三章 久遠なる大戦
第7話 幾度目かの開戦
●エルフィリア城・城門(同日・午後)
整列する騎士たち
圧巻の光景
その中に、綾人の姿
緊張で硬い表情
隣で健尾、敬礼
ゾルダム、騎士たちを見回し―
ゾルダム「我が帝国と敵国を分かつ壁、『トーン・ゲート』が破壊された。これが何を意味するか……。そう、始まったのだ。百年に一度の戦いが!狂悖暴戻の鬼どもが、この帝国に攻め入ってくる!」
× × × × ×
鬼人の軍勢、侵攻してくる
熱気、メラメラと揺れる
赤、青、緑、黒、白の鬼の姿
鬼人の軍勢を従えている
そして、軍勢の後方
一際大きな鬼の姿
邪悪な顔をこちらに覗かせる
× × × × ×
ゾルダム、言葉に熱が籠る
ゾルダム「何千年、何万年……、いや、それ以上だ。我々が、鬼人族とこの領土を奪い合ってきてから。我々エルフの寿命は、永遠に等しいと言っても過言ではない。中には、これが初めての大戦ではないという者もいるだろう。対して、鬼人族の寿命は、我々からすればほんの瞬きの間に過ぎない。かつて存在した、人間という種族と同等かそれ以下だ。つまり我々は、この大戦のことも鬼人族のことも知り尽くしている!しかし、この戦いは今尚決着していない。有利にあるにも関わらず、勝敗を決することが出来ないでいる。それは、鬼人族の力がそれだけ強大であるということだ!我々が長きにわたって蓄えてきた知識、戦術を、奴らは拳の一振りで水の泡にする……。しかし、恐るるに足らず!星は我々に輝いている!エルフィリア帝国騎士団!」
騎士団、姿勢を正す
甲冑が大きく鳴る
ゾルダム「今宵この湖を手中に収めるのは、我々エルフだ!」
騎士団、吠える
帝国中に響くような咆哮
●エルフィリア帝国・城下町(同日・午後)
破壊された街
建物は崩れ、地は割れている
逃げ惑う住民たち
一人の女性が躓く
そこに落ちる大きな影
息をのむ女性、振り向く
鬼人、こちらを睨む
額に二つの角、凶悪で鋭い目
赤い体、細身ではあるが筋骨隆々
涙を浮かべる女性、口を震わせ―
女性「た……、助け―」
鬼人、腕を一振り
壁面にビシャと血
女性の下半身、地面に倒れる
その時、唸り声
数名の騎士、鬼人に斬りかかる
街の至る所で、騎士団と鬼人の戦闘
綾人、それを見回す
綾人「これが、大戦……」
健尾「ははっ……、戦国武将の気持ちが今分かったぜぇ……」
綾人M「いける……、いける……、大丈夫だ……」
綾人、剣を強く握る
しかし、ガタガタと震えが収まらない
その時、綾人の背中に影が落ちる
振り返る綾人
鬼人、こちらを睨む
咥えた腕からボタボタと血
綾人、絶句する
●エルフィリア城・廊下(同日・夕方)
フォルシャ、夕日で赤く染まる
窓の外、大戦の光景
フォルシャ「ついに始まったか……」
窓に背を向け―
フォルシャ「ま、私には関係ない。さて、研究研究~」
●同・フォルシャの研究室(同日・夕方)
フォルシャ、扉を開ける
強い風が吹き抜ける
壁、ボロボロに破壊されている
研究道具、資料も散乱
室内を徘徊する赤鬼たち
その内の一匹、パルラン
一際赤く大きい鬼がこちらを振りむく
フォルシャ「おや、もうこんなところに。城には結界が張ってあるはずなんだけど……、私の腕も落ちたという事かなぁ」
パルラン「ははっ、ザル警備が笑わせんな!」
パルランの目の前に『ブノツァーベルド』
見上げ、舌なめずり
パルラン「これかぁ、数を増やす厄介な“まどうぐ”ってのぁ」
フォルシャ「なるほど、それが目当てか。色付き鬼は、随分と重役を任されるようだね」
パルラン「あぁ?」
フォルシャ「私も、この大戦が初めてじゃあない。君たち鬼人族は、大勢の鬼人と、それを統率する色付き鬼で構成されている。見たところ、君は赤鬼隊の担当だね」
パルラン「君じゃあねぇ、パルラン様だぁ」
フォルシャ「おっと、失礼。立派な名だね、何語かな?」
パルラン「ふんっ、小娘がぁ。丁度いいやぁ、この奇妙なもんぶっ壊して、ついでにてめぇの首持っていきゃあ、ツァイホン様の仏頂面も少しぁ緩むってもんだぁ」
フォルシャ「小娘とは、エルフ相手によく言ったものだね……。そう言えば、君は結界に引っかかったらどうなるか、知っているかい?」
パルラン「あぁ?んなの知ったことかぁ」
フォルシャ「そっか。君も、君の言ったツァイホン様ってのも、この大戦は初めてか。でなければ、敵国の城に肉薄するなんて無謀、犯すはずないもんね」
パルラン「何が言いたい?」
フォルシャ「そうだな……。私が結界を仕掛けたのは、城だけじゃないってことだよ」
パルラン「あぁ、めんどくせぇ!はっきりいいやが―」
赤鬼たちの肉体、弾け飛ぶ
真っ赤に染まる床、大量の肉片
フォルシャ、その中を歩く
パルランの口の前で立ち止まり―
パルラン「へへっ、こりゃ一本取られたぜ……。だけどなぁ、これで終わりじゃあねぇ。こんなちっぽけな国、すぐにツァイ―」
フォルシャ、口を踏み潰す
響く鈍い音、そして静寂
フォルシャ、潰れたそれを見て口角を上げる
フォルシャ「研究材料、ゲット☆」
●エルフィリア帝国・城下町(同日・夕方)
破壊された街、火の手が上がる
路上に倒れるエルフや鬼
血まみれ、原形をとどめていない
一心不乱に逃げ惑う綾人
その隣を飛ぶ健尾
その後ろを、鬼人が追いかけてくる
角を曲がった先、もう一体の鬼人
綾人、壁に追い込まれる
膝の震えが止まらず、その場にへたり込む
綾人M「どこかで、油断してた……。都合のいい、思い込みをしてた……。凛々亜のためなら、俺は何だってできるって……。この戦いでも、生き残れるって……。でも、こんなの……」
鬼人の顔面が迫る
大きく開く口
鋭い牙、涎が滴る
目を瞑る綾人
健尾、自分の体を抱く
その時、斬撃音
目を開く綾人と健尾
鬼二体、首がない
噴水のように血を流し倒れる
目の前には、少女の後ろ姿
揺れる赤いボブヘア
手には、身長よりも大きく長い斧
耳元に二匹の妖精
その姿に、見覚えがある
綾人「お前、もしかして……、アン―」
アンナ「びゃはははははははっ!」
アンナ、下品に笑う
複雑かつ奇妙に体をうねらせ―
アンナ「この時を待っていたぁ!血、肉、死体!血、肉、死体!ワシにも、味わわせろぉ!」
飛び出すアンナ
華麗かつ豪快な身のこなし
目にも止まらぬ速さで鬼人を切る
地面に転がる、無数の鬼の首
鬼人の拳、アンナの顔面に迫る
アンナ、身を翻し避ける
斧の先端、炎が噴き出し鬼人を焼く
唖然とする綾人と健尾
健尾「あれ、赤髪のメイドちゃん、だよな……?」
綾人「あぁ、多分……」
*回想:アンナ「今度の大戦では、私も活躍できるように頑張ります!」
綾人「嘘だろ……」
呆ける綾人
直後、ハッとして立ち上がる
綾人「お、俺も……!」
瞬間、アンナの首がこちらを向く
大きく見開かれた瞳
こちらに飛び掛かってくるアンナ
アンナ「てめぇもかあぁぁぁぁ!」
斧、綾人に振り下ろされる
綾人、避けることが出来ない
ルゥル「ダメェェェェ!」
その時、叫び声
斧、止まる
綾人の首元スレスレ
一匹の妖精、腰に手を当て―
ルゥル「彼は味方ですよ、アンナさん!」
アンナ「ちっ、紛らわしいなぁ……」
綾人「キャラ、変わり過ぎだろ……」
健尾「でも、こういうの異世界モノでみたことある!確か、レ―」
ルゥル「申し訳ありません、私はルゥルです!」
もう一匹、妖精が出てきて―
ソシラ「僕はソシラ~」
ルゥル「アンナさんの契約妖精です!」
綾人「あ、あぁ……。助かった……」
ルゥル「それにしても、戦いになった途端こんなに豹変するなんて……」
アンナ「おい」
綾人「な、なんだ?」
アンナ「おめぇ、何してんだ?」
綾人「え?」
アンナ「死にに来たのか?」
俯く綾人
剣を握り締める
綾人「俺は―」
その時、鐘の音
帝国中に響く
健尾「な、なんだ!?」
アンナ「休戦の号令です」
健尾「あ、戻った」
綾人「休戦?」
アンナ「もうすぐ、陽が落ちます。その間は、戦闘中止なんです」
綾人「そ、それは助かる……」
アンナ「では、行きましょうか」
アンナ、歩き出す
綾人「どこに?」
アンナ、立ち止まり振り返る
アンナ「騎士団の皆さんと、合流しましょう」
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