第15話 屍術師の少女

●ミョルティ・城(同日・夜)


  遠くを見つめるトワ

  切なげな横顔が夜闇に映える


綾人「受け入れないって、どういうことだ?」


トワ「そのままの意味よ。死体を操る種族なんて、気味悪いでしょ?」


  〔回想〕

  ・砂漠にて、死体の束が動物を押さえる


トワ「ティアード・ポンドがどうして生まれたか、知ってる?」


綾人「あぁ、人間と魔族の戦いで出来たって……」


トワ「そうよ。アタシたちネクロマンサーはね、その魔族の一部なの。だから、他の種族から忌み嫌われて当然。もし人間なんかと鉢合わせてたら、それこそ湖の底に沈められるでしょうね」


綾人「魔族と、同等の扱い……」


トワ「人間に迫害された亜種族……。その中でもアタシたちは、さらに亜種族にも迫害されてきた。あらゆる場所を転々としては、存在がバレると攻撃され、罵倒され、追い出され……。そんな時、ここを見つけたの」


◆砂漠(??・正午)〈回想〉


  ジリジリと照り付ける太陽

  熱く重い砂が、足に纏わりつく

  息を切らし歩くトワ

  その後ろに、数人のネクロマンサ―


トワN「ある種族の集落に隠れ住んでいたことがバレたアタシたちは、いつも通り攻撃され、追い出された。アタシの両親は、その攻撃からアタシを庇って死んだ。別れを言う間もなく、命からがら逃げだしてきた。アタシの家族は、アタシだけになった……」


綾人(声)「あれ、でもリュートがトワの弟だって……」


トワ(声)「あぁ、腹違いなの。血は繋がってないから、弟みたいなもの、ね」


仲間『なぁ、あれ……!』


トワ『え……?』


  ぼんやりとした視界

  遠方に、砂ではない何か

  石造りの建造物だ

  トワ、ごくりと唾を飲み―


トワ『行くわよ……』


◆石造りの建物群(??・同日・午後)〈回想〉


  トワ、建物に指先で触れる

  パラパラ、落ちる砂


トワ『ここなら、なんとか……』


  その時、少し先に女性の姿

  建物から出てきて、トワを見つめる

  覚束ない足取りでこちらへ来る


  〔回想〕

  ・亜人に攻撃されるトワたち


  トワ、思わずギュッと目を瞑る


トワN「だけどそいつは、攻撃してこなかった。いえ、出来なかったというべきかしら。そんなことをする気力もないくらい、衰えていたわ」


  トワの足元に跪く女性

  祈るように手を合わせている


トワN「きっと、食べ物でもせがんでたのね」


  それを見て、トワ、複雑な表情


◆砂漠(??・同日・夕方)〈回想〉


  砂の上、動物に乗って進む亜人

  その足元、砂が蠢く

  足が、腕が、そして体が出てくる

  死体の束、這うように動物を押さえる


亜人「も、もしかして……、ネクロマン―」


  その時、腰の鞄がバッと取られる

  鞄を持って走り去るトワの背中


× × × × ×


  ガサガサ、鞄を漁るトワ

  やがて出てきた残飯にがっつく


トワN「分けてあげたいのは山々だった。けどアタシも、今日を生きるのに精一杯だった。そんなことを続けていたら、死体が一つ、また一つ、増えていったわ。まさに死体溜め、肥溜め……。ネクロマンサーとしては、操れる死体が増えて、嬉しいはずなんだけどね……」


トワ『ミョルティ……』


トワN「そんなある日、彼がやってきたのよ」


◆石造りの建物群(??・数週間後・朝)〈回想〉


  眠っているトワ

  そこに、声がかかる


??『Excuse me. Hey, girl? 』


  トワ、肩を揺すられる

  ゆっくりと目を覚ますトワ

  その視界に、色黒で巨躯の男

  防具で身を固め、大きな銃を持っている


トワ『誰……!?』


  トワ、身を翻し地面に着地

  戦闘態勢、身構える


??『Oh, No no! 』


  巨躯の男、銃を置き手を上げる

  訝し気な表情のトワ


トワN「モリス……。流石のアタシも、少し驚いたわ」


◆砂漠(??・数日後・午後)〈回想〉


  逃げ去る亜人、その後ろ姿

  鞄を漁るトワとモリス


モリス『Oh, nothing’s in the bag. Does he say you eat sand? I can’t! But wait, sandwiches say “sand.” What’s the difference between them? If I sand sand in sandwiches, is it “sandsandwiches?” Oh, is it edible? 』


トワ『あはは、そうね……』


トワM『何て言ってるのかしら……』


トワ(声)「モリスが来て、盗みも大分楽にはなったけど、それでもまだまだ足りなかった。だから私は、とある間違いを犯してしまったのよ」


◆砂漠(??・数週間後・正午)〈回想〉


  砂漠を歩く誰かの足元

  それを、死体がガッと掴む


??「これは……?」


  そこに、颯爽と現れるトワ

  鞄を掴もうと手を伸ばす

  だがその瞬間、死体の腕が斬り刻まれる


トワ『……え?』


  ボタボタと、肉片が砂に埋もれる

  一本の剣、太陽光を反射する

  同じように照り輝く鎧が眩しい

  そして、僅かに吹き抜ける風

  髪が靡き、長い耳が露わになる


トワ『エルフ……!』


トワN「エルフィリアの騎士だった」


  エルフ、トワを鋭く睨み―


エルフ『貴様、ネクロマンサ―だな?』


  怯えるトワ

  恐怖に顔が歪む


●ミョルティ・城(同日・夜)


トワ「アタシは、エルフィリアの城の牢獄に幽閉された」


  〔回想〕

  ・石造り、黒く無機質な牢屋

  ・獄中の綾人


綾人「あそこか……」


トワ「知ってるの?」


綾人「経験済みだ」


トワ「アンタ、捕まるの好きなのね。もしかして、ドM?」


綾人「ならよかったんだけどな」


トワ「うふふっ」


綾人「どうやって脱獄したんだ?」


トワ「なんとか、死体の力を使ってね」


綾人「便利だな」


トワ「でも、当時のエルフィリアは大戦の真っただ中だった」


綾人「トルモン王国か……」


トワ「えぇ」


◆エルフィリア帝国・城下町(??・同日・午後)〈回想〉


  血染めの街を走るトワ


トワN「まさに、今のエルフィリアと同じね」


  トワ、躓く

  顔から地面に転ぶ


トワ『いててて……』


  体を起こし、顔を上げる

  しかし、辺りには何もなくなっていた

  建物は吹き飛び、地面は砕けている

  こびり付いた肉片が鼻腔を殴る

  目を見開くトワ

  自然と、涙が溢れてくる


トワN「死んだと思ったわ。アタシの人生、何だったんだろうって……」


トワ『でも、パパとママのところに行けるんだ。それなら、悪くないか……』


  諦めの境地、目を閉じるトワ

  頬を伝う、一筋の涙

  その時、誰かに体を抱かれる


トワN「その時、一人の女性に出会った。彼女は私を連れて、ミョルティに帰してくれたの。これを奇跡と言わずに、何て呼ぶのかしらね」


●ミョルティ・城(同日・夜)


綾人「一人の女性……」


トワ「彼女の癒しの力は絶大だった。死人も減少して、私たちも余裕を持つことが出来るようになったの。人手も増えたしね」


綾人「その女性って……?」


トワ「興味津々ね」


綾人「あぁ、そりゃまぁ」


  俯きがちな綾人

  トワ、それにフイと顔を逸らし―


トワ「なら、これ以上は話さないわ」


綾人「な、何でだよ!」


トワ「どうしても知りたいなら、私のお願いを一つ聞いてもらうけど」


綾人「俺に出来ることなら、何でもしてやるよ」


トワ「それは心強いわ。なら、聞いてもらおうかしら」


  トワ、綾人に真っ直ぐ向き―


トワ「私のお願い……、いえ、ミョルティに住む者たちの最大の目的よ」


綾人「何だ……?」


トワ「共に、エルフィリア帝国に叛逆してほしい」

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