第29話 ヴァーサムルグの論争
●ヴァーサムルグ(同日・夜)
円卓の会議場
三国の長と、その付き人が集う
居丈高に構えるトワ、辺りを見回して―
トワ「まさか、こんなところがあったなんてね」
マダグレン、手をヒラヒラさせて―
マダグレン「大事な話をするのに、己の玉座に踏ん反り返って、なんて失礼極まりないだろう?」
朴訥なツァイホン、物言いたげな目
マダグレン「それにしても、旧ミョルティに大量の死体か……。愛の逃避行の最中に、とんだ災難だったね」
マダグレンが目を向ける先
腕を組み、壁に凭れる綾人
その隣に、リーリアの姿
綾人「茶化してる場合かよ」
トワ「先手を打って言っておくけど、アタシたちじゃないわよ」
ゾルダム「はっ、どうだかな」
ゾルダム、鼻を鳴らす
トワを鋭く睨み―
ゾルダム「死体を集め玩弄する……、まさにネクロマンサーの習性そのものだ」
トワ「何が言いたいのよ」
ゾルダム「俺はまだ、貴様らを信用していない。殺すことしか能のない死体同然の貴様らと協定を結んだなど、考えるだけでも反吐が出る」
トワ「今更何よ……。アタシたちは、何もやってないわ」
ゾルダム「証拠は?」
トワ「そんなものないわよ。アンタたちだって、出せないでしょ?」
マダグレン「そうだよ、ゾルダム。あまり公私混同するものじゃない。それとも君は、僕の判断が間違っていたとでも言いたいのかい?」
ゾルダム「……申し訳ございません」
マダグレン、頭の後ろで手を組み―
マダグレン「証拠ねぇ。誰かがあの大量の死体を、態々砂漠を超えて運んでいるところを見ていればいいんだけど」
トワの傍らのリュート、ツァイホンを見て―
リュート「鬼人、お前らか?」
ツァイホン「その必要はない」
リュート「なんだと?」
ツァイホン「我々は、姑息に隠すような真似などせぬ。その場で全て喰らってくれよう」
リュート「そう言う話じゃないんだけど……」
ゾルダム「そこのチビ、貴様か?」
ヘイス、両拳をガンッと突き合わせ―
ヘイス「てめぇ、今日なんか口悪ぃなぁ。喧嘩売ってんなら買ってやるぜ?こちとら消化不良なんだよ。バイスが留守番だからって、舐めてんじゃねぇぞ……?」
ゾルダム「望むところだ」
剣に触れるゾルダム
ヘイス、構え―
ツァイホン「よせ」
ヘイス「でもよ―」
ツァイホン「よせと言っている。消し炭にされたいか……?」
ツァイホン、傍らのムジグゼに手をかける
ヘイス、ギョッとして―
ヘイス「……チッ」
トワ「あれ、脅し文句には十分ね……」
マダグレン「本当にやめてね?」
ゾルダム「エルフィリアは、この件に関しては無関係だ」
マダグレン「この美しい国と、あのきったない死体……、結びつく方がおかしいよねぇ」
ツァイホン「当然、名乗り出る訳もなしか……」
トワ「……ねぇ、一ついいかしら?」
マダグレン「どうぞ」
トワ「この件に直接関係あるかは分からないんだけど、最近妙な噂を聞くのよ……」
皆、黙して次の言葉を待つ
トワ「人殺しの横行……。特に、子供殺しが頻発してるって……」
ツァイホン「我が国も同じく」
マダグレン「エルフィリアでもそうだね」
ツァイホン「ティアード・ポンドが三国の領土となってからだ……。三国が一つとなり、亜人同士の交流が始まった。国同士の往来は制限していない、故に利益もある反面、損失も確かに存在している。それが此度の子供殺しならば、その損失は計り知れない。大戦を終結させることばかり考えていたが、それが果たされたとて脅威は尽きない。自国の問題ならば自国で解決すればよい。しかし、他国が関わってくると一筋縄ではいかない……」
ツァイホン、僅かに顔を伏せ―
ツァイホン「ティアード・ポンドを三国領土にしたのは間違いだったと、今になって思う……」
トワ「……そんなことない。アタシ、本当にアンタたちが支援してくれるなんて思ってなかったの。でも、あんな立派な城も、みんなの家も、街も食料も……。前の生活に比べたら、今の生活は天国そのものよ。殺された子供たちには悪いけど、アタシたちにとっては、本当に大きな利益だったわ。だ……、だから、あなたたちには……、その……」
トワ、モジモジとしている
リュート、トワの肩を突っつき―
リュート「ちゃんと言えよ」
トワ「う、うるさいわね!心の準備してたのよ!」
マダグレン「ツァイホン、やはり君は良い鬼だね」
ツァイホン「……」
マダグレン「だからこそ、一人で抱え込む必要はないよ。みんなで協力すれば、必ず解決策は見つかるさ」
マダグレン、立ち上がる
マダグレン「まずは、みんなで犯人を突き止めよう!そして必ず、このティアード・ポンドに真の平和をもたらすんだ!」
マダグレン、ツァイホンの目を真っ直ぐ見る
ツァイホン、軽く目を伏せ―
ツァイホン「……信じよう。貴様が、そこまで言うのなら」
× × × × ×
腕を組む綾人、難しい顔
リーリア、それを覗き込んで―
リーリア「綾人、どうしたの?」
綾人「ん?あぁ、いや、何でもない……」
マダグレン「やぁ、リーリア」
マダグレン、こちらに手を振る
マダグレン「また会えるなんて、嬉しいよ」
リーリア「マダグレン様……。その、申し訳ありません、綾人とのこと……」
マダグレン「謝る必要はない、大切な人なんだろう?それこそ、何万年、何億年と待っても惜しくないほどの。僕だって縛り付けたいわけじゃないからね。嫌々隣にいられたって、互いに気分悪いだろう?人は、心で恋をするんだよ、リーリア。王妃の肩書に、縛られる必要はない」
リーリア「マダグレン様……」
マダグレン、背を向けて歩き出す
振り返らず、手をヒラヒラさせ―
マダグレン「僕は僕で、またお気に入りの子を探すとするよ」
●???(同日・夜)
部屋中央、奥
椅子に腰かける謎の人物
部屋は暗く、その顔や服は見えない
その人物の膝の上に座るアンナ
頬を赤らめ、恍惚とした表情
口付け―何度も唇を重ねる
舌を絡め、唾液を交換する
アンナの小さな口から甘い吐息が漏れる
暫くして、その人物が溜息
??「もう飽きちゃったな」
アンナ「え?」
直後、刃物で肉を突き刺す音
鈍い音が、部屋の静寂と混濁する
見開かれたアンナの瞳
頬を伝う涙
アンナ「なん、で……」
やがて、光を失う
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