ティアード・ポンド~異世界で勇敢に戦う君は、本当に俺の求める君なのか?~

であであ

一章 湖を覗いたら

第1話 脱獄、転移

●~:柱

◆~:柱・回想

○○「」:セリフ

M「」:モノローグ

二文字開け:ト書き


*****


●街(夜)


  何台ものパトカーが道路を走っている

  その内の一台、無線にて―


無線「脱獄犯轟綾人は、三十分前に刑務所を西に逃走したとみられる」


刑事「まだ、遠くには行ってないはずだぁ・・・!」


  夜空の元、パトカーが走り去る


●地下水路(同日・夜)


  轟綾人とどろきあやと、姿勢を低くして歩いている

  息を切らしながら―


綾人「ここまで来て、また牢屋に戻るのはごめんだ。今行くからな、凛々亜・・・!」


  歩く綾人の後ろ姿

  その先には、出口の光


●轟宅・玄関前(同日・夜)


  何の変哲もない一軒家

  そのインターホンを、綾人が連打する

  しかし、応答がない

  綾人、拳でドアを叩きながら―


綾人「凛々亜、俺だ!開けてくれ!」


  しかし、やはり誰も応答しない

  庭に回り込む綾人が窓を見つける

  一瞬躊躇うが、足元の手頃な石を手に取り、窓に向かって投げる

  粉々になった窓の穴から中に入る綾人


綾人「凛々亜っ!」


  しかし、中には誰もいない

  屋内は真っ暗で、しかし生活感が保たれている


綾人「凛々亜・・・?」


  綾人、凛々亜の名前を呼びながら家中を探し回る

  だが、何処を探しても見つからない

  綾人、息を切らしながら―


綾人「凛々亜、どこに・・・?」


●湖(同日・夜)


  地面に座っている綾人

  呆然と、虚空を見つめて―


綾人M「どこにもいない・・・」


綾人「凛々亜・・・。もしかして、別の男と・・・?」


  綾人、立ち上がりトボトボと水際へ


綾人「凛々亜がいないなら、もう・・・」


  瞳を閉じて一歩踏み出す

  しかし、次の一歩を踏み出す足が大きく震える


綾人「くそ・・・っ!」


  綾人、水面を覗き込み、瞳を閉じる


◆アクセサリーショップ前(一年前・午後)〈回想〉


  舞谷凛々亜まいたにりりあ、ショーウィンドウのネックレスを熱心に見つめている


綾人「凛々亜?」


凛々亜「あ、ううん。何でもないよ、行こ」


  歩き出す凛々亜

  綾人、凛々亜の見ていたネックレスに視線をやる


◆轟宅(一年前・数日後・夜)


綾人「凛々亜」


凛々亜「ん?」


  振り向く凛々亜

  綾人、その首にそっとネックレスをかける


凛々亜「これ・・・っ!」


綾人「誕生日おめでとう」


凛々亜「高かった、でしょ・・・!?」


綾人「いいんだよ。こういう日くらい、我慢すんなって」


  綾人、凛々亜の頭を撫でる

  凛々亜、綾人に抱き着き―


凛々亜「ありがとっ!」


◆湖(一年前・数日後・夕方)


  レジャーシートに座る綾人と凛々亜

  凛々亜、夕日を指さして―


凛々亜「見て綾人、綺麗だね」


  綾人、夕日に重なる凛々亜を見て―


綾人「あぁ、綺麗だな」


  凛々亜のネックレスが青く輝く


◆轟宅前(半年前・数週間後・午前・雨)


  ザァザァと激しい雨

  警察に連行される綾人

  それを見て、凛々亜は泣きながら―


凛々亜「綾人は、絶対やってない!」


  綾人、パトカーに乗る直前―


凛々亜「私、ずっと待ってるから!」


  その言葉に、ハッと凛々亜を見る綾人

  しかし、すぐに視線を逸らしパトカーに乗り込む


●湖(同日・夜)


  湖を覗き込む綾人、瞳を開いて―


綾人M「ずっと待ってるって、そう言ってくれたんだ。凛々亜が、そんなことするはずない」


  *回想:轟宅、アクセサリー入れ


綾人M「ネックレスがなかった。きっと、どこか出かけてるだけなんだ」


綾人「まだ、探さないと・・・」


  顔を上げる綾人

  だが目の前に広がったのは、西洋風な街並み

  思考が止まり、固まる綾人

  行き交うエルフたちが、綾人を怪訝な表情で見ている


綾人「は・・・?」


  呆然とする綾人

  そこに、一匹の妖精がぶつかってきて―


綾人「いて」


妖精1「ご、ごめんなさい!」


  綾人、去って行く妖精を目で追い―


綾人「はあぁぁぁぁぁ!?!?!?」


●エルフィリア帝国・城下町(同日・午後)


  街角

  険しい表情の綾人が顎に手を当て―


綾人「耳が長い・・・、エルフってやつか?それにさっきのは、妖精・・・?こういうの確か・・・、異世界、異世界転―」


  考え込む綾人だが、直後ハッとして―


綾人「違う、こんなことしてる場合じゃない!早く、凛々亜を探さなきゃいけないのに・・・!」


  綾人、背の高いエルフに詰め寄り―


綾人「なぁ、ここはどこだ!どうやったら帰れる!」


  戸惑った表情をするエルフ

  次に、屈強なエルフに詰め寄り―


綾人「ここはどこなんだ!どうしたら、元の世界に―」


屈強エルフ「うるせぇ、邪魔だ!」


  綾人、突き飛ばされ尻もちをつく


綾人「・・・クッソ!」


  綾人、妖精2に詰め寄り―


綾人「ここはどこなん―」


  妖精2、怯え震えている


綾人「わ、悪い・・・」


× × × × ×


  数十分後

  綾人、重い足取り

  その時、正面に女性の後ろ姿を見る

  足早に近付き、肩を掴んで―


綾人「なぁあんた、ここはど―」


  リーリア・エルフィリア、綾人に肩を引かれて振り返る

  綾人、彼女の顔を見て絶句する


綾人「凛々亜・・・?」


  綾人、目を見開き放心

  直後、リーリアの肩をガッと鷲掴み―


綾人「凛々亜!ど、どうしてこんなところに!?いや、それはいい。とにかく早く戻ろう!俺、帰ってきたんだよ!でもお前、家にいなくて。こ、ここどこなんだ?どうやったら元の世界に帰れる?それとも俺たち、夢でも見て―」


  その時、綾人の体が突き飛ばされる

  リーリアの両隣、二人の兵士(エルフ)が剣を構えて―


兵士1「貴様、何者だ!」


兵士2「この不届きものめ!」


綾人「何だ、お前ら・・・。俺の凛々亜から離れろよ!」


兵士1「貴様っ、リーリア様を呼び捨てとはっ!」


綾人「リーリア・・・?」


  その時、綾人を睨んでいたリーリアが口を開く


リーリア「あなた、どちら様ですか?」


綾人「どちら様って・・・。綾人だ、お前の恋人の!」


リーリア「私に恋人はいません」


綾人「はぁ!?だったらお前は誰なんだよ!舞谷凛々亜、そうだろ!?」


リーリア「私の名は、リーリア・エルフィリア。舞谷凛々亜、などという名前は存じ上げません」


  リーリア、綾人を強く睨み直し―


リーリア「そしてもちろん、あなたのことも」


  絶句し、言葉が出ない綾人がその場にへたり込む


リーリア「この人、連れて行ってください」


兵士1・2「はっ!」


兵士1「おら、立てっ!」


  兵士1・2、綾人を立たせて連行する


綾人M「嫌だ・・・!だって、その目も、鼻も、口も、何処からどう見たって・・・」


  綾人、連れていかれている最中、リーリアと目が合う

  しかし、リーリアはすぐに視線を逸らす


綾人「・・・っ」


  綾人、落胆し視線を落とす

  その時、リーリアのネックレスが青く光る


綾人M「また俺は、お前の側にいてやれないのか・・・」

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