六章 永遠に君を想う

第28話 新天地への道程

●ティアード・ポンド(数週間後・午前)


  三分割されたティアード・ポンド

  西のエルフィリア帝国

  東のトルモン王国

  南のミョルティ

  そして中央には『ヴァーサムルグ』

  三国の長が一堂に会する場所だ


●エルフィリア城・玉座の間(同日・午前)


  半壊した玉座の間

  そこに大量の鬼人

  壁や床を修理している

  それを監督するフォルシャ

  パンパンと手を叩いて―


フォルシャ「ほらそこ、サボらないよ。せっかく眠い目こすって見に来てあげているんだ、しっかり働きなよ」


鬼人「この小娘が……!」


マダグレン「これは、君たちの王の命令だ」


  玉座に腰かけるマダグレン

  余裕そうな、気だるげな体勢

  マダグレンとフォルシャ、ニヤリと笑う

  陰気で邪悪な笑みを浮かべ―


マダグレン「背けばどうなるか、分かっているね……?」


フォルシャ「指示があれば、私はすぐにこの城の結界を発動する。そうなれば、君たちの肉体は文字通り木端微塵だぁ……」


  鬼人たち、見る見るうちに顔が青ざめる


フォルシャ「黙って作業するのが得策だと、私は思うけど?」


鬼人「クソッ……!」


●トルモン城・謁見の間(同日・正午)


  玉座に腰かけるツァイホン

  ドッカリ、堂々と座っている

  まさに、動かざること山の如し

  その傍ら、肘をついて寝転がるヘイス

  バイス、それにしな垂れかかり―


バイス「ねぇ、お姉ちゃん。もう一回融合しよ?ね?」


ヘイス「しねぇよ。何に目覚めてんだ」


  立ち上がるヘイス

  拳を合わせ―


ヘイス「もどかしくて寝れもしねぇ!まだ決着ついてねぇんだよ……」


  〔回想〕

  ・ヘーゼ「これが終わったら、また改めて殺し合いだかんなっ!」

  ・ゾルダム「あぁ、望むところだっ!」


ヘイス「ゾルダム……!」


●ミョルティ城・玉座の間(同日・午後)


  玉座に腰かけるトワ

  満足げに足を組んでいる

  その傍ら、剣を携えたリュート

  はしゃぐモリスがトワの前を駆ける


モリス「What a fantastic castle this is! 」


トワ「うるさいわね、いつまではしゃいでんのよ」


  玉座の間中央にアンナの姿

  モリスを見て顔を引き攣らせる


トワ「ごめんなさいね、態々来てもらって。モリスがどうしてもって聞かなくて……」


アンナ「い、いえ……」


  モリス、アンナの前に立つ

  その巨躯を見上げ、息をのむアンナ

  直後、モリス、頭を下げ―


モリス「ごめんなさい。あなた、腕、失くした」


  アンナの右腕は、肩から下がない


アンナ「……良いんです。私も不注意でしたから」


モリス「でも、戦うのダメ、伝えたかった、but……. 」


アンナ「舐めないでください。私だって、一人の傭兵です。腕の一本や二本、失う覚悟で戦ってるんです。だからこのくらい、なんてことないです。それに―」


  〔回想〕

  ・マダグレン「選手交代だ、アンナ」


  アンナ、僅かに頬を赤らめて俯く

  その頭を、モリスが大きな手で優しく撫でる


アンナ「な、何ですか……?」


モリス「あなた、とても似てる。My daughter、その強さも……」


アンナ「……」


トワ「ってことだから、私からも謝るわ。アナタさえよければ、ゆっくりしていってちょうだい。といっても、まだまだ陰気臭い場所だけど」


  アンナ、何かを思いついたように―


アンナ「そうだ」


●ミョルティ・城下町(同日・午後)


  タッタッタ、走るアンナ

  その時、石に躓いて転ぶ


アンナ「あびっ!」


  起き上がり、砂をはらう


アンナ「いててて……」


??「あなた、大丈夫?」


  見上げるアンナ

  そこには、一人の女性

  瞠目、震える声で―


アンナ「ママ……」


母親「アン、ナ……?」


アンナ「ママ……!」


  アンナ、母親に飛びつく

  母親、アンナを抱きしめ―


母親「アンナ、アンナ!ごめんなさい、私……!」


アンナ「ううん!私こそ、会いに行けなくてごめんなさい……!」


母親「これからは、一緒に暮らしましょう!」


  その言葉に、アンナはハッとする

  ゆっくりと、母親から離れ―


アンナ「ごめんなさい……。私、今メイドをしていて、お仕え……、ううん、お慕いしている人がいるの……。だから―」


母親「分かった」


アンナ「いいの……?」


母親「もちろん……。大きくなったわね!」


  アンナ、パッと明るい表情

  それを遠目に見るトワ

  頬を伝う涙、指で拭う


綾人「お前も泣くんだな」


  振り返るトワ

  綾人とリーリア、歩いてくる


トワ「ネクロマンサ―を何だと思ってるのよ。この間も言ったでしょ?」


綾人「そうだったな」


トワ「もう、行くのね?」


綾人「あぁ」


トワ「寂しくなるわね……」


  リーリア、トワに抱き着く


トワ「……なによ」


リーリア「ありがとう、トワ。私のこと、助けてくれて……」


  トワ、抱き返し―


トワ「アタシこそ、ありがとう……」


リュート「綾人」


  振り向く綾人

  リュート、歩いてくる


リュート「いや、父さんって呼んだ方が良いのか?」


綾人「40近く上の男にそんな呼ばれ方する方の気持ちも考えろ」


リュート「ははっ。悪いな、普通に子供出来なくて」


綾人「誰のせいでもない。それより、寂しくないのか?」


リュート「まさか、もうそんな歳じゃないよ」


  リュート、真っ直ぐに綾人を見つめて―


リュート「母さんを頼む」


  綾人、微笑んで―


綾人「一般的な親子の会話だな」


●砂漠(同日・夕方)


  歩く綾人とリーリア

  砂が足に纏わりつく

  だが、二人の表情は明るい


リーリア「50年も経ってるのに、どうして綾人はお爺さんじゃないの?」


綾人「あ~……、そこら辺ややこしくてまだ何も分かってないんだ。俺の知り合いが言うには、時間の流れが違うとかなんとか……」


リーリア「知り合いがいたの?」


綾人「あぁ、転生者でな、妖精なんだ。凛々亜にも、会わせてやりたかったな……」


リーリア「他の国にも、私たちみたいな人いるかな」


綾人「きっといるよ。そいつらに聞けば、何か分かるかもしれない」


リーリア「いい国、あるかな……」


綾人「あるよ。俺たちにピッタリな」


リーリア「ちょっと心配だな。また、戦ってたりしたらどうしよう」


綾人「あれは、あいつらが物騒なだけだから……」


リーリア「綾人、エルフ耳似合ってるね」


綾人「そうか?まだ、スゥスゥして慣れない……」


リーリア「良かったの?綾人、その……」


綾人「移植のことか?」


リーリア「うん。その過程で、エルフの血が僅かだけど混入してる。もう人間じゃないんだよ、私も綾人も……」


綾人「いいよ。その分長く生きられる。今まで一緒にいられなかった分を、この永い寿命で取り戻そう」


リーリア「綾人……」


× × × × ×


  立ち止まる綾人


リーリア「ここ……」


綾人「ミョルティだ。旧、な」


リーリア「懐かしい……、変わってないね!」


綾人「誰も住んでない分、ちょっと汚くなったか?」


  リーリア、愛おしそうにミョルティを見つめる

  綾人、そんなリーリアを見て―


綾人「ちょっと寄ってくか?」


リーリア「うん!」


●旧ミョルティ(同日・夕方)


  ゆっくりと、見て回るリーリア

  過去の思い出に浸っているよう

  城の中を指さして―


リーリア「ここでリュートを産んだんだよ!」


綾人「立ち会えなかったのが悔しいな~」


リーリア「それはまぁ、これからまた、ね……」


綾人「あ、あぁ……」


  顔を赤らめる二人

  互いに目を逸らしそっぽを向く

  その時、綾人、何かを感じる


綾人「うっ……!」


  鼻をつんざくような臭い

  強烈な異臭に、思わず鼻をつまむ


綾人M「なんだ、これ……」


リーリア「どうしたの?」


  綾人、平静を装って―


綾人「あぁ、いや。俺もちょっと見て回ってくるから。あんまり離れんなよ」


  綾人、背を向け歩き去る

  リーリア、その背中に―


リーリア「もう離れないよ」


× × × × ×


  集落、建物の間を歩く綾人

  眉を顰め、鼻をつまむ

  臭いの方へ歩いていく


綾人M「どんどん、強くなってる……」


  やがて、開けた場所に出る

  そして、綾人、その光景に絶句する


綾人「これ、は……」


  山積みにされた死体、死体、死体

  土や泥に汚れ、虫が集っている

  白骨化したもの、原形を留めていないもの

  それを前に、綾人はただ立ち尽くすしか―


綾人「う゛お゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇっ」

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