第23話 三国領土

●エルフィリア城・玉座の間(同日・午後)


  マダグレン、悠然とした顔で―


マダグレン「これはまた、予想外の提案だね。目的は何だい?」


トワ「簡単なことよ。アタシたちの住むミョルティは、滅亡の一歩手前。毎日、誰かしらが死んでるわ。でも、ティアード・ポンドに入れば、環境は改善される。あなたたちの支援も望めるわ」


マダグレン「まだ何も言っていないのに、強欲だね」


トワ「隣に死にそうな子供がいるのに、それを王が放っておくなんて、国民の心象悪くなるんじゃない?」


マダグレン「……それもそうだね」


ツァイホン「ミョルティ……、聞いたことがある。かつて、亜人同士の戦争で滅んだ小国。今はネクロマンサ―どもの巣窟になっているとか」


マダグレン「ネクロマンサ―って?」


ツァイホン「屍を操り傀儡にする、魔族の一種だ。かつての、人間と魔族の大戦から唯一逃れた」


マダグレン「なるほど。街に死体がウヨウヨしてるのはそのせいか」


ツァイホン「貴様らの目的は理解した。して、大戦とは無関係の貴様らをティアード・ポンドに迎えることは、我々にどんな利点をもたらす?」


トワ「え~っと……」


  トワ、目をパチクリ

  リュートに耳打ちで―


トワ「何かメリットは?」


リュート「知らん。それも考えずに突っ込んだのか」


トワ「無鉄砲過ぎたわ。結界破るの大変だったのに……」


  肩を落とすトワ

  ツァイホン、呆れた様子で―


ツァイホン「話しにならぬ。貴様ら、ただ迎え入れられようとしているのならば、そんな義理我々には皆無だ」


  マダグレン、ニヤリと口角を上げ―


マダグレン「綾人くん、君はどう思う?」


  綾人、少しの間悩む

  そして、ゆっくりと口を開く


綾人「俺は、少しの間だけどエルフィリアにいた。この国に比べたら、ミョルティなんて本当にただの肥溜めだ……」


トワ「……」


綾人「だけど、そこでも毎日を必死に生きてる人がいる。離れ離れになった娘のことを、毎日考えてる人がいるんだ。マダグレン、お前だから頼める」


  綾人、頭を下げて―


綾人「ミョルティを、救ってやってくれ……!」


トワ「綾人……」


  マダグレン、顎に手を置き―


マダグレン「ふむ……。君たち、死体を操れるんだよね?」


トワ「え、えぇ、そうよ」


マダグレン「どのくらい正確に?」


トワ「自分の体を動かすのと、大体同じくらい。距離が離れたり、一度に大勢を操ると、精度は落ちる。それと、連発は出来ない。体力を使うから」


マダグレン「そうか、使えるな……」


綾人「マダグレン……?」


マダグレン「いや、鬼人との戦いはなくなったけど、またいつ別の種族が攻め入ってくるか分からない。君たちのようにね」


トワ「それもそうね……」


マダグレン「それに備える意味で、君たちネクロマンサーの力は利用価値がある。僕が君たちをティアード・ポンドに迎えるメリット……、戦力、ってことでどうかな?」


  マダグレン、ツァイホンをチラを見やる

  ツァイホン、静かに目を伏せ―


ツァイホン「それで、エルフィリアの戦力増強になるのならばいいだろう。最も、我ら鬼人族には必要ないものだが」


トワ「ご立派ね」


マダグレン「なら、交渉成立だ!」


  マダグレン、立ち上がり―


マダグレン「これよりティアード・ポンドは、エルフィリア帝国、トルモン王国、ミョルティ……、三国一体の領土とする!」


●エルフィリア帝国・城下町(同日・夕方)


  ヘーゼ、爪での攻撃を繰り出す

  ビッヒの体を貫くが、手応えはない


ヘーゼ「くそっ……!」


  体を殴られ吹き飛ばされる

  上手く受け身を取り、ゾルダムの隣へ

  肩で息をするゾルダムとヘーゼ


ヘーゼ「融合して力も出るし、頭も回るようになったが……。実体がないから攻撃しても意味がないよぉ!」


ゾルダム「それに加え、相手は死体。無尽蔵の体力を持っている。圧倒的に、生者である俺たちが不利……」


ヘーゼ「まさか、ここまでとは思いませんでした……。つか、なんで仲間同士で戦わなきゃいけねぇんだ!」


ゾルダム「ネクロマンサーの死体は、敵味方関係なく襲ってくる。マリナも、そうだった……」


ヘーゼ「ったく、見境なさすぎだろ……!」


フォルシャ「アンナ!」


  ザッ、アンナが二人の前に立つ


アンナ「ワシがやる……」


  巨大な斧を持つ

  しかし、手は震えている

  肩の傷、まだジクジクと痛む

  フォルシャ、モリスの手当てをしながら―


フォルシャ「まだダメだ、アンナ!傷が治ってない!」


アンナ「知るものか!」


  アンナ、俯いて―


アンナ「ワシはまだ、何も成せていない……」


  〔回想〕

  ・アンナ「死にに来たのか?」

  ・ツォンセの攻撃、壁に激突し気絶するアンナ


アンナ「これでは、あやつと同じではないか……!」


ゾルダム「アンナ、前!」


  アンナ、バッと前を向く

  アードムの光線が迫る

  目の前、もう避けられない


アンナ「あ……」


●エルフィリア城・玉座の間(同日・夕方)


  玉座に座るマダグレン

  爪を弄りながら―


マダグレン「ツァイホンは帰ったけど、君たちはどうするの?僕と話すのが目的なら、もう済んだよね?」


トワ「えぇ。だけど、まだ―」


リーリア「あなた……?」


  リーリア、扉から不安そうな顔を覗かせる

  綾人たち、それに一斉に振り向く


トワ「リーリア・エルフィリア……!」


リュート「……母さん」


綾人「え?」


トワ「いいえ、違うわよ」


  リーリア、綾人を見て呆然


リーリア「綾人……」


  リーリア、突然走り出す

  身構えるトワ

  しかし、トワを通り過ぎ綾人の元へ

  呆けた顔のトワ

  その時、リーリアに光線が迫る

  リーリア、気づくが避けられない

  それを、リュートが庇う

  光線、リュートの胸を直撃


リュート「ぐあっ……!」


トワ「リュート!」


  倒れるリュート


綾人「なんだ!?」


  綾人の視線の先、ビッヒとアードム

  こちらに指をさしている


綾人「あれ、鬼……?」


  リーリア、リュートの体を抱く

  リュート、目は虚ろ、意識が朦朧

  リーリア、そっと囁くように—


リーリア「ごめんね、リュート……」


リュート「……?」


  直後、リュート、気を失う


アンナ「はあぁぁぁぁぁっ!」


  窓ガラスを突き破り、飛び込むアンナ

  そのまま、二体の鬼に飛び出し―


アンナ「逃げるでないわぁ!」


  容赦なく斧を振り下ろす

  ビッヒ、それを腕で受け止め弾く

  アンナ、飛び退き着地


マダグレン「他のみんなはどうした?」


アンナ「今来る!」


  アンナの視線の先

  空間が歪み、うねる

  そこに、ゾルダム、フォルシャ、ヘーゼの姿

  テレポートの魔法

  ゾルダム、綾人を見つけて―


ゾルダム「轟綾人、ここに……」


綾人「あ、あぁ……」


トワ「モリス!」


  フォルシャの元で苦しむモリス

  未だ、肩から血を流している


フォルシャ「心配ないよ、治療してる。って、敵に言うのも癪だけどね」


綾人「フォルシャ、こいつも頼む」


  リュートを引きずってくる綾人


フォルシャ「おぉ、君。何処に行ったのかと思ったら」


ヘーゼ「よぉ、腰抜け。また会ったなぁ」


綾人「お前は……?」


  〔回想〕

  ・綾人の脹脛を拳で抉るバイス

  ・綾人の顔に迫るヘイス


綾人「あの時の……!」


ヘーゼ「またお前で遊んでやりてぇところだが、今はこっちだ」


  ビッヒとアードムを睨むヘーゼ

  その隣に、リーリアが立つ

  剣を抜く、刀身が光る


リーリア「私も、加勢します」


ヘーゼ「はっ、お姫さんが、足引っ張んなよ!」


綾人「リーリア……」


  リーリア、横目に綾人を見る

  愛おしそうに微笑んで―


リーリア「……綾人。やっと、会えた」


綾人「……!」


リーリア「全部、思い出したよ」


綾人「り、凛々亜……?」


リーリア「この戦いが終わったら全部話すから—」


  リーリア、剣を構え―


リーリア「私の活躍、見てて!」

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