第26話 賑やかな夕食と唐突なシリアスだよね。
契約書を交わした後、マーカスからお金を受け取ったよ。売上金は金貨200枚からオーラン村が受け取るのは4割で金貨80枚だね。
会議をしているうちに暗くなってきたのでマーカスと何故かマムまでガラルの屋敷に泊まることになったよ。二人とも石造りと木造建築が融合した家を見てびっくりしていたよ。
「この家は独創的なようでどこか伝統的でもある.……こんな家をわずか二日で建てられたと!?」
「二日で建てたけど.……普通に建てたわけじゃないからねえ」
「この家はすごいのじゃ! トオルが考えた建築なのか?」
「僕が考えたわけじゃなくて、僕の知ってる国の建築にこういうのがあっただけだよ」
「むう、オーガ族も木造建築は得意なのじゃが……ここまでうまく石造建築と木造建築を合わせられると何とも言えんのじゃ」
むむむ、と唸るマムは子どものようで可愛かったよ。それを見て、僕が笑っているとマムは頬を膨らませて、なんじゃ! と怒るのでつられてみんなで笑っていた。
「妾はのう! 見た目は子どもじゃが、もう立派なレディなのじゃ! 子ども扱いする出ないぞ!」
「わかった、わかってるから、フフフ」
「トオル君、マムは立派な大人よ? からかうのはそこまでよ」
「はーい」
雑談は切り上げて屋敷の中に入るよ。屋敷の中も興味深げに見ていた二人だったが家具を見て、むうと今度は別の意味で唸る。
「トオル、外装だけではなく、内装もこだわったほうがいいよ? というかこの家具は屋敷の格に釣り合ってないじゃないか……」
「これは別の意味で唸ってしまうわい。オーガ族は木造建築と家具つくりも得意だから妾のおすすめの職人を紹介するぞ!」
いや、この家具は僕がオーラン村に来る前から屋敷にあって、家具を作る暇がなかったのでそのまま流用しただけなんだけど.……ていうか僕の屋敷じゃないから責められる謂れはなくない!?
ガラルとセスとリリィを見ると、3人は素知らぬ顔で、へたくそな口笛を吹いている。
「お、俺はまだ書類仕事があるから……」
「爺はもてなしのために夕食を作らねばなりませんので.……」
「わ、私はお花摘みに行ってくるね.……」
3人とも逃げやがった。僕も夕食の準備があるから、と言ってその場から逃げようとするが、マムとマーカスの2人に両肩を掴まれて、にっこりとされた。あわわわ、笑顔なのに圧があるよ……
その後、受けた仕事は細部まできっちりとやりなさいとか、家具とインテリアの重要性をじっくりと語られた。夕食の準備は本当に手伝いたかったので30分ほどで許してもらったよ、トホホホホ。
今日の主食は、マーカスが持ってきた野菜の中から、トマトを使ったパスタだ。まあ、トマト缶がないからちょっと苦労するけどね。
ここは神様ノートの力を借りてトマトからトマト缶のようなものを作るレシピを教えてもら、教えてください!
『フフフ、トオルは私がいないと本当に駄目ね! サクッと検索してくるわ!』
いや、ミリアも知らんのかーい! ってしょうがないよね。トマト缶なしでトマトソース作るとなるとケチャップやウスターソース必要だし.……
『検索してきたわ! さあ何か言うことは?』
『ありがとう、ミリアお姉たん!!』
『なんで口で言わないの? さあさあ!!』
いやーミリアは可愛くて頼りがいのあるお姉たんだなー、と心の中で思いつつミリアの言葉を聞き流して、作業に移る。
『むきーー!!』
真っ赤で怒るミリアの顔が浮かんだがスルーする。
トマト缶は正しくはトマトの水煮だそうだが、ただ水で煮ればいいわけではないだろう。そう思ってトマト缶っぽいレシピを調べてもらったのだ。
生トマトからつくるトマトソース
材料(約1.5カップ分)
•トマト 中玉2.5~3個(400g前後)※一般的な中玉トマトは1個約150g
•ニンニク 1/2片
•タマネギ 1/4個
•オリーブオイル 大さじ2
•塩 小さじ1/3
•コショウ 少々
•ローレル、オレガノなどのハーブ(好みで) 適宜
ネットで調べたレシピではこんな感じだった。これを5人分にするだけだ。ただマーカスが持ってきてくれた野菜の中に大体入っていて助かる。あ、野菜を育てる種も買わないといけないな。調理場を出て、応接間にいたマーカスに話しかける。
「マーカスさん、野菜の種を買わせてもらえませんか?」
「それくらいお安い御用だよ。今日持ってきた野菜の種は全部あるよ」
さすがマーカスだね。これで野菜をオーラン村でも育てられる。栄養の偏りも改善できそうだぞ。調理場に戻るよ。
さあ、調理に移って行こう。トマトのへたをくり抜き、熱湯に通す。皮がめくれて来たら、セスが出してくれた冷水にとって冷まし、皮をむく。
これは皮むきをするのが大変だね。しかも熱したトマトが熱い。
「アチッアチッ!!」
僕は熱いのを我慢しながらやっているが、セスは全く熱いと言っていない。
「セス爺は熱くないの?」
「トオル様、魔物は体も丈夫で、多少の熱や寒さは効かないのです」
それはうらやましいなあ。調理を続けていこう。
皮むきしたトマトを横半分に切って、種を取り出す。
ニンニク、玉ねぎをみじん切りにして、オリーブオイルを入れてまずはニンニクだけをフライパンで弱火で熱する、とレシピに書いてあるが、この家にフライパンがないことに気づいた。
オーラン村にまだ調理器具に金属がないので諦めて土鍋で炒めることにしたよ。オリーブオイルの代わりは
ニンニクの香りが立ったら、玉ねぎを加えて、弱火でじっくり炒め、玉ねぎの甘さを引き出す。ザク切りしたトマトを加えて軽く混ぜる。塩、コショウ、オババが育ててるハーブを入れてふたをせず、中火で7~8分煮込む。これでトマト缶から作らないトマトソースは完成だよ。
妖精たちの庭園からまたまた分けてもらった猪のベーコンを厚切りにして5枚焼く。魔菜の種油で軽く焦げ目がつくまで炒めてから、白い小麦粉から作った生パスタをゆでておく。
生パスタをゆでて丁度いいかたさになったら、ゆでた生パスタとトマトソースと焼きベーコンを合えて、程よく火を通したら完成だ!
他にも焼いた鹿肉のステーキにびっくりフルーツのブルーベリーっぽい味をチョイスしたベリーソースをかけていく。主食に丸黒パンを作ったら今日の夕食は完成だ。
夕食を並べるとマーカスとマムがゴクリと唾を鳴らす。
「これは豪勢な食事だねえ。このトマトのソースがかかった細長いものは何だい?」
「パスタといいますね。白い小麦粉から作った麺、いや細長いものをゆでてソースに絡ませているわけです」
「鹿肉のステーキにびっくりフルーツの果物を使ったソースをかけるとは.……どんな味なのじゃ?」
「それは食べてからのお楽しみだよ。でもちゃんとステーキにあった味になってるからね」
ごくりとよだれを飲み込む二人とついでにガラル。セスは味見をしながら作っているので味は知っているが、まだ妖精たちの庭園から帰ってきたばかりでガラルはパスタを食べていないのだ。
「では、客人のマーカスとマムの歓迎を祝して! いただきます!」
ガラルの号令に、僕とセスとリリィがいただきます、と返して食事を勧めようとしているがマーカスとマムはポカンとして、固まっている。。
「いただきます、とはなんじゃ?」
「初耳ですね、私、気になります!」
マムはともかく、なんでマーカスさんが某アニメのネタとおなじセリフを言ってるんだよ。そこはマムに言ってほしかったよ! じゃなくてどう説明しようか。
「僕の故郷の食事の前の挨拶だよ。命の恵みに感謝して食べ物を頂くんだ」
「トオルが食べる前にいただきますって言うからよ、理由を聞いたらいい話だったからみんなで言うことにしたんだよ」
「トオル君の故郷の話も後でじっくり聞くからね?」
「爺もその話には興味津々ですな」
まあまあ、その話は食後に話そうよ、と言って今は食事を頂くことにしたよ。
「この細長いもの、パスタって言ったっけ? すごく美味しいよ! トマトソースもニンニクの香りと玉ねぎの甘さが相まってものすごくいい味になってる!」
マーカスさんはトマトソースのベーコンパスタをフォークでくるくるときれいに巻いて口元にソースをつけることなく上品に食べてるね。
それに比べてマムは.……厚切りベーコンを口いっぱいに頬張り、口元にトマトソースをべたべたとつけている。ああ、服にもちょっとソースが飛んでるよ。
僕がきれいな布でマムの口を拭いてやるとちょっと嬉しそうな顔をした後、ぷくっと頬を膨らませて、子ども扱いするでない! と怒ったふりをする。
可愛いが、どっからどう見ても子供じゃないか! と僕は内心思っているとリリィが複雑そうな顔をしながら小声で僕にしか聞こえない声で喋りかけてきた。
「あのね、マムは呪いがかかってるの、子供の姿と性格になる呪いがね.……」
「どういうこと? 元からこの姿じゃないの?」
「違うわよ、昔は大柄で凛々しい頼りがいのある女性だったの。でもあの楽園の裏切り者のせいで.……しかもこの呪いはだんだん体が若返る呪いで最終的には胎児にまで戻ってしまうものなの」
リリィと僕がこそこそ話しているとマムにも聞こえていたのか、話に割り込んでくる。
「リリィよ、楽しい食事の場で水を差すようなことを言うでない。それに妾はランド村の皆を守るために呪いを受けたのじゃ。裏切り者は許せぬが、今のこの姿でも楽しくやれてるのじゃからいいのじゃ」
何か、また裏事情がありそうな感じだ。うーん、気まずくなってきたな.……それに……体が若返るというのは一見いいことのように思えるが胎児にまでなってしまうとなるとそれは最終的に細胞レベルで小さくなって消えてしまうということなのだろう。何とかしたいな。
「今は事情は詳しく聞かないけど、マムの呪いは僕の魔聖気でとけないのかな?」
それをいうとリリィがハッとして、そうよ、トオル君の魔聖気なら呪いも解けるかも!? と大きな声を出す。
マムは魔聖気とはなんじゃ? という顔をしているが明日狩りの技術を教わるときに一緒に呪いをとけるか試してみようという話になった。
そういえばマムとセスはランドとランドロスという、結構名前が似ている村だが関連はあるのだろうか?話を変えるために聞いてみるとみんな一様に暗い顔をする。
「爺から説明させていただきますとランドロスという村はもう存在しないのです。」
「トオル、この話はまた後でしてやるから今はやめとけ」
みんな一様に暗い顔をしている。やばい、僕は本当にKYじゃないか.……このままじゃただの痛い子だ。どこに地雷があるかわからないって怖いな.……
僕まで暗い顔になるとセスはいいのです、と一言いう。もう過去の話ですから、と何かを考え込んだ顔で言っていた。
「あートオル、この鹿肉のステーキと甘酸っぱいソースもたまんねえぞ! もっと食べろ!」
ガラルが場をとりなしてくれた。こういうところの気遣いが本当に村長って感じするなあ。
「あー本当だ、おいしいね!」
「トオル君とセスが作ったんだから味は知ってるでしょ! お父さん!」
「その通りですな、ご主人様もお年を召して少々ボケが.……」
「人をからかうんじゃんねえ!まだピチピチの108歳だ!」
ここで食卓にワハハと笑いが訪れる、ありがとう、みんな。僕のせいで沈んだ空気を変えてくれて。ちょっとだけジーンとしているとマムがニコニコとして僕の頭をなでてくれた。自分より幼い見た目のマムに慰められるのは納得いかないが呪いのせいなら仕方ないなあ。
なんだがマムに撫でられているときにちょっとだけ懐かしさを感じたような気がした。なんでだろうと考えたけど、その考えがまとまることはなく、ふっとどこかに消えたよ。
小説をいつも読んで頂きありがとうございます。面白かった、また読みたいという方は高評価やフォローをお願いします。作者の励みになります\( 'ω')/
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