第11話 契約妖精の中の人

●エルフィリア帝国・城下町(同日・午前)


  一人の騎士、尻餅をつく

  恐怖に歪む顔で見上げる

  その視線の先、鬼人

  ジリジリと迫ってくる

  拳を上げ、振るう

  目を閉じる騎士

  その拳が、剣で受け止められる

  目を開けると、綾人の姿


健尾「いいぞ、青年!」


綾人「今だ!」


騎士「あ、あぁ!」


  騎士、立ち上がり鬼人の背後へ

  両足のアキレス腱を剣で切り裂く

  唸り声をあげる鬼人、その場に膝をつく


騎士「とどめを刺せ!」


綾人「うおぉぉぁ!」


  横に振り抜かれた剣、鬼人の首を刎ねる

  鈍い音を立てて地面に落ちる首


綾人「……やった、や―」


健尾「うおっしゃぁ!やったぞぉ!」


  健尾、体を広げ喜びを全身で表現

  騎士、綾人に駆け寄り―


騎士「よくやった!他のやつも、援護してくれ!」


綾人「あ、あぁ……!」


  走り去る騎士

  健尾、小さな拳で綾人の肩を殴り―


健尾「絶好調だなぁ青年、おぃ!」


綾人「あぁ」


綾人M「凛々亜に、力を貰えた気がする……」


健尾「悪かったな、青年。あん時、酷いこと言って……」


  〔回想〕

・健尾「無理だよ!逃げてばっかりで、

      助けられてばっかりのお前は!」


綾人「いや、事実だ……。謝らなくていい……」


健尾「でも、今は―」


  健尾、綾人に満面の笑みで―


健尾「誇らしいぞ、青年!」


綾人「健尾……」


  その時、上空を炎が吹きすさぶ


健尾「あっつ!」


  冷気が身に刺さる


健尾「冷たっ!」


  雷がすぐ隣を掠める


健尾「あっぶね!」


綾人「もしかして、魔法か?」


健尾「見境なさすぎだろ!絶対どっかで同士討ちしてるって」


綾人「なぁ、俺たちも魔法、使えないか?」


健尾「と言うと?」


綾人「アンナや、フォルシャさんも使ってただろ」


  〔回想〕

   ・炎魔法を使うアンナ

   ・ブノツァーベルドを起動するフォルシャ 


健尾「クローンのやつは、妖精が動かしてたな……」


綾人「多分、どんな魔法も妖精を使って出すんだ」


健尾「つまり、妖精の俺は魔法が使えるってコト!?」


??「お兄さん」


  ふと声がかかり、振り返る二人

  目の前には少年の姿

  涙で瞳を揺らし、こちらを見上げている


少年「ママとはぐれちゃって……。助けてくだしゃい」


健尾「……」


綾人「……」


健尾「はい、剣構えて~」


綾人「あぁ」


  綾人、剣を抜き構える


健尾「先端を向けて~」


綾人「こうか?」


  綾人、剣の先端を少年に向ける


健尾「せーの……、はっ!」


  力を籠める健尾

  同時に、剣の先端から炎が噴出

  少年を包み、焼き尽くす


少年「くっ、そがぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


  倒れる少年、肉は焼け骨だけ

  額には角のようなもの

  どう見ても、人間ではない


綾人「おぉ、出た……!」


健尾「はっはぁ、ざまぁみろ!もうその手は通用しねぇんだよ!」


綾人「これなら、無理に攻撃を剣で受ける必要もないかもしれない」


健尾「うんうん、安全大事、効率大事。よっし、このまま援護しまくって、一番サポートしたで賞はいただきだぁ!」


× × × × ×


  一匹の鬼人を囲う騎士たち

  息は切れ険しい表情

  剣を握る手が疲労で震える

  その上空を、綾人が華麗に飛ぶ

  剣の先端が向く先は鬼人


健尾「ドラゴフレア!」


  炎が噴出、鬼人を焼き尽くす

  綾人、別の鬼人を視認して―


綾人「次、こいつ!」


健尾「ドラゴブリザ!」


  冷気が噴出、氷像になる鬼人


健尾「これまで、俺がどれだけ異世界モノの作品を見漁って来たと思っていやがる!魔法使いの設定によくありがちな、『想像力が大事』ってやつ、二次創作まで書いて培ってきた俺の想像力とネーミングセンスは、ネイティブ異世界人にも引けを取らないぜぇ!」


綾人「次、あいつ!」


健尾「ドラゴスパーク!」


  雷が、鬼人の体を真っ二つに引き裂く


健尾「因みに、どこにも『ドラゴ』要素はない!」


  着地する綾人

  目の前に、一際大きな鬼人

  綾人を見下ろして立ち塞がる


綾人「行けるか?」


健尾「はぁ、はぁ、疲れた……。ドラゴフレア!」


  剣の先端から火炎弾が噴出

  しかし鬼人、それを片腕で跳ね返す


健尾「ダメだ、こいつ頑丈すぎる!」


騎士「俺たちも加勢する!」


  周りの騎士たち、鬼人を取り囲む


健尾「よし、ドラゴフレア……!」


  騎士たちの業火が鬼人に迫る


綾人「もう少し、もう少しだ……!」


健尾M「はぁ、はぁ……。め、目の前が真っ白だ……。魔法に目覚めちまった興奮で、頭がやられてんだな……。でも、ここでやめちまったら大魔法使いの名が廃るぜ……!もう一回……、よし、行くぞ!ドラゴフレ―」


  業火、鬼人の体を包み込む

  鬼人、唸り声をあげその場に倒れる


ティナ「やりました!」


綾人「あぁ!」


  その時、怒号が響く

  押し寄せる莫大な人数の騎士たち

  同じ顔をしたものたちがいる

  綾人、その中に自分と同じ顔を見つけて―


綾人「もしかして、これがクローン……?」


ティナ「数が多すぎます、一旦引きましょう!」


綾人「あ、あぁ……!」


× × × × ×


  民家のような建物

  中で身をかがめる綾人

  窓からは、クローンたちの戦闘の様子が見える

  轟音、建物が揺れ、砂や瓦礫が落ちる


ティナ「しばらく、ここに身を置いた方がいいでしょう」


綾人「それはいいんだけど……」


ティナ「?」


綾人「お前、誰だ?健尾はどこに行った?」


ティナ「健尾……。あぁ、ティンクルのことですね!」


綾人「あぁ、そうだ」


ティナ「死にましたよ」


綾人「……は?」


ティナ「どうしました?」


綾人「いや……、え……?だってさっき、え……?」


ティナ「あんなに魔法使えば、そりゃ死にますよ~」


  綾人、ティナに詰め寄り―


綾人「ど、どういう事だ!説明になってない……!」


ティナ「えぇ!?よ、妖精が力を使い果たせば死ぬなんて、当たり前じゃないですか!」


綾人「力を、使い果たす……?」


ティナ「あれだけ魔法を使えば、力尽きるのも当然!」


  ティナ、その場でクルリと周り―


ティナ「あ、今の綾人さんの契約妖精は私、ティナです!」


綾人「死んだ……、消えたのか……?」


ティナ「何も知らないんですか?」


  綾人、力なく頷く


ティナ「騎士様方は、それぞれに契約妖精がいて、その力を使って戦っているんです。その過程で妖精が力を使い果たせばその場で死に、また新たな契約妖精が生まれます」


綾人「生まれる……?」


ティナ「はい。すぐに、その場で生まれます。まぁ、原理は分かりませんけど~」


  〔回想〕

   ・男性「あんなん殺してもいくらでも生まれるってのに」

   ・アンナの耳の上で眠るリリィとシュシュ

   ・斧を振るうアンナを止めたルゥルとソシラ


綾人「違う、あいつは……。あいつの中身は、妖精なんかじゃなくて……」


  唖然とする綾人、息が荒い

  その時、轟音が響く

  窓から外を見る綾人

  目の前に広がる赤、赤、赤

  原型をとどめていない何か

  きっと、騎士たちの死体

  まさに、地獄絵図


綾人「なん、だよ、これ……」


  その時、目の前に綾人が現れる

  鬼人に立ち向かっていく


綾人「あ、俺……」


  しかし、腕をもがれ殺される

  もう一人の綾人、鬼人に迫る

  しかし、足をもがれて殺される

  もう一人の綾人

  首を引きちぎられる

  もう一人の綾人

  四肢を失いダルマになる

  もう一人―

  内臓を全て出されて食われる

  もう一人―

  心臓を引き抜かれて潰される

  もう一人―

  皮をはがされる

  もう一―

  体中の骨が飛び出す

  もう一―

  押しつぶされてグチャグチャ

  もう―

  股から引き裂かれて真っ二つ

  もう―

  眼球を抉り出され頭を割られる

  も―

  体が真っ二つに折られる

  も―


綾人「うっ……」


ティナ「綾人さ―」


綾人「゛う゛お゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇっ」


●エルフィリア城・玉座の間(同日・午前)


  玉座に腰かけるマダグレン

  悠々とした表情

  その時、扉が音を立てて開く

  綾人が入ってくる

  フラフラとした足取り

  中央で膝から崩れ落ちる


マダグレン「やぁ、綾人くん。いつかの、見覚えのある光景だね」


綾人「……てめぇは、そこで踏ん反り返ってるだけか」


マダグレン「僕は、最後の砦さ」


  その軽口に、綾人は反応しない

  マダグレン、怪訝そうな表情を向け―


マダグレン「どうしたんだい?しぶとく生き残っているみたいだけど」


綾人「……もう、無理だ。なんだよ、あれ……。あんなの、犬死じゃねぇか……。何のために、あんな―」


  嘔吐する綾人


マダグレン「おいおい、あとで掃除しといてくれよ」


  マダグレン、「ふむ」と顎に手をやり―


マダグレン「そうだな……。これは、君の価値観を正さないとどうにもならない問題なんだけど……。聞くかい?」


綾人「何だ……」


マダグレン「知っての通り、エルフは永遠に等しい寿命を持っている。彼らは、そんな寿命に、心底飽き飽きしているんだ。だから、いつ死んでもいいと思っているし、何なら今死んでもいいとさえ思っている。もちろん、仲間を無下に死なせるようなことはしないけどね。要するに、死にたがりなんだよ、彼らは」


綾人「……」


マダグレン「だから、死んで鬼を足止めできるならそれに越したことはない……、というか、彼らにとったら本望だよね」


綾人「じゃあ、あのクローンは……」


マダグレン「ただの消耗品に過ぎない。もちろん、妖精もそうだ。力を合わせて戦おうなんて考え、端から彼らにはないんだよ。これが、人間とエルフの価値観……、死生観の違いだ」


  マダグレン、薄汚い何かを見る表情で―


マダグレン「正直、気色悪いよね」


●エルフィリア帝国・城下町への道(同日・正午)


  歩いている綾人

  フラフラと、壁伝いに進む

  街からは怒号、絶叫、火の手と黒煙


綾人「健―、ティナ……?」


  しかし、頭上に姿はない

  壁に凭れ、へたり込む綾人


綾人「置いてきちまったか……」


  頭を抱える綾人

  グシャグシャと掻きむしる

  そこに落ちる一つの影

  見上げる綾人、目を見開く

  額に二本の角、緑色の鬼人

  ノグセン、綾人を見て大きく口角を上げ―


ノグセン「見つけたぁ、人間だぁ!」

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