第8話 転移、転生、矛盾

●エルフィリア帝国・休戦場(同日・夜)


  中央に焚火、囲うエルフたち

  食事をする者、談笑する者

  眠る者、永眠する者と様々

  食事をするゾルダム

  背後から足音、振り返る


ゾルダム「無事だったか」


  視線の先、綾人、健尾、アンナの姿

  女性一人と少年一人を連れている


アンナ「せ、生存者を連れてきました……!」


× × × × ×


  歩いている綾人、重い足取り

  視線の先、綾人の足元

  寝かされた騎士のエルフたち

  顔に布がかかっている

  薄汚れ、滲む血、誰も動かない


ゾルダム「これが、鬼人との戦いだ」


  ゾルダム、綾人の隣にやってくる


ゾルダム「お前が考えていたより、遥かに過酷で残酷な……」


綾人「……」


ゾルダム「轟綾人……。お前は今日、何を成した……?」


  綾人、何も答えられない

  俯き、拳を強く握る


× × × × ×


  食事をするアンナ

  そこに、綾人がやってきて―


綾人「アンナ」


アンナ「あ、綾人様……!」


  色を正すアンナ

  綾人、恥ずかしそうに頬を掻き―


綾人「その……。さっきは、ありがとう。アンナがいなかったら俺、多分死んでた」


アンナ「えぇ!?あ、いや、えっと、えっと……」


  アンナ、持っている食事を突き出して―


アンナ「ご飯どうぞっ!」


綾人「いや、それアンナの」


健尾「この感じ落ち着くわ~」


アンナ「あ、あれは当然のことと言うか、私がやりたくてやっただけというか……。よ、傭兵としての仕事を、果たしただけです……!」


綾人「よ、傭兵……?メイドじゃなくて?」


アンナ「私が雇われたのは傭兵としてなんです。でも、戦う以外はお城にいてもすることがないので、お手伝いをしようと思いまして……。つまり、マダグレン様へのお礼みたいなものです……!」


綾人「そ、そうだったのか」


健尾「そんなことより、あん時のメイドちゃん、すっげぇかっこよかった!俺もあんなでっけぇ斧持って戦いてぇ~!」


アンナ「い、いえそんな!ちょっと、戦うのが好きってだけで……。血とか死体とか見るとこう、なんかドキドキして……。全身の血液が物凄い速さで流れるのが分かって……。目の前も真っ白になって……。頭もぼーっとして、滾って……。ふふ、ふふふ……、びゃは、びゃははは……!」


健尾「ちょ、メイドちゃん!滾っちゃってる!」


アンナ「あぁ、すみません!」


  アンナ、咳払いをして―


アンナ「だから……?はい、綾人様がご無事で、何よりです」


  優しく微笑むアンナ

  綾人、それに複雑な表情


× × × × ×


  食事をしている綾人

  傍ら、健尾が覗き込んできて―


健尾「なぁ、ちょっと食わせてけろ」


綾人「妖精は食事必要ないだろ?」


健尾「うるせぇ、お約束だこんなの」


  食べる健尾

  顔を青ざめさせて―


健尾「うぇ、何だこれ!馬の餌食ってるみてぇ!」


綾人「言うなよ……」


健尾「よく食えんな」


綾人「何でも良いから、腹に入れとかないと……。それに、他のやつらは普通に食ってるし」


健尾「あ~あ、城での食事との落差エグいな~」


綾人「無断で忍び込んだやつが何言ってんだよ」


健尾「つまみ食いだよ。作った食事がいつの間にかなくなってる!?犯人は妖精でした!なんてメルヘンだろ?」


綾人「まぁあれで、アンナの作る飯は美味いからな」


健尾「いや、俺が求めてるのはやっぱり日本食だ!かぁちゃんの飯が恋しい~。こんなことになってなきゃ、今頃は華の大学生活を送ってたのかな~」


綾人「お前、どこ受験するつもりだったんだ?」


健尾「ふっふ~ん、聞いて驚け。旧平聖(きゅうへいせい)大学だっ!」


綾人「なんだ、後輩だったのか」


健尾「え、同じ!?青年、案外頭いいんだな」


綾人「案外は余計だ」


健尾「今年から第二外国語のバリエーションが増えるってはなしよ。韓国語履修して、コリアンガールと旅行したかった~!」


綾人「いや、第二外国語の選択肢が増えるのは、次の大学一年生からだ」


健尾「あぁ、そうだよ?」


綾人「お前は十年前の学生だろ?そんな話、見る影もないはずだ」


健尾「いやいや、俺は2024年の受験者だ。それに向かう途中で転生したんだよ」


綾人「……俺が転移したのも、2024年だ」


健尾「え、どういうこと?」


綾人「少なくとも、お前が転生したのは2014年のはずだ。本当に、この世界で十年暮らしたのか?」


健尾「もちろんだ、俺の記憶に狂いはない!けど、それじゃどうやって俺はこの世界で十年暮らしたんだ……?」


綾人「もしかして、時代が違う……?」


健尾「え?」


綾人「転移したタイミングが同じでも、同じ時代の世界に転移するわけではない……」


健尾「じゃあ俺は、十年前のエルフィリアに転生したってことか?」


綾人「それで十年後、というか現実世界と同じ時代のエルフィリアに転移した俺と出会った……」


健尾「ってことは、俺たちは時代も違えばこの世界に来たタイミングも違う、ってことか」


綾人「そうだな。時間は並行線だから、同じタイミングで違う時代に来てたら、俺たちは会うことが出来ない……」


  考え込む綾人と健尾

  二人に沈黙が落ちる


健尾「いや、やめだやめだー、こんなの」


綾人「何だよ」


健尾「俺たちゃ、エルフと一緒に鬼と戦ってんだぜ?こんな姿になって。今更何考えたって、もうどうしようもねえよ」


綾人「……そうだな」


綾人M「転移と転生、それに時間……。もう訳分からねぇことばっかりだ。頭がこんがらがって……」


  綾人の視界、グルグルと歪む

  景色や色が混濁する


綾人「あれ、何だこれ……。どうなって―」


  綾人、嘔吐する

  吐瀉物が地面にまき散らされる


健尾「おい、大丈夫か!?」


  綾人に寄り添う健尾

  その時、周りから唸り声

  エルフたちが、地面に吐瀉物を撒いている

  中には、吐血する者もいる

  そのまま、動かなくなる者もいる

  ゾルダム、立ち上がり怒号


ゾルダム「毒だ!食事を中止しろ!」


健尾「おいおい、どうなってるんだ~!?」


  吐血するアンナ

  苦しそうに息を切らす

  その傍ら、体育座りの少年

  肩を震わせている


アンナ「君は、大丈夫……?」


  アンナ、少年の肩に手を伸ばす

  その瞬間、少年が立ち上がる


少年「デュフ、デュフフ……」


  ゆっくりと顔を上げる少年

  その瞳は青い

  額には、青い角が一本

  陰気に口角を上げる


少年「ひ、引っかかった、引っかかった……!ノグセンの毒は凄いなぁ……!」


  エルフたち、少年を囲む

  剣を抜き、少年に構える

  少年、身をよじり―


少年「ひっ、怖いよぉ、やめてよぉ……!」


ゾルダム「貴様、何者だぁ!」


少年「ぼ、僕はツォンセ」


  ゾルダムの目を見る

  ゆっくりと口角を上げ―


ツォンセ「青鬼で、一番偉い人だよ……。デュフフ」

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