最終話 永遠の王

●ミョルティ・墓地(数日後・午後)


  いくつもの墓石が立ち並ぶ

  その内の一つ、手を合わせる綾人

  「アンナ」と刻まれている

  人間には理解できない独特の文字


綾人「……」


  目を開け、立ち上がる


トワ「綾人」


  振り向く綾人

  トワ、こちらにやってくる


トワ「ここにいたのね」


綾人「あぁ」


  綾人、墓石を見て―


綾人「悪いな、作ってもらって」


トワ「あの子、ミョルティに住んでた人の娘なんでしょ?国民も同然よ」


  トワ、墓地を見渡して―


トワ「ティアード・ポンドに移ってから、死者もめっきり減ったわ。今は、この墓地をすっからかんにするのが目標よ」


綾人「お前、もうネクロマンサ―やめろよ」


トワ「あはは、それもそうね」


綾人「リュートは、平気か……?」


トワ「……ずっと、剣を振ってるわ。何かに取り憑かれたみたいにね」


綾人「そうか……」


  綾人、寂しげな表情

  トワ、それを覗き込んで―


トワ「アンタこそ、心穏やかじゃないはずだけど」


綾人「まぁ、ぼちぼち」


トワ「そう」


  トワ、背中を向け歩き去る


トワ「じゃあ、また夜会いましょう。ヴァ―サムルグで」


綾人「あぁ」


  綾人、トワの背中を見ずに答える


●ヴァ―サムルグ(同日・夜)


トワ「あれ以来、特に物騒なことは起きてないわ。私が知らない間に、動いてる死体もない」


ツァイホン「同じく」


綾人「協定、結んだままでいてくれてありがとうな、ツァイホン」


ツァイホン「無論だ。我は、あの外道に嫌気がさしただけ……。轟綾人、貴様が新たなエルフィリアの王となった今、その協定を反故にする理由はない」


  円卓の会議場

  席に腰かけるツァイホンとトワ

  そして、二人と対面する綾人


トワ「本当よ。一体、どんな風の吹き回し?まぁ、元凶に気付いて、それを倒した綾人は称えられるべきだけど」


綾人「あの状況に、身に覚えがあっただけだ。だから、ただの偶然。もしあの場にいなければ、今も分からないままだった」


ツァイホン「だが事実、あの殺人鬼を討伐したのは貴様だ、轟綾人。これで、ティアード・ポンドに真の平和がもたらされた。感謝する」


  小さく頭を下げるツァイホン

  それを見て、綾人、複雑な表情


綾人「大げさだ……。それに、そんな大層なもんじゃない……」


◆エルフィリア城・ティアード・ポンドほとり(数日前・夜)〈回想〉


  一つの墓石

  綾人、それを見下ろし立ち尽くす


綾人「凛々亜……」


  手に短剣

  それを首元へ

  カタカタと震える

  先端からツーと血が垂れる

  ハッと息を吸い込み―


フォルシャ「時期尚早じゃないかい?」


  サクサクと足音

  フォルシャ、やってくる


綾人「……何が早いんだよ。凛々亜は、もうどこにもいないのに」


  膝をつく綾人

  フォルシャ、彼と視線を合わせて―


フォルシャ「一つ、提案をしに来たんだよ。だから、死んでもらっては困るな」


綾人「提案……?」


フォルシャ「エルフィリア帝国の、王になってくれないかい?」


綾人「何……?」


フォルシャ「この帝国は、マダグレンという先導者を失った。もちろん、それだけで今すぐにどうこうなるってわけじゃない。だけど、マダグレン……、いや、一ノ瀬真子人と言ったかな?彼の、物事を平穏に収めようとする力は確かだった。子供殺しは決して許されることじゃないけど、この国にはやはり先導者が必要だ」


綾人「それを、俺にやれって……?」


フォルシャ「あぁ、ぜひお願いしたい」


綾人「……どうして、見ず知らずの国を俺がまとめなきゃいけないんだ。元の世界で凛々亜がいなくなって、死んだような気分だった……。だけどそんなの、今となっては生温い。凛々亜はもう、どこの世界にもいない。俺は、本当の意味で凛々亜を永遠に失ったんだ……。そんな、未練も何もない国を、どうして纏めなきゃいけないんだ。そんな世界に、俺を縛り付けないでくれ。俺を、死なせてくれ……」


  フォルシャ、立ち上がる

  手をパンパンとはたいて―


フォルシャ「いいや、そういう訳にもいかない。私もゾルダムも、王って器じゃないしね」


綾人「黙れ……」


フォルシャ「これはもう決定事項だ。君には王として、永遠にこの国を統治してもらう」


綾人「やめてくれ……」


フォルシャ「クローンを、使ってね」


  綾人、パッと顔を上げる

  信じられないように、一点を見つめ―


綾人「何だって……?」


フォルシャ「聞いたよ、リーリア・エルフィリアのこと。クローンを使って記憶と意識を引き継ぎ、君を待とうとしていたようじゃないか」


綾人「あぁ」


フォルシャ「本当、よく考えつくよね。到底、人間の思考とは思えないよ」


綾人「でも、もうどこにも凛々亜はいない。何年待ったところで、意味なんてない……」


フォルシャ「君のように、異世界からの来訪者は何人かいるようだね。君にリーリア様、モリスくんと健尾くん、だったかな?その仕組みについて、何か分かることは?」


綾人「いや、何も……。いつ、どのタイミングで飛ばされるのか分からない。どの時代に飛ばされるかも……」


  瞬間、綾人、目を見開く


フォルシャ「気づいたかい?君が待つべき彼女を」


綾人「別の時間の、凛々亜……?」


フォルシャ「そうだ。君が来た時代の彼女は、この世界で死を遂げた。だがそれは、現代の彼女に限った話し。過去や未来、そのほかの時間からもしかしたら飛んでくるかもしれない彼女を、君はクローンを使って待ち続けるんだ。まぁ、現代の彼女が死んだ以上、未来は望み薄かもしれないけどね」


綾人「そんなこと、できるのかよ……」


フォルシャ「ブノツァーベルドは、一世代前と同じ不具合……、いや、機能を持ったものに改良した。成功するかは別として、明確な手段はある。今度は君が、彼女を待つ番だ。君を待った彼女と、同じ方法でね」


綾人「凛々亜と、同じ方法で……」


フォルシャ「今ここで……、私の前で死ぬか、クローンを用いてこの国の永遠の王として君臨し、想い人を待つか……。選ぶのは君だよ、轟綾人」


●ヴァ―サムルグ(同日・夜)


  綾人、俯きがちに―


綾人「そんな、大層なものじゃない……。けど―」


  綾人、顔を上げて―


綾人「この世界を平和にしたいとは思ってる」


綾人M「凛々亜が来る、その時のためにも……」


  トワ、薄く微笑み頷く


トワ「そう」


ツァイホン「ならば、口を出すこともあるまい」


  綾人、安堵したようにフッと微笑む


綾人N「次会える時は、俺はもうクローンになってるかもしれない……。けどまぁ、それはお互い様だ。ずっと待ってる……。だから今度は、俺のことを見つけてくれ、凛々亜」


〈了〉

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ティアード・ポンド~異世界で勇敢に戦う君は、本当に俺の求める君なのか?~ であであ @hiikun0815

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