第27話 おかえり、ただいま

◆ミョルティ・城(10年前・同日・夕方)〈回想〉


  ガチャ、扉が開く

  トワとリュート、入ってくる

  手には薬草を持っている


トワ「戻ったわよ。凛々亜、大丈―」


  トワ、目を見開く

  雑に捲られた布団

  寝ていたはずの凛々亜がいない


リュート「母さん……」


◆エルフィリア帝国・貧民街(10年前・同日・夕方)〈回想〉


  歩いている凛々亜

  杖を突き、ヨロヨロとした足取り


キュパス「凛々亜様、大丈夫ですか……?」


凛々亜「……えぇ」


  凛々亜、立ち止まり辺りを見回す

  廃れた街並み、砂煙が舞う

  ツギハギの家のようなもの

  瓦礫や岩、土が山積み

  やせ細った人々、こちらを睨む


凛々亜「ここが、貧民街……」


キュパス「はい、以前の大戦で破壊された区域です……。復興されることなく見放され、貧困層や社会的地位の低い者たちの住処となりました……」


凛々亜「まるで、ミョルティね……」


  その時、子供たちの笑い声

  反応し、顔を向ける凛々亜

  数人の子供たち、側を駆けていく

  その先、遠方に何かが見える


凛々亜「行ってみましょう」


× × × × ×


  ザッザッ、歩く凛々亜

  到着して息をつく

  目の前には大きな穴

  その中に、仰々しい機械

  土で汚れ、横倒しになっている


凛々亜「もしかして、あれが……」


キュパス「『ブノツァーベルド』、クローン体を生成できる魔道具です……。貧民街に廃棄されていたのですね……」


  凛々亜、穴の中に入る

  ズルズル、滑り落ちる

  ブノツァーベルドに触れる凛々亜

  音を立て、扉が開く


凛々亜「良かった……、壊れてない」


キュパス「凛々亜様、今一度問います……。貴方がこれからしようとしていることは、途方もない年月を要するかもしれない……。果ては、一人のエルフより長い時を生きることになるかもしれない……。それでも、成し遂げるおつもりですか……?」


凛々亜「……綾人がいなくなって、私の世界は色を失った。トワやモリス、リュートと出会って楽しく生きることは出来たけどね……。どうしても、私の心から綾人は消えてくれなかった」


  凛々亜、はにかんで―


凛々亜「もう、40年も待ってるのよ?今更、何年だって変わらないわ」


キュパス「……貴方は、お強いのですね……」


  凛々亜、ブノツァーベルドに入る


凛々亜「キュパス、今まで色々教えてくれてありがとう。あなたが私の契約妖精で良かったわ」


キュパス「私も、凛々亜様の契約妖精で良かった……。他の妖精より、長い時を過ごすことが出来ました……。だからこそこの命、最期に貴方のために使えること、光栄に思います……」


凛々亜「そう、ありがとう」


  凛々亜、ネックレスを見つめる


凛々亜M「トワ、リュート……、必ず会いに行くから……」


  凛々亜、目を閉じる


凛々亜M「綾人……、やっぱりあなたがいないとダメみたい……。例え何年でも待つわ。だから―」


  青く輝く宝石

  口づけする凛々亜


キュパス「ブノツァーベルド、起動……」


  キュパス、消滅する

  凛々亜、白い光に包まれる


凛々亜M「私のこと、見つけてね……!」


  貧民街、揺れる

  砂煙が舞い上がる

  巨大な光の柱、天を貫き昇る


× × × × ×


  眠る一人の少女

  ゆっくりと目を覚ます

  体を起こす、穴の中にいる

  傍らにはブノツァーベルド

  中には白骨化した人間の死体


??「……!」


  少女、首のネックレスに触れる

  青い宝石、夕日に照らされ輝く

  ザッ、誰かの足元


??「君、大丈夫かい?」


  少女、見上げる

  白金の鎧、マント、靡く金髪

  マダグレン、こちらを見下ろす


マダグレン「今の光は、君のかな?」


  マダグレン、ブノツァーベルドを見る

  中の白骨死体に気付いて―


マダグレン「クローンか、中にいるのはオリジナルかな?可哀そうに、魔力に肉体が耐えられなかったんだね」


  マダグレン、凛々亜の手を取る

  引っ張り、穴から出す


マダグレン「君、名前は?」


??「な、まえ……?」


マダグレン「うん、君の名前」


??「……」


マダグレン「もしかして、覚えてないのかい?」


??「り……、り、あ……」


マダグレン「リーリア?」


??「り……、り、あ……」


マダグレン「リーリアか、良い名前だね」


  マダグレン、少女の顔を見つめる

  それから、体を舐め回すように見て―


マダグレン「君、僕の妻にならないかい?」


??「妻……?」


マダグレン「……よし、決めた。僕の名前は、マダグレン・エルフィリア。そして―」


  マダグレン、マントをバサッと翻す

  少女に手を差し出して―


マダグレン「今日から君は、リーリア・エルフィリアだ!」


リーリアN「それから10年、私はマダグレンの妻として過ごした。一国の王妃として、様々な所作や戦い方、この国の歴史を学んだ。このエルフ耳は、フォルシャに移植してもらった。エルフの妻がエルフじゃないのはおかしいって。そして―」


◆エルフィリア帝国・城下町(数日前・午後)〈回想〉


  リーリア、二人の騎士と共に歩いている


リーリアN「城下町の視察をしていた時―」


  リーリア、肩をガッと掴まれる

  引っ張られ、振り返る


リーリアN「やっと、あなたに会えた」


  綾人の姿

  唖然とした顔でこちらを見つめる


綾人「凛々亜……?」


●エルフィリア城・客室(同日・夜)


  綾人、俯いている


リーリア「ごめんね、綾人。あなただって気づかなくて……。マダグレンの夫になってしまって……」


  綾人、勢いよく立ち上がる

  足早に部屋を出ていく


リーリア「綾人……!」


  リーリア、綾人の後を追う

  トワ、深くため息をついて―


トワ「なるほどね~」


モリス「I’m still confused……. 」


トワ「でも彼女は、間違いなくアタシを助けてくれた人だったわ……」


  ベッドの上、目を瞑るリュート

  その瞳から涙が一筋

  僅かに唇が動く


リュート「母さん……」


  微かな声

  誰にも聞こえることなく消え入る


●エルフィリア城・ティアード・ポンドほとり(同日・夜)


  広がる草原、広大な湖

  空の満月を鮮やかに映し出す

  ポツンと、一つの墓石

  その前に綾人、立ち尽くす


綾人「お前、ずっとここにいたんだな……」


  綾人、水際まで歩く

  湖を覗き込んで―


綾人「もう、あっちにはいないんだな……」


  夜空を見上げる

  一筋の涙、頬を伝う

  そしてポツリ、湖に落ちる

  波紋を広げ、浸透する


??「僕がたてたんだよ」


  振り向く綾人

  マダグレン、こちらに歩いてくる


マダグレン「素敵な人と巡り合わせてもらったお礼、かな?」


綾人「マダグレン……」


マダグレン「感謝してくれてもいいよ?」


  ちゃらけるマダグレン

  胸を張り踏ん反り返る

  そんな彼に、綾人は頭を下げ―


綾人「ありがとう。本当に、ありがとう」


  マダグレン、ギョッと目を見開く

  期待外れに鼻を鳴らし―


マダグレン「全く、調子狂うなぁ」


  顔を上げる綾人

  マダグレン、その顔を見て微笑み―


マダグレン「でも、いい顔しているよ。綾人くん」


× × × × ×


  ほとりに立ち尽くす綾人

  ボーっと湖を眺めている

  そこに、サクサクと足音


??「綾人!」


  振り返る綾人

  リーリア、小走りでこちらに来る


綾人「凛々亜……」


リーリア「綾人……、怒ってる……?」


  綾人、何も言わず湖に振り返る


綾人「凛々亜、俺がいなくなってから色を失ったようだった、って言ったよな?」


リーリア「うん……」


綾人「俺も同じだった……。凛々亜に会うために牢屋を出て、でもどこを探してもいなくて。こんな、訳分かんないところに来て、変な戦いに巻き込まれて。俺の世界も、色を失ってた……。でも―」


  綾人、凛々亜に抱き着く

  ギュッと強く抱きしめて―


綾人「おかえり、凛々亜……!」


リーリア「……うん。ただいま、綾人」


  リーリア、綾人を抱き返して―


リーリア「綾人も、おかえり……」


綾人「……ただいま!」

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