五章 真実は幾時を超えて―

第19話 鎧に忍ぶ逆鱗

●エルフィリア帝国・城下町(同日・午前)


  建物の屋根を歩くヘイスとバイス

  見下ろす街は死体だらけ

  ヘイス、気怠げに―


ヘイス「もうこれ、帰って良いんじゃねぇの?」


バイス「だ、だめだよ~。まだツァイホン様から命令出てないでしょ?」


ヘイス「はっ、敵の大将を自分の城に招くたぁ、図太ぇ野郎だな」


バイス「何かあったら、すぐに行かなきゃ……」


ヘイス「いや、あの方ならあーしらが行かなくても平気だろ」


バイス「そうだね。あのくらいなら、剣一振りで壊せるもんね」


ヘイス「むしろ、あーしらが巻き込まれて死ぬわ」


  その時、斬りかかってくる一人の青年

  白金の鎧に身を包む、ゾルダムだ

  ヘイス、その剣を爪で受け止める


ヘイス「ちっ、しつけぇな……」


  甲高い音をたてて剣を弾く

  ゾルダム、地面に着地

  フォルシャとアンナも、二人を見上げる


アンナ「まだ戦いは終わっておらぬ!逃げるでないわぁ!」


ヘイス「逃げてねぇわ!一々休戦挟むんだから仕方ねぇだろ!改めて面と向かって戦いなおすのも、なんかキモイしよぉ!」


フォルシャ「それはそうだね」


ヘイス「まぁいいや。そんなに死にてぇなら殺してやる。んで早く帰って、寝よ」


アンナ「ふんっ、白黒と聞いて初めは強敵と期待したがこの長期戦……、まだあの青い餓鬼の方がよっぽど手強かったぞ!」


ヘイス「あの根暗と比べるたぁいい度胸してやがる……。今度こそ血祭りに―」


  その時、ドドドドと何かが響く

  同時に、微かに振動する地面


フォルシャ「地震か?」


ゾルダム「いや……」


バイス「お姉ちゃん、あれ……!」


ヘイス「何だ、ありゃあ……」


  バイスの指さす先

  大量の死体たちがこちらに走ってくる

  城下町を埋め尽くすほどの数

  足音が重く反響する


ヘイス「あれ、人か……?」


フォルシャ「いや、まるで生気を感じない」


ゾルダム「あれは、死体だ……」


アンナ「なんで死体が動いておる!?」


フォルシャ「そう言えば、聞いたことがある。死体を操る種族……。人間に滅ぼされなかった、唯一の魔族、その一種だ。存在を隠しているから、あまり詳細な情報が不明なんだけど……。確か、名前は―」


  ゾルダム、死体たちを鋭く睨み―


ゾルダム「ネクロマンサ―だ……!」


  迫りくる死体たち

  無鉄砲に突っ込んでくる


ゾルダム「いくら死体とは言え、あの数に巻き込まれたらただでは済まない」


アンナ「ワシが一気に蹴散らして―」


バイス「邪魔です、危ないですよ」


アンナ「なに?」


  大きく息を吸い込むバイス

  そして開けられた口から超音波が発せられる

  耳を塞ぐゾルダムたち

  その超音波で、死体の体が弾け飛ぶ

  あっという間に、肉片の山

  ヘイス、バイスの頭を撫でて―


ヘイス「さすが、あーしの妹だ」


バイス「えへへへ」


フォルシャ「取り敢えずここは平気そうだけど、他の場所が被害を受けたかもしれない。様子を見に行った方が良いんじゃないかな?」


ヘイス「おい、あーしらとの戦いはどうなんだよ!」


ゾルダム「今は貴様らより、仲間の無事が優先だ」


フォルシャ「明日、改めて戦いなおそうよ」


ヘイス「だからキメェって」


  踵を返すゾルダムたち

  一歩踏み出して、背後から声


トワ「モリス、ここは頼んだわよ!」


  振り返るゾルダム

  ヘイスとバイスのいる建物の対面

  そこに3人の人物、颯爽と駆け抜ける

  そのうちの一人、綾人の姿

  ゾルダムと目が合い、気まずそうに逸らす

  そのまま止まることなく駆け抜ける


モリス「Ladies and Gentlemen! Let’s get started with my spectacle show! 」


  振り向くゾルダムたち

  肉片の山、その頂上にモリス

  こちらに機関銃を構えている


モリス「アシドメ、ガンバル」


ゾルダム「避けろ!」


  直後、銃を連射するモリス

  四方八方、弾丸が飛び散る

  地面に穴が開き、壁が砕ける

  飛び退けるゾルダムたち

  しかし、一発がアンナの肩を貫通


アンナ「あ゛っ……!」


ゾルダム「アンナ!」


  地面に倒れるアンナ

  肩を押さえ、苦しそうに悶える

  ゾルダム、アンナの肩を抱いて―


ゾルダム「フォルシャ、治癒!」


アンナ「私は……、平気、ですから……」


フォルシャ「喋るんじゃない!」


  フォルシャ、アンナの肩に手をかざす

  それを見て、モリス、あたふた


モリス「Oh, I’m so sorry. I didn’t intend to shoot you. 」


  ゾルダム、ゆっくりと立ち上がる

  モリスを鋭く睨みつけ―


ゾルダム「貴様らネクロマンサーはいつもそうだ。罪のないものを無差別に殺し、傀儡にする……。生きている者の権利を踏みにじり、そして死した者の権利をも踏み躙る……。あの時も……、マリナの時もそうだった……!」


  〔回想〕

  ・ゾルダム「マリナ……!誰が、こんなこと……!」


  アンナ、ハッとする

  フォルシャ、悲し気に眉を下げる


モリス「Marina? I don’t know her. I don’t know what to say to you. Can you speak English like Ayayo? And, you said me a necromancer? No! I’m hum―」


ゾルダム「黙れっ!」


  鋭い音が響く

  同時に、斬撃が飛翔

  モリスの耳を掠める

  ツーと、血が垂れる


モリス「Oh……」


ゾルダム「理解不能だ……。いや、元よりそのつもりもない。忌々しいネクロマンサ―共が……」


  ゾルダム、剣を構え―


ゾルダム「エルフィリア帝国騎士団団長ゾルダム・リッター。鬼より先に、貴様らを根絶やしにしてくれる!」

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