第30話 重なってしまった記憶

●エルフィリア城・客室(翌日・午前)


綾人N「俺たちは、子供殺しの一連の騒動が収まるまで、エルフィリアに留まることになった。問題を持ち込み、他国との関係不良を防ぐためだ」


  扉を開ける綾人

  その中に、一人の少女

  こちらに微笑み、スカートをフワッと上げる


??「お待ちしておりました、轟綾人様、リーリア様」


綾人「えっと、君は?」


モエリ「申し遅れました。私、メイドのモエリと申します。以後、お見知り置きを」


綾人「メイド?この城には、アンナ以外のメイドはいないって聞いたけど……」


モエリ「はい。そのアンナ様がお暇をいただきましたので、代わりに私が勤めております」


綾人「そうか」


モエリ「では、ごゆるりとお寛ぎくださいませ」


  モエリ、メイド服を翻し部屋を出る

  綾人、部屋中を見回す

  家具は寸分たがわず定位置へ

  床や壁は透き通るくらい綺麗

  ベッドには一ミリの皺もない

  窓を吹き抜ける風が清々しい

  綾人、思わず声を漏らす


綾人「すげぇな、完璧メイドだ……」


リーリア「でも、アンナちゃんの『お尻見置き』も恋しいね」


綾人「凛々亜も言われたのか、それ……」


× × × × ×


  椅子に座り読書をするリーリア

  そこから少し離れた所に綾人

  腕を組み、難しい顔


  〔回想〕

  ・テレビ、児童殺害のニュース


綾人M「一体、誰がこんなこと……」


  リーリア、綾人をチラと見る


リーリア「綾人」


綾人「ん?」


リーリア「昨日からずっと難しい顔してる」


綾人「あぁ、悪い、考えごとしてて……」


リーリア「ねぇ綾人、息抜きに街に行ってみない?」


綾人「え、でも……」


リーリア「エルフィリアから出るなとは言われたけど、城から出るな、とは言われてないでしょ?」


綾人「まぁ、そうだな……」


  リーリア、ピョンと椅子から立ち上がり―


リーリア「大丈夫、何かあったら私が守ってあげる!私、綾人より剣使うの上手だし!」


  綾人、困ったように微笑んで―


綾人「言うようになったな、凛々亜」


●エルフィリア帝国・城下町・カフェ(同日・正午)


  テーブルにパフェが運ばれる

  リーリア、それを見て手を合わせ―


リーリア「すご~い!」


綾人「元の世界と遜色ないな……」


リーリア「はい、綾人」


綾人「ん?」


  リーリア、綾人にスプーンを向け―


リーリア「あ~ん」


綾人「自分で食える」


リーリア「いいじゃ~ん、50年振りのデートなんだからさ!」


綾人「俺は半年振りだ」


  綾人、パフェを掬って食べる

  シュンと眉を下げるリーリア

  それをチラと見る綾人

  リーリアのスプーンを咥える


綾人「50年振り、だからな……」


  リーリア、パッと顔に花が咲く


●エルフィリア帝国・城下町・雑貨屋(同日・午後)


  ショーウィンドウ、青い宝石のネックレス

  リーリア、それを熱心に見つめる


綾人「欲しいのか?」


リーリア「え?あぁ、ううん」


綾人「遠慮しなくていいのに。それ、もう古いだろ」


  リーリアの首元のネックレス

  錆付き、僅かにひび割れ

  リーリア、それに愛おしそうに触れて―


リーリア「離れてた時、これを見たら綾人を感じられた……。私にとってこれは、綾人そのものなの。だから、私はこれがいい」


綾人「そっか。まぁ、新しいのが欲しくなったらいつでも言えよ」


リーリア「うん、ありがと!」


●エルフィリア帝国・城下町・橋(同日・午後)


  欄干に腕を乗せる綾人

  その隣にリーリア

  広がる景色に目を奪われる


リーリア「綺麗……」


綾人「そう言えば、ずっと戦ってばっかで、こうやってゆっくり見る機会なかったけど。エルフィリアって、本当に綺麗なんだな」


リーリア「そうだね。でも私、ミョルティの景色も、不思議と嫌いじゃないよ」


綾人「そうだな、俺もだ」


綾人M「だからこそ―」


  〔回想〕

  ・山積みにされた死体、死体、死体


綾人M「あんなの、見過ごせないよな……」


  綾人、グッと拳を握る


●エルフィリア帝国・城下町・路地裏(同日・午後)


  綾人とリーリア、キョロキョロ


綾人「もしかして、迷った?」


リーリア「えへへへへ」


綾人「えへへへへ、じゃないだろ。凛々亜、俺よりこの国に10年分詳しいはずだろ?」


リーリア「う~ん。なんか、色々思い出してから前の記憶の方が朧気で……」


綾人「来た道戻ってみるか」


  その時、タッタッタと足音

  振り返る綾人

  直後、何者かとドンッと肩をぶつける

  相手は振り返らず走り去る


リーリア「酷い、謝りもしないなんて。綾人、大丈夫?」


  リーリア、綾人を覗き込む

  しかし、綾人、瞠目

  肩を押さえ、僅かに震えている

  足元、一つのナイフ

  ベッタリ、血が赫赫とする

  心臓の鼓動が早く、息苦しい


  〔回想〕

  ・綾人、何者かとドンと肩をぶつける


綾人M「そんな……、そんなはず……」


  綾人、ヨロヨロと歩き出す

  リーリア、その後ろについて―


リーリア「え、そっち行くの?」


  足早に路地を歩く綾人

  足元、ポツポツと血痕

  嫌な予感が止まらない

  過去の記憶、フラッシュバックする


  〔回想〕

  ・足元、小型のナイフが一丁

  ・ベットリ、血が付いている

  ・その先、ポツポツと地面に血痕

  ・視線で追った先、小さな幼稚園だ


綾人M「そんなはずない、だってここは別の世界で……」


綾人「同じことが、起きるはず―」


  足を止める綾人

  恐怖と驚愕に、目を震わせる

  目の前、子供の死体、積み重なる

  大量の血溜まり

  濁った瞳と見つめ合う


  〔回想〕

  ・積まれた、血まみれの子供たち

  ・真ん丸と見開かれた、濁った瞳


綾人「嘘だ、嘘だ……!」


  呼吸が早く、荒くなる

  嘔吐感が込み上げ、口を押える

  後ろのリーリア、この光景に絶句


リーリア「なに、これ……」


  綾人、バッと振り返り―


綾人「さっきの男!」


  瞬間、リーリア、飛び出す

  瞬足で路地を駆けていく


× × × × ×


  広い通りに出た

  遠方、逃げるフードの男

  リーリア、一直線に追う

  やがて、男、足を止める

  リーリアに振り向き大人しく―


??「残念、追い付かれたよ」


リーリア「物分かりが良いわね。顔、見せて」


  リーリア、フードに手をかける

  直後、男、ニヤリと口角を上げて―


??「『次断剣』……」


リーリア「え……?」


  遅れて走ってくる綾人

  立ち止まり、瞠目

  リーリア、血を流し地面に倒れる

  胴を真っ二つに斬られている

  広がる血溜まり


綾人「り、りあ……?」


  綾人、膝から崩れ落ちる

  絶望に、涙も出ない

  その時、ズリズリと音

  リーリア、上半身で這いずる

  一手ずつ、ヨロヨロと

  綾人に手を伸ばし―


リーリア「ご、めん、ね……。もう、一緒に、いら、れない、み、たい……」


  腕、力なく地面に落ちる

  リーリア、もう動かない

  それを見下ろす綾人

  まともに呼吸が出来ない

  視界がぼやけ揺らぐ

  そして―


綾人「お前えぇぇぇぇぇ!!!!!」


  激昂、吠える

  地面を蹴り、飛び出す

  フードの男を力いっぱい殴りつける


綾人「誰だ、お前は誰だ!?どうした子供を、どうしてリーリアを……!?誰なんだ!?」


  男、「ふふっ」と笑う

  悠然とした態度で―


??「まだ、わからないのかい?」


  男、フードをバッと取る

  露わになるエルフ耳

  金の髪、日に照らされ輝く


綾人「マダ、グレン……!?」


マダグレン「いや、違うね。僕はマダグレンじゃない。それは、前の彼の名だ」


綾人「何……?」


マダグレン「僕の名前は、一ノ瀬真子人……」


  ニヤリと口角を上げる

  しかし、目は笑っていない


マダグレン「転生者、だよ」

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