美味しくなるわ」
「ま、まぁ、わたしも好きだけど····· 安いし·····」
完成したスパイスは『ルクシアスパイス』と名付けた。
読者向けに凄くわかりやすく言うと、カレー粉だ。
実際には市販品のカレー粉とは香りや味が違うが、大体同じ物と思ってもらって構わない代物だ。
このルクシアスパイスというネームセンスの欠片も無いスパイスの一番のセールスポイントは、数量限定だが非常に安い事にある。
何せスパイスはキャラバンで半年近くかけて運ぶため金と同じ·····までは行かないものの、現代では考えられない程に高額だ。
一応、この国の近くでもスパイスが大量に採れるダンジョンがあるのだが、魔王の国の支配下にあるため流通はしないため、かなりの貴重品となっていた。
が、ルクシアスパイスはなんとふんだんに本場のスパイスが入っているのに値段は1/10というとんでもない安値で売りに出されている。
ちなみに町の行きつけの食堂で販売している。
·····他の店では扱ってくれず、よく行っていた食堂の女将に頼み込んで使ってもらって人気が出て、飛ぶように売れるようになったのだ。
何せ手軽に非常に良い香りを付けられるスパイスだから、学生の多いこの町では濃い味付けを求める需要と見事にマッチしてあっという間に広まり、あちこちの店や屋台で使われるようになった。
そうすれば流行りにのって次から次へと売れはじめ、今や町を歩けばずっとルクシアスパイスの香りが漂ってくる程にまで普及してしまった。
ちなみに1個当たりの値段は原価の3倍くらいとギリ元を取れるくらいの値段なのだが、それでも光速で売れるためかなりな儲けが出ていた。
「それに安いし安定して供給も出来るわ、だからもう収入がどんどん増えて行っているのよ」
「·····大丈夫なの、それ」
「知らないわ」
なおこの後商業組合から物凄く怒られエグい額の罰金を払わされるのだが、本人はまだ知らない。
そしてその商業組合から極秘裏にスパイスの買い付け依頼を定期的に出されてかなり良い収入源になるのだが、それはまた別のお話·····
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