第18話 叛逆の誓い

●ミョルティ・集落(同日・夜)


  流れる水路、涼しげな音を奏でる

  綾人、それをボーっと見下ろす


綾人「……」


トワ「綾人」


  トワ、綾人の元へ歩いてくる


綾人「トワ」


トワ「また、倒れるわよ。運ぶの大変だったんだからね?」


綾人「……悪いな」


トワ「まぁ、運んだのは死体たちなんだけど」


綾人「洒落にならねぇ絵面だな……」


トワ「アンタでも、泣くことあるのね」


綾人「お前らと違って、俺は人間だ」


トワ「失礼ね、ネクロマンサ―だって泣くわよ。アンタ、あんまり生き生きしてる感じじゃないから。まぁ、こんなところにいたら、それも仕方ないんでしょうけど」


綾人「確かに、感情を出すのは苦手だ。無表情だって、よく言われる」


トワ「で、何があったの?そんなアンタが涙を流すんだから、きっとそれなりのことがあったんでしょ?」


  綾人、俯く

  そして、静かに―


綾人「戻ったんだ、元の世界に……」


トワ「え……?」


綾人「いや、厳密には違う。きっと、夢でも見てたんだ……」


トワ「夢?」


綾人「あぁ。俺の、過去の記憶の世界だ……」


トワ「じゃあ、本当に元の世界に戻ったわけじゃない……?」


綾人「あぁ……」


トワ「なんだ、そうなのね。モリスに嬉しい報告が出来るって期待したけど」


  俯いたままの綾人

  トワ、それを見て―


トワ「でも、アンタからしたら残念よね。こんな見すぼらしい世界とおさらばして、大好きな人と過ごせるんだもの」


綾人「彼女は……、凛々亜はいなかった……。あの世界のどこにも、凛々亜がいたはずの場面の、どこにもいなかった……」


  綾人の声、徐々に震えだす


綾人「切なくて、虚しくて、苦しくて……。もしあれが、本当に俺の記憶の世界だったら、俺はもうあいつのことなんか忘れてんじゃないかって……。そう思ったら、なんか、もう……」


トワ「そこで涙を流せるんだったら、そんなことないんじゃない?まぁ、アタシが何を言ったってたかが知れてるけど」


綾人「いや……、だからこそ、決心がついた……」


トワ「決心?」


  綾人、トワを真っ直ぐに見つめ―


綾人「俺は、お前らに着いて行く!俺も、凛々亜の真実を確かめたい……。もし、トワを助けた女性が真実に辿り着く鍵なら、俺はそれに賭けたい。もう二度と、あんなクソみたいな現実に戻らないように……!」


トワ「そう。いいわね、そういう相手がいるのって」


  トワ、綾人に微笑んで―


トワ「今のアンタ、いい顔してるわよ」


●砂漠(翌日・朝)


  一面の砂の中を歩くトワたち

  力強く踏みしめ、進んでいく


リュート「もう泣き止んだのか?」


綾人「いつの話ししてんだ……」


リュート「お前でも、泣くことあるんだな」


綾人「姉弟そろって、俺のことなんだと思ってんだ……」


  モリス、綾人に肩を組み―


モリス「I’ve never seen you cry, Ryuto? 」


リュート「なんて?」


綾人「リュートの泣いたところも見たことないって」


リュート「まぁ、俺もあまり感情が表に出ないからな。よくトワに、つまんなそうって言われる」


綾人「同じく」


リュート「似てるな、俺たち」


モリス「I am jealous……」


  綾人、トワの背中を見て―


綾人「……トワって、そういう相手いないのか?」


リュート「そういう?」


綾人「いや、俺の恋人を羨ましがってたから」


リュート「あぁ、今はいないな。これまで、色々な場所で色々な人に邪険に扱われてきて、もう自分には無理だと諦めの境地なんだろ。実際、ネクロマンサ―を嫁にしたいなんてもの好き、今の世界にはいないだろうな」


  リュート、トワの頭を撫で繰り回し―


リュート「こんなに可愛いのに、みんな見る目ないよな!」


トワ「ちょっと、姉の頭を撫でる弟がどこにいんのよ!」


綾人「あはは……」


モリス「Heartwarming indeed……」


× × × × ×


  立ち止まる一向

  見上げた先、巨大な門


トワ「着いた……、ティアード・ポンド……」


  トワ、皆に振り返り―


トワ「さぁ、ついにエルフィリアに叛逆の時よ!各々、目的を果たしましょう!」


  皆、力強く頷く

  トワ、門に向き直る

  ハァ―、と息をいっぱいに吸い込み―


トワ「アンタたち、ミョルティのために死になさい!命を捨てて戦いなさい!大丈夫、たとえ死んでもアタシが使ってやるわ!」

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