四章 叛逆の意思

第13話 逸れ者の肥溜め

●ミョルティ・集落(同日・午前)


  小さな建物に囲まれた路地

  綾人、歩いている

  足元は砂地、剥き出しの岩

  靴に砂が入る感覚が気持ち悪い

  地面に直に座る人々

  色は黒く、やせ細っている

  覇気のない目で綾人を見上げる

  路地を抜け、広場に出る綾人

  ふと、背後を見やる

  階段の上、他の建物よりは

  比較的大きく、装飾のされた建物


綾人M「エルフィリア城とは、えらい違いだな……」


綾人「ここが、ミョ、ミョ……」


リュート(声)「ミョルティだ」


  リュート、綾人の隣へ


リュート「自己紹介が遅れた、リュートだ」


綾人「あ、あぁ。と、轟綾人……」


リュート「綾人か。悪いな、こんな寂れた場所で」


綾人「いや、助かった……、本当に」


綾人M「もし助けがなければ、俺はもう……」


リュート「ミョルティは……、まぁ、俺らが勝手にそう呼んでいるだけだが、小さな国だ、他のどの亜種たちにも相手にされない。まして、エルフや鬼どもなんて、頭の片隅にさえないだろう」


綾人「エルフィリアの貧民街も、こんな感じなのか……」


リュート「見たことはないが、多分な。実際、その貧民街から逃げてきたってやつもいる。まさに、逸れ者の肥溜めって感じだな」


綾人「どうやって暮らしてるんだ?」


リュート「義賊って、分かるか?」


綾人「盗んでるのか?」


リュート「そうでもしないと、生きられない」


  小さな露店がある

  地面に直に置かれた、僅かな食材


リュート「明日の朝、無事に日を拝めるかどうかってやつがほとんどだ」


綾人「そうなのか……」


リュート「これでも、だいぶ体制は整ってる。盗みをするのは、俺やトワに仕えてるやつらで、それを集落に配ってる」


綾人「トワって?」


リュート「さっき、お前を送り出した女の子だよ。ここ、ミョルティの長をしている」


綾人「え、あんなに小さい子が?」


リュート「あぁ見えて、だいぶ歳はいってる。ネクロマンサーは、見た目の変化があまりないからな」


綾人「ネクロマンサ―?」


リュート「あぁ、死体を操る種族だ。昨日、あの緑鬼を足止めできたのも、その力のおかげだ」


  〔回想〕

  ・ノグセンを囲う死体の束


リュート「因みにトワは、俺の姉だ」


綾人M「じゃあ、リュートも同じ力を……」


  その時、バッと肩を掴まれる綾人

  驚き、振り返る

  そこにいるのは、中年の女性だ

  肌は黒く、年齢より皺枯れて見える

  しゃがれた声で必死に―


女性「あんたが、エルフィリアから来たって子かい!?」


綾人「あ、あぁ、そうだ……」


女性「あたしの娘を見てないかい!?」


綾人「娘?」


女性「アンナ……、アンナを見てないかい!?」


綾人「……!」


女性「ずっと、後悔してるんだ、あの時捨てちまったのを……!食い物もなくて、水もなくて、一人で生きていくのが精いっぱいだった……。だから、あの子を置いて、一人で逃げてきて……!」


  肩を震わせ、涙を流す女性


  〔回想〕

  ・アンナ「私はあの時、あのまま道端で力尽きていたでしょう……」


綾人「あの子は、城でメイドとして働いてる……」


女性「メイド……?」


綾人「大変そうだけど、楽しそうだよ。俺も、良くしてもらった」


女性「そう、そうかい……!」


  声を上げて泣く女性

  綾人、複雑な表情で女性を見ている


●ミョルティ・城(同日・午前)


  椅子に腰かける綾人


綾人M「異世界で、格差か……」


綾人「戻ったら、アンナに話してやらないと」


  そこに、一人の男性がやってくる

  綾人の隣にドッカリと腰を下ろし―


??「体調、へい⤴き?」


綾人「あ、あぁ、大分……」


??「よか⤴ったねぇ」


  色黒で屈強

  体の大きさは、綾人の数倍

  その顔つきはまるで―


綾人M「アメリカ人……?なわけないか」


綾人「あ、俺は轟綾人」


??「Oh, Ayato! My name is Maurice Samms.モリスって、呼んでぇ」


綾人M「英語……!?どうしてこの世界に……」


  綾人、ハッとする


◆大学・講義室(二年前・午後)〈回想〉


  席に座る綾人

  周りには大勢の学生

  外国人の教授、学生を見渡し―


教授「Welcome to my first class! My name is Maurice Alan. Call me Maurice. 」


  その後、ペラペラと話し続けるモリス

  綾人、渋い顔をする


綾人M「聴き取れねぇ……」


●ミョルティ・城(同日・午前)


  モリスを見つめる綾人

  深刻な表情


綾人M「ラストネームが違う、別人だ。だけど、この名前は……!」


モリス「Ayato、戦ってた?」


綾人「あ、あぁ。なぁ、今って何年だ?」


モリス「1940でしょ?Everybody’s like “?”だけど」


綾人M「やっぱり、この男……」


綾人「転移者、だ……!」

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