演習2日目 登山開始
翌日、中途半端に寝ていたせいでまだ眠い私は、目を擦り欠伸をしながらも出発の準備をしていた。
「天気は悪くないわね、周囲に魔物は居なさそうだし····· 山の方は少し状況が悪そうね」
「は?見えるのか?ここから?」
「えぇ、光魔法の応用よ」
「·····嘘じゃないよな?」
「その何でも疑ってくる所、面倒だけど良い心掛けね?大丈夫よ任せなさい」
「なら良いけど」
男子組のリーダーのジェロスがルクシアの観測を若干疑って話し掛けてきたが、自信満々で答えられて反応に困ったのか帰って行った。
彼も決して悪い奴ではないのだが、少し当たりが強い性格なため少し苦手な人も多い。
「·····山越えの時は気をつけるべきね、オーロラは居るかしら?」
「居ますわ、なんですの?」
「山の尾根に魔物が多くいる場所があるわ、地図なのだけれど最短ルートのここは危ないから止めるべきね」
「そうなんですわね、元々登りやすいけれど少し遠回りのルートを考えていたから大丈夫ですわ」
「そう、なら大丈夫よ」
魔物は討伐しなければいけないけれど、無理に最初から倒すのは良くない。
これから山越えで体力を使うのに、倒すのに体力を使って荷物も重くなり時間も浪費したら、最悪山越えが出来ない可能性も充分有り得る。
だから、魔物を倒すのは山越えをした下りの途中が良いだろうと皆で話し合い決定していた。
「そうなると····· 予定通り3番目の峠を通るルートになりそうね、地図に書き込まないと」
先導を任されたルクシアは、道を間違えないよう上空から写した光景に光で筋を書き込んで、目印の場所を頭に記録した。
記憶力が良い彼女はまさに先導はうってつけと言える役割だ。
ちなみに3番目の峠は、この連峰の中で3番目に高い峠で標高は約2100m、1番高い峠が2500mで山頂が約2700m程となっている。
参考までに、他の分隊は大回りの第6峠(1800m)と、第5峠(1970m)を通ろうとしており、どちらも最短かつ今日は魔物も多く危険な第2峠(2400m)は避けていた。
〜閑話休題〜
「ルクシアはん、準備出来たで〜?」
「わかったわ、じゃあ今日も先導は任せなさい」
そして偵察をしているうちにキャンプ地の撤収が完了したみたいで、ようやく私の出番が来た。
·····私が関わったら長引くと言われてやらせて貰えなかったのよね。
事前の練習でテントを仕舞おうとして酷い目にあったのは忘れないわ·····
「これからはずっと上り坂よ、厳しかったらペースを調整するからすぐに言ってほしいわ」
『『了解』』
そして演習2日目、登山が始まった。
◇
出発から1時間半ほど経ち、私たちは目的地である第3峠へと続くルートへと辿り着いていた、
「さて、どう進もうかしら·····」
「急やなぁ····· 沢沿いはアカンか?」
「沢沿いはダメよ、今は水がなくて楽そうに見えるけれど、いつ水が来るか分からないしいざと言う時逃げ場がないわ」
第3峠まで続く道は2つあり、枯れ気味の沢を登るルートと尾根を進むルートだ。
尾根を進むルートは最初に尾根に出るために急勾配を登る必要があるが、その先は比較的平坦で楽な道が続く。
沢沿いは最初こそ平坦で進みやすいが、完全に峠に続いてる訳でもなくて、途中で急勾配になるし岩だらけで進みにくいし、雨が降れば急に川になる可能性もありかなり危険だ。
更にこの世界特有の問題として、魔物の襲撃が挙げられる。
もし谷底で魔物と遭遇した場合、周囲が逃げにくい斜面で覆われているため逃げ道がなく全滅も有り得る。
しかし尾根なら最悪の場合、斜面を転げ落ちてでも逃げる事が出来る。
だから登山をする時は尾根を歩くのが基本なのだ。
「なるほどですわ」
「さっさと行くぞ、時間がもったいない」
「でもあの斜面はキツいかも·····」
だが、尾根を進むのにもデメリットはあり、滑落の危険があるのはもちろん、尾根が曲がりくねり遠回りになったり、そもそも尾根に出ること自体が難しいなどがある。
今回行こうとしている尾根も、登りやすそうな場所でさえ勾配が30度を超えていた。
ちなみに富士山の勾配が平均25度前後と考えると、恐ろしい角度だ。
「そこら辺にあるはずよ····· あったわ、獣道を使って登るわ」
「無理」
「ですわ」
「·····進みやすいのに」
ちなみに山の中で獣道を通るのは禁物という話はあるが、部分的に利用するのは実は理にかなっている。
獣道が危険な理由は、目的地が不明でどこに続いてるかわからないため下手に辿ると山奥まで連れていかれてしまうからだ。
だが、人が立ち入れない急斜面でも獣は登れるため、そこが道になり相乗りさせてもらう形で利用すれば、本来いけない場所でも登る事が出来るのだ。
が、それを出来るのはある程度の登山経験があり実力がある者だけだ。
今のところ、この分隊で獣道を辿って尾根まで行けるのはルクシアしか居なかった。
「はぁ····· 仕方ないわ、先に行ってロープを結び付けてくるわ」
他の急斜面の登り方としては、斜面の上に生えた木にロープを結び付けてそれを使って登る方法がある。
これなら割と簡単に登れるはずだ。
「『ルクシオン』」
カッ!!
「·····ふぅ、私一人ならこの演習も瞬時に終わらせられるのよね」
そしてルクシアは斜面を登りやすくするように、光速で空を翔けて斜面の上に辿り着き、さっと木にロープを結びつけた。
「皆、ロープを伝って登って来てもらえるかしら?荷物が重いようだったら『重さ魔法』で軽量化もするわ!」
『俺の荷物頼むぜ!重すぎて登るのキツいんだ!』
「はいはい、今行くわ」
その後もルクシアは皆が登る手伝いをしたが、尾根に皆が登りきるまで20分もの時間を要してしまった。
◇
「く、空気が薄いですわ·····」
「·····そうか?」
「この程度なら全然平気よ、上はもっと薄いわ」
尾根を進むこと2時間。
私たちは標高だいたい1900イェド付近までやって来ていた。
目的の第3峠までは残り300イェド程度で、午後にはなんとか峠越えが出来そうだ。
ちなみに1900イェド付近の大気圧は地上よりだいたい15〜20%ほど少なく、慣れていない人だと多少薄いと感じるくらいだ。
「なんでルクシアさんは大丈夫なんですの·····」
「なんでって····· まぁ慣れたからよ」
普段から運動部でトレーニングしているルクシアは、最近光速で高山へ移動して高所トレーニングを重ねていたため、この程度の大気圧なら全然平気なのだ。
「すごいですわ·····」
「確かにちょっと休憩してぇかも、少し疲れたぜ」
「無理は禁物だし、お前のペースに合わせてたら僕たちが倒れる」
「少し休む?」
「ウチも賛成や」
「ボクはもう少し行けるけど」
「私もね」
「あと少し進んだら休む?」
「はぁ····· 疲れた·····」
「·····わかったわ」
ハイペースで進んでいたルクシアだったが、どうやら隊員の大半が休憩したかったようだったので、少し早いが休憩をとることにした。
私はこれから向かう峠の方を見て、この先の予定を脳内で修正しはじめた。
·····が。
「まぁ、このペースならなんとか間に合うかしらね····· ん?·····はぁ、厄介ね」
「どうしたんですわ?」
「はぁ、また何かあったのか?」
「峠に厄介なのが居座ってるわ·····」
目的地の第3峠に、大型の魔物が居座っているのが普通に肉眼で見えてしまった。
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