第16話 思惑は銘々に

●ミョルティ・城(同日・夜)


  真っすぐに綾人を見つめるトワ

  綾人、怪訝に眉を寄せて―


綾人「叛逆……?」


トワ「えぇ。今、ティアード・ポンドにある国は、エルフィリアとトルモンの二国よね」


綾人「あ、あぁ」


トワ「そこに、ミョルティも混ぜてもらう。私たちが目指すのは、三国一体のティアード・ポンドよ!」


綾人「そ、そんなこと出来るのか……?ただでさえ、その……」


トワ「武力で押し切る。そのために、人手が必要なの。だから、アンタをここに連れてきたのよ」


綾人「エルフィリアに、攻め込むってことか……?」


トワ「えぇ。攻め込んで、城に押し入って、エルフィリアの王、マダグレンと話をつける」


綾人「……なんで、トルモンじゃないんだ?」


トワ「あんなところ乗り込んだら、アタシたちなんてみんな瞬殺よ。それに、鬼人は野蛮過ぎて話が通じるとは思えないわ。だから、まだ比較的まともなエルフィリアに殴り込みに行くのよ」


  綾人、何とも言えない表情


トワ「……って言うのが、ミョルティに住む全員の、謂わば建前の目的ね」


綾人「建前?」


トワ「えぇ、アタシ個人の目的は、これとは違うわ」


綾人「な、なんだ……?」


トワ「リーリア・エルフィリア、知ってるでしょ?」


綾人「あぁ」


トワ「……そっくりなのよ。その、私を助けてくれた女性と」


  綾人、ハッと目を見開く


トワ「彼女は、このミョルティで長い年月を過ごしたわ。私が最後に見た彼女は、もうお婆さんだった……。でもね、ある日失踪したの」


綾人「失踪……?」


トワ「えぇ、どこを探しても姿は見当たらなかった。そして、私とリュートがアンタを助けた日―」


◆エルフィリア帝国・城下町(数日前・午後)〈回想〉


  トワとリュート、城下町に駆け入る

  ある時、突然立ち止まる

  二人、目の前の光景に釘付け

  リーリア、剣を片手に佇む


トワ(声)「エルフィリアに侵入してすぐ、リーリア・エルフィリアを見たわ。若い頃の彼女にそっくりだった。いえ、本人だと言われても、きっと疑わないわ。だけど、彼女は私たちのことなんて、微塵も覚えていない様子だった……」


トワ「り―」


リュート「か―」


  目の前、二人に剣を突きつけるリーリア

  ほんの、一瞬の出来事


トワ(声)「あろうことか、剣を向けてきたのよ」


●ミョルティ・城(同日・夜)


トワ「アタシはね、確かめたいの。リーリア・エルフィリアが、本当にアタシを助けてくれた女性本人なのか。そうじゃないなら、本当の彼女はどこに行ってしまったのか……」


  俯く綾人

  静かに口を開く


綾人「俺も、一人女を探してるんだ……」


トワ「どんな人?」


綾人「恋人だ。彼女を探すために、この世界に来て、戦ってた……」


トワ「そうだったのね」


綾人「……そっくりなんだよ、リーリアに」


  トワ、軽く目を見開く

  綾人、近くの石に腰かけ―


綾人「もうほんと、訳分かんねぇよ……」


トワ「その真実を確かめるためにも、アンタがアタシたちに協力することは、大いに価値があると思うわ。エルフィリアにいたアンタには、少し心苦しいことかもしれないけど」


綾人「……少し、考えさせてくれ」


トワ「えぇ。良い答えを待ってるわ」


●砂漠(翌日・午後)


  身を屈める綾人、リュート、モリス

  炎陽が容赦なく照り付ける


リュート「……うっ、腰が」


綾人「リュートって、いくつなんだ?」


リュート「さぁな。数えたことない」


綾人M「見た感じ、結構いい年してると思うけど……。40、50くらいか?トワの見た目があんなだから、頭がこんがらがる……」


モリス「I’m sixty! 」


綾人「さすが軍人だな」


  綾人、僅かに逡巡して―


綾人「トワから聞いたよ。三国一体のはなし」


リュート「そう長くないうちに、ミョルティは必ず滅ぶ。今は俺たちが動けるからまだいいが……。モリスも、もう若くない」


モリス「HaHaHaHaHa!」


リュート「ミョルティがティアード・ポンドに入れば、他二国からの支援も望める。少なくとも、今より良い環境になることは間違いない。それを元に、俺たちみたいな放浪者をミョルティに集めれば、より多くの命を救うことが出来る」


綾人「そこまで考えてたんだな……」


リュート「まぁ、可能性は限りなく低いが」


綾人「モリスは、どう思う?」


モリス「I want them to stop fighting!戦うのダメ、話すOK、させたい」


綾人「モリスらしいな」


●エルフィリア城(同日・午後)


  城下町を見下ろすリーリア

  微かに風が吹き、髪を優しく撫でる


  〔回想〕

  ・ノグセンに追われる綾人

  ・トワとリュートの姿


リーリア「彼女たちは……」


  景色に背を向け歩き出す

  その時、脳に光が瞬く


  〔回想〕

  ・微笑む綾人

  ・青色のネックレスが光る


  頭に手を添え、軽くよろける


リーリア「今のは……?」


  首元のネックレス

  紺碧の宝石にそっと触れ―


リーリア「綾、人……」


●エルフィリア城・玉座の間(同日・午後)


  玉座に踏ん反り返るマダグレン


マダグレン「暇~」


  その時、轟音と共に扉が開く


マダグレン「……来たか」


  足音、重く城内に響く

  その足は、大きく赤い

  虹色の装飾、カラリと鳴る

  背中には、虹色の大剣

  瞬間、首元に一本の剣が向く

  リーリア、剣を向け首を狙っている

  それを受けて尚、余裕のある声音で―


??「随分な歓迎だ。態々出向いてやったというのに、その報酬がこれとは」


リーリア「なに……?」


  怪訝な表情のリーリア

  その横合いから声がかかる


マダグレン「僕が呼んだんだよ、リーリア」


  リーリア、剣を収める


マダグレン「やぁ、君が今世代のトルモン王国の王だね」


  マダグレン、その巨躯を見上げ―


マダグレン「ツァイホン・トルモン」


  彼の数倍は下らない体格

  しかし、臆することなく悠然とした表情


ツァイホン「まさか、敵国の王を城に招くとは」


マダグレン「君なら、フォルシャの結界も諸共しないだろう?それに、こちらの提案を飲んで頂くんだ。親しみのある椅子に座りながらじゃないと、緊張してまともに話せなくなっちゃうよ」


ツァイホン「ふんっ、態度だけは一丁前だな。して、貴様の提案とはなんだ……?」


  ギロッと目を細めるツァイホン

  マダグレン、至って穏やかな表情

  且つ、当たり前のことを口にするように—


マダグレン「やめない?この戦い」

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