第28話 マムの過去の記憶だよね。 (トオルとマムの視点を挟みます)

 朝起きるとリリィはちょっとにやにやした顔で僕に話しかけてきたよ。


 「マムと仲を深められたね。僕ちゃんも気を使ってたんだよ」


 


 どうやら昨日の夜は、リリィは気を使って寝たふりをしてくれてたみたいだね。


 「ありがとう、リリィお姉ちゃんにはいつも助かってるよ」


 「わあ、僕ちゃん、そんなにストレートに感謝を言われると照れちゃうよ……」




 「ふふふ、二人は仲が良いのじゃな、トオルと共に熱い夜を過ごしたということは、妾も娶ってくれるということでいいのかの?」




 ぶっ!!急にとんでもないことを言い出す、マムに僕は吹き出す。


 「そうだよねえ、僕ちゃんも、トオル君から求めてくれるのは初めてだったのにマムも一緒のタイミングで受け入れるってことはそう言うことだよね?」




 うーん、結局体の関係を持ったわけだし、僕も覚悟を決めるときかなあ。だけど今からマムの解呪に挑まなければいけないからなあ。何となく、今は覚悟を決めれず……


 「ごめんけど、今はそれについては言えない」


 と、言葉を濁してしまったよ。




 二人もまあ急すぎるから、ということで許してくれた。でもこの後もなあなあで済ませるつもりだったら……とちょっと圧をかけられたのは怖かったよ。




 さあ朝ご飯を済ませて、まずマムの解呪からすることにしたよ。




 まずはオーラン村でもあまり人が来ない倉庫に案内してもらって、二人っきりにしてもらったよ。


 「うーむ、いざ解呪となると不安になるの……高い金を払って呪術師に頼んだこともあったが、これは無理だと匙を投げられてしまったからのう」


「大丈夫、僕が何とかするから」


 「トオル……」




 さあ、大見栄を切ってしまったからにはやるしかないぞ。まずは「錬菌術」の顕微眼を発動させてマムの体内の呪いの根源を見つけることにしたよ。




 顕微眼でマムの体内を見ると細胞と血流と魔力の流れ以外に黒くて嫌な感じがする無数の網目が体内を蝕んでいるのがわかったな。その網目の核になってるのは……マムの脳と心臓だった。






 そして網目を細かく見ると「瘴気菌」と呼ぶべきものだったよ。うーん、菌なのはわかったけど脳と心臓か。二つの核を同時に浄化しないといけない気がする……そうしないと片方を浄化してもすぐに抵抗されて、マムの呪いが進行し、赤ちゃんどころか細胞レベルまで戻される気がするんだ。


 


「つっ!?」


「どうしたのじゃ、トオル!?」


この時、僕の脳裏にマムの過去の記憶がフラッシュバックした気がした。マムがどうして村を守るために呪いをかけられてしまったのか、そしてマムのトラウマも。




今日もオーガ族のランド村でマムは狩猟民族としての本文を果たした生活をしていた。




「ハアッ!」


マムの弓から放たれた矢がちょうど水場で水を飲んでいた鹿の頭蓋を見事に貫いた! 鹿は即死して、ドスッと大きな体を横たえる。




やった! という村人の声や流石だ! といった称賛の声が周りから広がる。


「マム様! 今日も見事なお点前でした! このサイズの鹿を一発で仕留めるとは!」


「マム様はこの村の誇りだ! ガオウ様もほめてくれますぞ!」


「妾はそんなに大したことはしていないぞ。剛力と狩猟技術のスキルがあれば、一発で仕留められるだけじゃ」




筋骨隆々の体に大きな胸を包んだ狩猟民族らしい装いをしたマムは銀髪を風になびかせながて大弓を下ろしながら、照れくさそうに言う。


「さあ、早く鹿を解体して、ランド村に向かうぞ!」


「「「おうっ!」」」




マムが号令をかけるとランド村の村人たちは誇らしげにしながら解体を進めていく。


「全く。毎回毎回獲物をしとめるだけで大げさなのじゃ……」


「マム様がいなけりゃ、こんなに獣をしとめられませんよ」


この鹿をしとめる前にも大きな猪を2頭仕留めている。今日も良い狩猟であった。




村の広場では、子どもたちがかけっこをしている。彼らの笑い声が、村の穏やかな空気に溶け込んでいた。




夕食では今日マムが一発で仕留めた鹿のあばら骨がついたスペアリブのようなものをかじりながら和やかに進んでいた。




オーガ族のキングであるマムの父は上機嫌で魔力が回復する煙草をくゆらせながら、マムに話しかける。




「今日も大猟であったな、マムよ。これはランドロス村やオーラン村におすそ分けしなければいかんな! ガッハッハッハ」


「父上、食事の際は煙草はやめてくださいと言ったはずじゃが」


「ガッハッハッハ! 今日はめでたい日だからの! そうカリカリするでない!」




スペアリブを豪快に骨ごとかじりつくガオウの様子にため息をつくマム。


「ガオウ様、毎日めでたい日って言ってますぜ」


「そうじゃろう、そうじゃろうってお前たちも煙草を吸いながら食べているのか!? はあ、この村の財政が心配じゃのう……」




マムが気づかないうちに煙草に火をつけている村人たちにまたため息をつくマム。そういいながら本人も気づかないうちに煙草に火をつけて息を吸い込んでいる。これがいつものランド村の様子であった。


 


ガオウがまた上機嫌にマムに話しかける。


「ガッハッハッハ、そろそろマムも身を固めたらどうだ? ほらあいつなんてどうだ。お前には負けるが、狩りの腕はいいし、腕っぷしもいい。顔もいいではないか!」


「父上、妾はまだそういうことはいいのじゃ。あと10年は狩猟の腕を磨かなければ!」


「マム、またそういうのか……その話は70ねn」




年齢に関わる話になった途端、マムから闘気があふれ出し、ガオウは冷や汗をかいて押し黙る。


「父上? 妾は永遠の20歳ですぞ?」


「それは無r」


「父上~??」


「お、おう、マムはランド村の看板娘でエイエンノ20サイダ……」




いきなり雰囲気が変わったマムに圧倒されるガオウ。ひそひそと周りの村人が話始める。


「いくらなんでも、それは無理があるだろ……」


「50年前から言い出してたな……」


「さすがに設定が若すぎる……」




ひそひそと話す村人の後ろに銀髪をなびかせた般若が登場する。ガシッと三人の肩を抱きながら、怒りの表情を浮かべる大鬼にぶるぶると震える村人たち。


ランド村では、男女ともに大柄で筋肉質で頼りがいのある肉体を持ったものが持てるとされている。顔もいいことに越したことではないがオーガ族は子どもの時から慎重60センチはある成体として生まれるため、そのようなモテる基準が作られたのであった。




マムは父親や村人たちと共に過ごす日々に、心からの幸福を感じていた。ランド村での生活は、何にも代えがたい宝物のようなものだった。だが、どこか胸の奥に、言いようのない不安が静かに燻っていた。






次の日、懇意にしているランドロス村から気になる話が届けられる。何でもランドロス村に微かに瘴気が発生しているらしい。その発生源が封印している邪神の器にあたる神像らしい。だが瘴気はほんのわずかですぐに儀式を執り行えば、また再封印できるとのことだった。




「何となくじゃが雨が降りそうじゃの……湿っぽい空気が流れてきおった」




それに村の雰囲気がいつもと違う気がする。森の中にいるのに鳥のさえずりが気来れない気がする。一抹の不安を覚えたが、マムはふっと笑ってなんでもないと受け流すことにした。なぜそうしたのかはマムでさえわからない。




「ふう、数十年前にもあったことじゃが、今回も何とかなるじゃろ」




この時はこう考えていたマムだが、後にその判断がいかに甘いものであったか後悔することになるのであった。




瘴気の話を聞いて、マムは笑って受け流したが、心の片隅にどうしても消えない不安が残った。空気が重く湿っている。まるで何かが近づいているかのように。




風が静まり返り、木々がざわめく音さえ消えた。村の広場に立つ大木の葉が、一瞬だけ不気味な揺れを見せたが、ランド村の誰もそれに気づかなかった。














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