光はそう簡単には消えないわ



 数日後、私の姿は魔法学院にあった。

 体は健康体で動けるまでに回復したから治療院は退院し、無事に学院に戻って来れていた。



「おい····· 大丈夫なのか?」

「腕、本当に無くなってしまったのね」

「痛くないのか?」


「えぇ、正直まだ痛いけれど最初に比べたら慣れたわ」


 ·····ただ、失った右腕は戻る事は無かった。

 今まで着ていた制服も右腕は袖が余ってしまい、中身の無い袖は肘から先がぶらぶらと揺れていた。



「魔導義手も作れるそうなのだけど、爵位の高い貴族でもないと手が出ないくらい高額だから諦めたのよ」


「そうなのか·····」

「私たちで出資すれば····· いえ余計なお世話ね」


「いや出してくれるなら欲しいわよ?」


「いえ流石に·····」


 おい全員、出資の話が出た途端に顔を背けるな。 流石に今の私はナーバスになってるからかなり傷付くのよ?


「·····まぁ、罪人なんかに出す価値も無いでしょうけど」


「なんか言ったか?俺でも聞き取れ無かったけどよ、価値がないとかは聞こえたぜ?」

「ルクシアさんは価値があるわよ、後方支援なら片腕が無くとも出来ますわ!」

「そうだな光魔法で照らしてくれるなら片腕でも大丈夫だろ!」


「皆····· それ褒めてるのかしら、バカにしてるのかしら?この期に及んでバカにしてたら恨むわよ?」


「「「バカにしてねぇ(ですわ)よ!!!」」」



 どうやら、皆なりに私を励まそうとしてくれていたようだ。

 ·····大罪人という事を隠しているから、少し神経質になっていたかもしれない。


 これ以上突っかかってしまったら、クラスから孤立しそうね。


 ここは笑顔で対応すべきね、·····あまり笑顔を見せた事ないのだけど。



「ふ、うふふ、大丈夫よ?」


 私はぎこちない笑顔を皆にみせた。



「お、おい、めちゃくちゃ怒ってるぞアレ·····」

「ガチギレですわ·····」

「どうすんだマッハ謝れよお前」


「·····あれ、思ってたのと違うわ」



 そう言ったルクシアだが、表情筋が鍛えられて無いことと今だズキズキと痛む幻肢痛が合わさり、どう見ても怒ってるようなぎこちない笑みを浮かべていた。


 それに加えこの状況なら、勘違いの一つや二つされるだろう。



「なんか済まねえな····· そういや利き手右だっけか」


「ええ、だから左手で字を書く練習をしてるわ、·····ゴブリンの方が綺麗な文字を書けそうなくらい汚いけれど」


「お困りになられたら私たちに言ってくださいまし、クラスメイトの困難を助けるのはクラスメイトの役割ですわ」

「あぁ、何だって手伝うぜ!」


「皆····· この恩、忘れないわ」



 本当なら見捨てられても仕方ないのに、ここまで優しくしてくれる皆と同じクラスになれて本当に良かった。

 私は心の底からそう感じ、皆に感謝した。




 ·····本当の事を言うと、男子に関しては半分彼女に自分に好意を抱いてほしいとアピールしていたりする。

 それもそのはず、彼女はスリムな体型で程よく筋肉もあり、凛とした顔つきのかなりの美人で、なおかつ胸が大きいという男子ウケの良い体付きをしていたからだ。



 さらにいつも光魔法の事で悩んでいるため顰めっ面気味なため凄く話し掛けにくいが、話すと誰にでも優しく気軽に話してくれるから距離感がバグって好意を抱きやすくなるし、その美貌から男子にかなり好評だ。


 まぁ人気度ではもっと上がいてクラス1位では無いが、むしろそれが高嶺の花ではなく手が届きそうな庶民的な花のように感じてしまうため、割と本気で狙う人が多い。



 ちなみに女子ウケも良いのは、しつこく寄ってくる男子を適当にあしらう姿が意外とカッコよくて人気な事と、スポーツも勉強も出来てカッコイイ女子で、男子には見せてあげていないが女子に対しては授業のノートやメモを見せてくれるからだったりする。



 〜閑話休題〜



「まぁお礼は別にいいぜ、だけど今度飯でm」

 ガラガラッ!

「授業を始めます、皆さん席へ」


「·····」

「何か言ったかしら?」


「何でもねぇ、まっ、なんかあったら俺たちにすぐ言えよ」

「相談しにくいのなら女子の私たちでも構いませんわ」


「ありがとう、助かるわ」



「·····はぁ、それにしても不便ね、右手が無いとナニも出来ないわ、私自慰はみg「わーわーわー!!ですの!!!ハレンチなことを言ってはダメですの!!!!」



 ·····危ない


 危うく失言しかけたわ。

 後であの子にはお礼を言わなくちゃいけないわね。


 そんなこんなでクラスメイトと話をしていると、あっという間に時間は過ぎて休み時間は終わり、座学が始まった。

 ちなみに男子はほぼ全員前かがみになっていた。




 放課後


「疲れたわ·····」


 私は疲れていた。


 やはり左手で文字を書くのは難しく、黒板の板書がほぼ出来なかった。

 ただ、既に1ヶ月先くらいの授業内容は予習していたからギリギリ事なきを得た。


 ·····逆に言えば、1ヶ月以内に左手を使えるようにしなければ授業に置いていかれてしまう。


 だから、今日の座学の時間はひたすら左手で文字を書く練習をしていて、慣れないことをしたせいでだいぶ疲れてしまった。

 ·····なんだか幼い頃の文字を練習していた時に戻った気分で少し恥ずかしかったのも、疲れる要因の一つだったかもしれない。


 あと、今日の魔法の実習は見学になった。

 流石に今の状態では魔法も上手く命中させられる気がしないし、光速魔法も万全な状態で練習したいから大人しく見学していた。


 ちなみにその間も左手を使う練習はしていた。


 そして帰ってからも左手を使う練習をする予定だ。


「ふぅ、·····肩は残っていて助かったわ、お陰でカバンは掛けられるのよね、それだけは不幸中の幸いかしら」



 私は左手でぎこちなく右の肩にカバンを掛けたが、カバンの重さで失った右手のせいで悪くなっていた体のバランスが整ったのか、少し気分が晴れた。


 明日は中身を失った制服の袖の中に何か重りを入れてみてもいいかもしれない。

 バランスが崩れるだけで、結構体に負担が掛かってるのか全身が痛くなってくるのよね。



「はぁ····· これがこの先一生続くと考えると地獄だわ、本当に憂鬱ね····· 帰り道に甘い物でも買い食いしようかしら」


 甘い物はつらかった事を溶かして消してくれる。

 ·····気がする。


 だからこういう憂鬱な日は買い食いするに限るのよね。

 ·····増えた体重は明日の私が頑張ればいいのよ、それに今は腕がない分体重も軽くなっているのだからプラスマイナスでマイナスよね。


 そうよ、マイナスになるんだからいくら食べてもいいのよね!


「·····プラスだろ」

「っっっっ〜〜〜〜〜〜!!?!?」


 私は突然話しかけられ、驚いて右手で声の主をビンタした。

 ·····あっ、右手無いから当たらなかったわ。


 というか、当たってたら不味い事になっていたわね。



「フィジクス先生、突然話しかけないでください」

「今ビンタしようとしたな?」


「·····申し訳なかったわ」


「はぁ····· というか帰るな、お前の怪我の経過観察が何故か俺が担当になったんだ、勝手に帰られたら怒られるのは俺だからな?」


「あっそうだったわね、忘れてたわ」


 そういえば忘れていたけれど、これから先しばらくは怪我や体調を確認するため放課後に先生のところに顔を出す必要があったのだった。

 今日は色々大変だったから、今の今まですっかり忘れていたわ。



「ったく、早く行くぞ」


「わかりました」


 私はフィジクス先生について行って、先生の部屋へと向かったのだった。






【オマケ】


ルクシアのステータス


身長:64.96イチン

体重:141.1ドンポ


B :38.2イチン

W:28.7イチン

H :35.8イチン


視力:0.1(右)と0.2(左)

利き手:右手


状態異常:身体欠損(右手:5級欠損)


ステータス

属性  :光(光速魔法)

     重さ


攻撃力 :B〜ほぼ無限大(※ターディオン発動時)

スピード:B〜光速(※ルクシオン発動時)

射程距離:C〜∞(光速魔法使用時)

持久力 :A

精密動作:E

成長性 :Fのはずなのに勘違いで無限に成長中

     ちなみにバストはF

魔力量 :S~???(???発動時)


ステータスの値について


S:人外、たぶんドラゴンか魔王か何か

A:一般人を遥かに超える、超人クラス

B:物凄く能力が高い

C:一般人並み(ルクシアの射程距離の場合、光魔法はEだったが筋力による投擲がAのため平均値のCとしている)

D:一般人より劣る

E:ヘタクソ

F:ガガンボ以下、バストは例外

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