第22話 玉座の臆病者

●エルフィリア城・玉座の間(同日・午後)


  対面するマダグレンとツァイホン

  傍らに控えるリーリア

  城下町からは轟音が響く

  マダグレン、窓の外をチラと見て―


マダグレン「これまた、随分と暴れてるねぇ」


ツァイホン「融合したか……」


マダグレン「君たち鬼人って、気色悪い生態してるよねぇ。理解不能だよ」


ツァイホン「貴様らエルフの寿命も、我々にとっては解せぬもの……。それほどの年月を生きて、何を望んでいる?」


マダグレン「別に?僕が欲しいのは、このティアード・ポンドだけさ。でも、一人占めするつもりは、僕にはない」


リーリア「あなた……」


マダグレン「先代エルフィリアの王がどうかは知らないけどね。だからこその、僕の提案だよ」


  マダグレン、挑発するような目で―


マダグレン「この戦い、やめない?」


  マダグレンの目をじっと見つめるツァイホン


ツァイホン「その提案を飲んだ時、我々はどのような要求を受ける……?」


マダグレン「そんなことしないよ。これが僕の、最大の要求だからね」


ツァイホン「代々続いてきた争いをやめ、ティアード・ポンドを二国のものとする……」


マダグレン「あぁ」


ツァイホン「して、その真意は……?」


  マダグレン、澄ました顔で―


マダグレン「簡単さ、僕が死にたくないからだよ」


ツァイホン「……これまで、長きに渡り大戦が続いてきた。先代はその命を賭し、多くの者の命が犠牲となってきた……。にも関わらず、貴様は己の命が惜しいと?」


マダグレン「もちろん、今まで犠牲になった人たちの死を無駄にはしないさ。でも、これで大戦が終われば、むしろ本望だと思うけど?」


ツァイホン「悲願が果たされると?」


マダグレン「うん。それに、君たちにとっても、悪い話しじゃないはずだよ」


ツァイホン「なに?」


マダグレン「僕たちの寿命は、永遠に等しい。それこそ、100年に一度の大戦を一生で何度も経験するほどだ。しかし、君たちの大戦は一生に一度だけ。世代交代やら何やらで、また一から大戦に臨まなければいけない……。つまり、僕たちには情報というアドバンテージがあるわけだ」


  ツァイホン、何も言わずただ聞いている

  マダグレン、言葉を続ける


マダグレン「確かに、君たち鬼人の力は強大だ。手放しに勝てる相手じゃない。だけど、君たちが僕たちに勝つ未来も、きっと来ない。むしろ、アドがある分、今の均衡は崩れ、君たちが負ける可能性の方が高い。そうなれば、君たちはティアード・ポンドを……、住む場所を失い、路頭に迷うことになる。君たちを嫌っている種族は多いだろうから、どこかに定住できるとは思えない。あの大勢の鬼人を、君一人でどうこうできるとも、僕には思えない」


ツァイホンM「確かに、これまで大戦が続いているのは、互いの力が拮抗しているが故。しかし、我々が世代毎に新たな戦いに臨む限り、世代を超えて戦い続けるエルフの方が、情報や知識に有利がある。それに、万一敗れれば、こやつの言う通り、この世界を彷徨うことになりかねない、永遠に……」


ツァイホン「分かった。その提案、飲もう」


マダグレン「随分と素直だね。もっとごねられると思ったけど」


ツァイホン「国のことを考え、論理的に判断したまでだ」


マダグレン「でかい図体に似合わず、結構冷静に考えられるんだね。お兄さん、嬉しいよ」


ツァイホン「ただし、これはトルモン王国がエルフィリア帝国に屈したわけではない。ティアード・ポンドを取り巻く諸々の決定権は、両国の長である我々が所有する。独占は許さない。これが条件だ」


マダグレン「もちろん。僕は別に、支配したいわけじゃないからね。ただ死にたくない……、臆病者なだけさ」


  マダグレン、椅子からピョンと降りる

  伸びをして、再びツァイホンを見る


マダグレン「いや~、にしても良かったよ。もしかしたら、その背中の大剣で一振りいかれると覚悟していたからね」


ツァイホン「これはムジグゼ……。代々伝わる王の剣だ。ここぞという時にしか使わぬ」


マダグレン「あの恐ろしいことになってる一角は、誰のせいかな~?」


ツァイホン「それより気になるのは、人間のことだ」


マダグレン「あ、話し逸らした」


ツァイホン「太古の昔、魔族との大戦で滅んだと言われる種族……。それがどうして、此度の大戦に紛れている?」


マダグレン「あぁ、綾人くんのことね」


  リーリア、眉をピクリと上げる


リーリア「綾人……」


マダグレン「そもそも、この世界の人間じゃないらしいよ。こことは別の世界があって、そこでは人間もいっぱいいるって」


ツァイホン「ほう、興味深い……。是非、話しを聞きたいものだ」


マダグレン「まずその目つきを直さないと、綾人くんチビッちゃうよ。あいつ、思った以上に弱いし。それに、今どこにいるのか―」


リーリア「綾人は!」


  玉座の間に響くリーリアの声

  手を小刻みに震わせ―


リーリア「綾人は、どこにいるのですか……!」


マダグレンM「綾人……?」


マダグレン「さぁね。どっかで野垂れ死んでるんじゃない?」


  狼狽えるリーリア、呼吸が荒い

  両手で頭を抱える


  〔回想〕

  ・綾人「だから、同じ講義をとってるだけって言ってんだろ!」

  ・湖、夕日に照らされる綾人

  ・雨の中、警察に連行される綾人


リーリア「また、記憶が……!」


  マダグレンとツァイホン、怪訝な顔


  〔回想〕

  ・綾人、パトカーに乗る直前、こちらを振り向く


リーリア「綾人はやってない!」


  突然、言い放つリーリア

  広間に声が木霊する

  リーリア、ハッとし頭を下げる


リーリア「も、申し訳ございません……」


マダグレン「リーリア、少し休むんだ。あとは、僕がやっておくから」


リーリア「はい……」


  リーリア、肩をすくめ歩き去る

  マダグレン、「あはは」と笑い―


マダグレン「ごめんねぇ、驚かせちゃって!なんか、最近情緒不安定らしくてさぁ」


ツァイホン「……うむ」


マダグレン「じゃあ、とりあえず大戦は終了ということで、ティアード・ポンドはこれから二国に―」


??「その話、アタシも混ぜてもらえるかしら?」


  音を立てて扉が開く

  そこには、トワ、リュート、綾人の姿


マダグレン「その話しってのは、僕の妻が情緒不安定って話しかい?」


トワ「まぁ、それも個人的に気になるんだけどね」


ツァイホン「貴様ら、何者だ?」


  トワ、ツァイホンと目を合わせずに―


トワ「悪いけど、アンタとは話したくないの。顔が怖いからね」


  ツァイホン、ムッと眉を顰める


トワ「用があるのはアンタよ、マダグレン」


マダグレン「へぇ、少女に言い寄られるのは悪くない気分だ」


  マダグレン、トワを見て涎を拭う仕草

  トワ、それに顔を歪めて―


トワ「きもっ」


  マダグレン、綾人を見て―


マダグレン「やぁ、綾人くん。まだしぶとく生き残っていたんだね。さっき、君の話をしていたところだ」


綾人「……そうかよ」


  綾人、ばつが悪そうに眼を逸らす

  マダグレン、改めてトワを見ると―


マダグレン「で、これはどういう状況かな?」


トワ「アタシは、ティアード・ポンドの外にある国、ミョルティの長、トワ」


ツァイホン「ミョルティ……」


トワ「あなたに、ある提案をしに来たわ」


マダグレン「提案?」


  トワ、マダグレンをビッと指さし―


トワ「アタシの国を、このティアード・ポンドの領土に加えなさい!」

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