お前は『光』の本質を理解しているか?



「次の授業はなんだったかしら····· 座学かぁ、この範囲はもうとっくに終わらせてるのよね」



 攻撃魔法の実習が終わり、私は次の座学のある講堂へと移動しながら今日の授業の範囲を見ていた。


 でも、いつも通り既に自習して覚えた範囲で、今日も暇になりそうだった。



「は?あの面倒な四大元素の範囲をか?やべぇなお前····· あとでノート見せてくれ!」


「嫌よ、自分で勉強しなさい」


「チッ·····」



 またマッハのヤツに絡まれた。

 しつこいからやめて欲しいのだけれど、こういうヤツだから仕方ないと諦めて適当に受け流しておくかしら·····



 そうそう、私は魔法の実技は成績が低いけれど、実は座学においては成績が高い。


 そこの実技の成績トップクラスのマッハよりも····· いや彼は普通に頭が良くないから比べる意味が無いけど、とりあえず私は座学においてはクラスどころが学年1位だ。



 ·····というより、座学で成績を稼がないと退学になるから、必然的に座学の成績は良くなっている。



 だから、光魔法を使って他の人は消灯時間になって勉強できなくなる時間まで勉強し続けて、なんとか成績を常に良くなるように努力している。



「こう見えて私だって頑張ってるのよ?」


「だからって目が悪くなっちゃ意味ねぇんだよな」


「いいでしょ別に、どうせ実戦だと遠距離攻撃なんてしないんだから」



 その代償に、薄暗い中で勉強してるせいで私は視力が落ちている。

 講堂の最前列に座らないと黒板の文字がうまく読めないくらいには目が悪い。



 でも別に、後方支援に視力なんてあまり関係ないから気にしないけれど。

 強いて言えば、ちょっと距離感が掴めみにくくて実技の的当ての成績が下がったくらいしか困っていない。

 まぁどうせ成績は悪いんだからあまり変わりないし気にする事はない。



 ゴロゴロゴロ·····


 ポツッ·····

  ポツポツッ·····


「·····雷鳴ね」

「雨も降ってきたな、良かったぜ実技の後で」



 面倒だ。

 雨が降ると必然的に暗くなるから、また照明係とか言われて屋外でも屋内でも光魔法を使う羽目になる。


 小さい頃からずっと暗い時は光魔法を出したまま授業を受けさせられていたから、本当に面倒だ。

 ·····そのお陰なのか、なぜか魔力量は他の人より遥かに多いのだけれど。



「はぁ、これで攻撃魔法も使えたら役に立つのだけど·····」


『·····お前、光属性の真の力に興味はあるか』


「っっっつ!!?」ビクッッ!!



 ぼんやりと悩みながら廊下を歩いていると、誰かに急に話しかけられた。

 驚いた私は声にならない悲鳴をあげて拳を構えながら声のした方を向くと·····



「·····フィジクス先生ですか?」

「そうだが?」


 この学校に所属している教員の1人、フィジクス先生がいた。

 艶のないボサボサの癖毛に、ヨレヨレで汚れた白衣を着た猫背の痩せ型の先生なんて一人しかいない。

 ちなみに顔は悪くは無いけど、不潔だし性格も研究内容も変だから皆から忌避されている。



「げっ、変なのに絡まれてやがる、俺は絡まれる前に先いくぜ、じゃあな!!」

「ちょっ、待ちなさいっ」


「いいじゃねぇか、それより興味あんだろ?光属性魔法の攻撃転用によ」


「っ····· 出来たら苦労していませんよ」



 とは言ったが、少し興味はある。

 どの先生に聞いても、光魔法はノロノロとしか飛ばない光の玉しか出せない、せいぜいが光る矢を飛ばす程度の属性としか答えなかった。

 まぁサポート面では絶賛されてたけれど、私が求めているものでは無い。


 でも、変な研究ばかりしてるこの先生なら、もしかしたらがあるかもしれない。



「興味は·····ありますけど、私これから授業なので失礼します」


「いや待ちたまえ、次の授業は····· アルマゲスト教授だな、丁度そこに居るではないか」

「げっ、気付かれた·····」


「次の授業だが、ルクシア嬢をお借りしても良いかな?」

「えっそれは····· いえ構いません、どうせ既に授業内容は把握しているでしょう?出席扱いにしますのでルクシアは先生のお相手をしてあげなさい」


「あっ待て·····っ!逃げられた·····」


 くそが。

 あの先生、フィジクス先生に絡まれるのが面倒だから私の出席と天秤にかけて見捨てやがった。


 これは面倒なことになってしまったかもしれない。



「はぁ····· 話は聞くので端的にお願いします」


「それで良い、そして端的に言おう」




「俺たちは、光の本当の『速さ』を全く理解していない可能性がある、そしてそれを知ればお前なら自身の魔法に転用出来るはずだ」


「それは·····!」




「どういう意味ですか」

「おっと?今のは理解した流れのはずではないか?」


 いや、普通に意味がわからないから聞き返したのだけれど。

 やっぱりフィジクス先生、頭がちょっと狂ってるわね。


「·····まぁいい、とりあえず分かるよう説明してやる、ついてくるといい」

「えっ嫌····· わかりました」



 本気で断ろうとしたルクシアだったが、断ったら更に面倒事になりそうな予感がして断れずにフィジクス先生の後について移動を始めた。



◇ 廊下→フィジクス先生の研究室



 ギィィ·····


「入りたまえ、そこら辺の適当な椅子····· の書類は地面に退かして構わない」

「汚いわね」


「仕方ないだろう、研究のためだ」


 結局連れてこられたのは、先生の研究室だった。

 ナニカされそうな予感もしたが、そうしたら私のフィジカルで殴り飛ばせば良い。


 大人しい文系に見えるけれど、私は脱いだら凄い。

 何せひと目でわかるほど筋肉質で男相手でも格闘技で勝る程の実力がある。


 痩せていて不健康そうな先生程度であれば、容易に鯖折りにできるだろう。



「そんなに警戒するほど怪しいか?」


「ええ、とても」

「だろうな、そして正直ちょっと傷付いたぞ」


「どうでもいいので本題に移ってください」


 私は椅子の上に山積みになっていた尋常ではない量の本を、重さ魔法で軽くすることも無く自分の力で持ち上げて床に下ろし、代わりに腰を下ろした。



「仕方ない、コーヒーでも淹れて飲みながらと考えていたが·····」

「私は紅茶派なので」


「·····そうか、まぁいい本題に入るぞ」



「先程も言ったが、我々は光の性質を完全に誤解している」

「それが何か·····」


「まずは君の知る最速の属性を言ってくれ」



「最速?風魔法でしょう、風の衝撃魔法なら1秒で200マイレ(※約300m)届いたはずよ」


「そうだ、·····もっと細かくいえば雷属性の雷撃が最速だがな、一説によると時速換算で約50万マイレもあると言われている」


「それは初耳です」

「だろうな、A級戦力を持つ『雷帝』くらいしか使えない魔法だから一般的には風が最速だ」



 よく理解は出来ないが、たしかに雷が落ちる速度は物凄く早い。

 遠くに見える稲妻が動く速度はギリギリで目で落ちるのが見えるのが限界というくらい早く、近くで見れば認識さえ出来ない速さだろう。



「だが、光はそんなモノより圧倒的に早い」


「·····具体的に、どの程度の速度なんです?」





「推定『秒速6億7千万マイレ』、人間には到底認識出来ることの無い想像を絶する速度だ」




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