第12話 第三の国

●エルフィリア帝国・城下町への道(同日・正午)


  へたり込む綾人、怯えた表情

  その視線の先、緑色の鬼人

  興味深そうに綾人を見て―


ノグセン「おぉ、これが人間……!確かに、耳の短いエルフ、角のない鬼人にも見えるなぁ……」


  ノグセン、満足そうに鼻を鳴らして―


ノグセン「よし、小さい頃からの夢が、ついに叶ったぞ!俺は満足だ!」


  喉が震え、声が出ない綾人

  鬼人のその様子に戸惑っている

  ノグセン、綾人に首をかしげて―


ノグセン「ところで、お前は何で一人なのだ?その格好、お前もエルフの騎士団の一員であろう?まぁ、かく言う俺も仲間とはぐれてしまってなぁ。ここはどこだぁ?」


  辺りを見回すノグセン

  眉を寄せ、困った表情


綾人M「この鬼、今までのやつとは違う……」


綾人「よ、よぉ……。俺は、轟綾人だ。お前は?」


ノグセン「俺はノグセンという!緑鬼で一番偉い!」


綾人「そ、そうか……。お、俺はこのまま城下町に行って仲間と合流する。だから、俺のことは見逃せ。そしたら、お前のことも仲間に黙っといてやるよ」


綾人M「黒鬼と白鬼を倒したら、次はこいつの番だ……」


  「ふ~む」と考え込むノグセン

  ややあって、パッと綾人を見やり―


ノグセン「うむ、それはできない!」


綾人「な、なんでだ……!俺たちがここで、二人で争って何になる!お前は、他の鬼どもより話が通じる!だから―」


ノグセン「まぁ、それは一理あるな。他の奴らは、血気が盛ん過ぎる……。だが俺も、ツァイホン様の命令に背くことは出来ない」


綾人「命令……?」


ノグセン「エルフィリアの全てを、根絶やしにしろ」


綾人「……!」


ノグセン「それにな、轟綾人。お前は、もう遅いぞ……?」


綾人「え……?」


  呆けた声の綾人

  鼻からツーと血が伝う


●エルフィリア帝国・城下町(同日・正午)


  剣と拳を交える騎士と鬼人

  そこに、ジャリ、ジャリ、と重い足音

  一歩一歩、確実に踏みしめる

  その足は大きく、そして赤い

  足首から腰、そして背中、胸

  仰々しい虹色の装飾が、カラリと鳴る

  その音に、周りの者たちが目を向ける

  一人の鬼人、それを見て口角を上げ―


鬼人「ツァ―」


  体が粉々に吹き飛ぶ

  周りのエルフ、鬼人も同様

  地面は剥がれ、建物が吹き飛ぶ

  一瞬にして、そこには何もなくなった

  その重い衝撃を放ったのは、一本の剣

  虹色がギラリと鈍く光る

  持つ者の背丈と同じ長さ

  そして同じ太さの大剣

  再びジャリ、ジャリ、ジャリ

  数歩進めて立ち止まり、顔を上げる

  正面遠方に聳えるは、エルフィリア城


??「マダグレン・エルフィリア……」


  虹色の瞳、鋭く凶悪な眼光

  ツァイホン・トルモン、其の人

  帝国の象徴をギロリと睨み、嗤う


●エルフィリア帝国・城下町への道(同日・午後)


  息を切らし必死に逃げる綾人

  足がもつれ、思うように走れない

  ノグセン、その後ろを追いかける

  妙に整った走り方、笑顔

  その時、ドクンと強く脈打ち―


綾人「う゛お゛え゛ぇっ」


  ビチャッと、地面に何かが落ちる

  赤黒い、血だ


綾人「な、なんだ……、これ……」


  〔回想〕

  ・休戦場、吐血するエルフたち


綾人M「もしかして、毒……?あの毒は、こいつの……」


  振り返る綾人

  すぐ目の前にノグセン

  「はぁ~」と息を吐く

  禍々しい色の息が、口から漏れる


ノグセン「ツォンセも惜しい奴だ。折角、俺の毒を分けてやったというのに……。ま、過ぎたことは過ぎたことだな」


  拳を振り上げるノグセン

  綾人、回避も防御もする気力がない

  力なく目を閉じる

  そこに、一本の大剣が飛んでくる

  勢いよく、ノグセンの足元に突き刺さる

  鋭い音が、建物間に反響する

  飛び退けるノグセン

  その時、綾人の背後から声


??「これが鬼人……。思った以上に恐ろし顔ね」


??「大丈夫だ。ねえさんは俺が守る」


??「アンタは自分の心配をしなさい」


  綾人の前に、二人の人物が立つ

  少女・トワ、ノグセンを睨み―


トワ「気を付けて。あいつ、口から毒吐いてるわ」


  男性・リュート、懐に手を入れ―


リュート「あぁ、分かってる。距離を取って戦うならこれだ」


  リュート、銃を取り出し構える


ノグセン「お前ら、何者だ?感心しないぞ、戦いに水を刺すとは」


リュート「今から死ぬお前には、関係ないっ!」


  リュート、発砲

  全て避けるノグセン

  大きく飛びあがり拳を構える


リュート「ねぇさん、この子を!」


トワ「分かってるわよ!」


  ノグセン、地面を拳で砕く

  その背後、トワとリュートの姿

  トワ、綾人を抱きかかえている


リュート「思った以上にすばしっこい、これじゃ当たらないなぁ……」


トワ「大丈夫、もうすぐ着くわ」


  ニヤリと笑うトワ

  ノグセン、それに怪訝な表情

  その時、背後から大量の足音

  振り返るノグセン

  大勢がこちらに迫ってきている

  腕がない、顔がない、腹が抉れている

  姿形は様々

  しかし皆、一様に生気がない


ノグセン「小賢しい!」


  ノグセン、毒息を吐く


トワ「ふんっ、死体に毒なんて効かないわよ!」


  死体たち、ノグセンを取り囲む

  力を入れても、身動きが取れない


ノグセン「くそっ、どうなっている!」


  リュート、銃口をノグセンの頭に

  発砲、弾丸が額を容易く貫通

  トワ、「ふぅ」と一息ついて―


トワ「ま、大したことないわね」


リュート「ねぇさん、大したことしてないじゃん」


トワ「死体操んのも体力使うのよ!」


リュート「うそうそ、おかげで助かったよ」


トワ「ふんっ、もっと崇めなさい!」


リュート「その子、どうする?」


トワ「放っておくわけにもいかないでしょ。毒も回っちゃってるし。それに、人手は大いに越したことないわ……」


リュート「そっか。じゃあ、連れていこう」


●???(翌日・朝)


  真っ暗闇

  ユラユラと蠢く


綾人M「ここは……?体が楽だ……。あぁ、そうか。死んだのか、俺……」


  微かに目を開く

  光が差し込んでくる

  そして、覚醒

  知らない天井、知らない壁

  傍らに、一人の男性

  立ち上がり、誰かに声をかける


??「Hey, he’s waken up. 」


  近づいてくる足音

  一人の少女がやってくる

  トワ、綾人の隣に腰かけ―


トワ「良かった。目が覚めたのね」


綾人「お、俺は……」


トワ「毒は抜いたわ。あなたは死んでない、残念ながらね」


綾人「助かった、のか……」


  綾人、辺りを見回す

  全く知らない景色


綾人「ここは、どこだ……?」


トワ「ミョルティ……、アタシたちはそう呼んでる」


  トワ、立ち上がり―


トワ「エルフィリアの……、いえ、あの馬鹿でかい湖、ティアード・ポンドの外にある国よ」

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