第5話 転移者と転生者

●エルフィリア城・廊下(同日・午前)


  目を見開く綾人、唖然


綾人「佐藤、健尾……?」


  佐藤健尾さとうたけお、小さな肩をすくめて―


健尾「あ、全然見えねぇって思ったろ?だから本名言うのやなんだ―」


綾人「その名前、もしかして……!」


  綾人、勢いよく健尾を掴む

  健尾、苦しそうに―


健尾「や、やめろ……、潰れる……」


綾人「あ、あぁ、すまん……」


  健尾を手放す綾人

  健尾、煩わしそうに体をはらい―


健尾「何をそんなに焦ってんだ?ってか、まだ青年の名前も聞いてないな」


綾人「俺は、轟綾人だ……」


  健尾、それを聞いてハッとする

  心なしか声音を落として―


健尾「その名前、もしかして……!」


綾人「俺たちは、同じ世界からやってきた……?」


●同・リーリアの部屋(同日・午前)


  椅子に座るリーリア

  読書を嗜んでいる


アンナ「きゃあぁぁぁぁぁ!!!」


  突然の叫び声、驚くリーリア

  扉の前、アンナが転がり過ぎて行く


アンナ「いててて……」


  頭を摩りながら戻ってくるアンナ

  入口からリーリアを見て―


アンナ「あ、リーリア様、綾人様をお見かけしませんでしたか?」


リーリア「さ、先ほどまで一緒にいましたけど……」


アンナ「そうですか、失礼しますぅ」


  リーリアに一礼

  トボトボと歩くアンナ


アンナ「お手洗いと言っていたのですが……。あぁ、もしかして私とお話しするのが嫌になったとか……。そうですよね、私なんて……」


●同・廊下(同日・午前)


  難しい顔の綾人と健尾


健尾「まさか、こんなところで同郷と会うなんて……。俺がここに来て十年、こんなことはなかったぞ」


綾人M「十年……」


綾人「というか、何でお前はそんな格好に……?」


健尾「俺が知りてぇよぉ!ただ、あの時は―」


◆佐藤宅・玄関(朝)〈回想〉


  ドタドタと足音


健尾「遅刻だ~っ!」


  健尾、慌てて玄関へ

  靴を履くが、踵が中々入らない

  その後ろ、母親が腰に手を当て―


母「ちょっと、受験票は持ったの?」


健尾「持ったよ!」


母「筆記用具は?」


健尾「持った!」


母「朝ごはんもちゃんと食べていきな―」


健尾「そんな暇ねぇって!」


  バンっと開かれるドア


健尾「行ってきま~すっ!」


  全速力の健尾


健尾M「くそっ、昨日徹夜で勉強なんてするんじゃなかったぁ!試験前日は早く寝ろって高校受験の時の教え、どうして忘れてたんだよ~!」


  目の前に交差点

  信号は赤

  しかし健尾、止まらない


健尾「今の俺を、信号如きが止められるかぁっ!」


  道路に飛び出す健尾

  その時、大音量のクラクション

  トラック、目の前に迫る

  雲一つない青空

  肉が千切れ、骨が砕ける鈍い音

  人々の悲鳴が響く


●エルフィリア城・廊下(同日・午前)


  腕を組む健尾


健尾「まぁ、大学受験失敗は甘んじて許そう。俺の注意不足が原因だ。だけどその代償が、こんな姿だと青年は予想できるか!?」


綾人「それは、気の毒というか……」


健尾「そうだろう、そうだろう!?」


綾人「というか、どうしてさっき追われてたんだ?」


健尾「ふんっ、こちとらもう十年も街で妖精やってんだ。遠くに男のロマンが聳えてたら、そりゃ十年に一度の過ちくらい勘弁してほしいけどなぁ」


綾人「命知らずだな……」


健尾「んなことより、青年はどうやってこの世界に来たんだ?」


綾人「……近所に湖があるんだ。それを覗き込んだら、いつの間にか……」


健尾「何だそれ、意味分かんねぇ」


綾人「俺の台詞だよ」


健尾「だが、一つハッキリしたことがある」


綾人「何だ?」


健尾「俺たちの違いだよ」


綾人「違い?」


健尾「つまり俺たちは、転移者と転生者だ」


  綾人、怪訝に眉を顰める


健尾「ピンと来てないぁ。よくあるだろ?異世界モノの作品に。俺はきっと、現世でトラックに撥ねられて死んで、この世界に妖精として転生したんだ。んでお前は、まだ死んでない。肉体ごと、この世界に転移したんだ」


綾人「転移した俺と、転生したお前……」


健尾「まぁでも、納得いかねぇよな~。こういうのって、大体エルフ耳の超絶美少女が俺たちを召喚したとか、なんかすげぇチート能力が使えるとかあるもんだろ?それがこんな体じゃ、石も持ち上げらんねぇよ。死んでやり直す力とかでもいいから、何か欲しいよなぁ~」


綾人「……十年、この世界にいたのか」


健尾「あぁ。ま、この街から出たことねぇけど」


綾人「元の世界に戻る手段とかは……」


  縋るような表情の綾人

  しかし健尾、吐き捨てるように―


健尾「ないな」


  綾人、ハッと息をのむ


健尾「少なくとも、俺は見つけられなかった」


綾人「そうか……」


健尾「だけど、こうして出会えたのも何かしらの運命だ。同郷同士、そして契約者同士、仲良くしようぜ、青年」


綾人「あぁ……」


ゾルダム(声)「轟綾人だな?」


  傍らからかけられる声

  綾人と健尾、振り向く

  そこには、一人の青年

  純白の甲冑に身を包んでいる

  端正な顔立ち、目はキリっと二人を睨む


綾人「あぁ、そうだけど……。お前は……?」


ゾルダム「エルフィリア騎士団団長、ゾルダムだ」


健尾「騎士団?すっげぇ~!」


ゾルダム「その妖精は、お前の契約妖精か?」


健尾「はいそうで~す!ティンクルちゃんで~す!」


ゾルダム「そうか。ならば共に着いてこい」


綾人「どこに?」


ゾルダム「マダグレン陛下から話は聞いている。これからお前には、我が騎士団の一員として戦闘、及びクローン技術の訓練を受けてもらう」

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