第33話 ドドンゴの採取と合成獣だよね。

 第33話 ドドンゴの採取と合成獣だよね。


 鬱蒼に茂る森の木々の中で、僕、オババ、ガラルは実や花を採取することにしたんだけど……まず暗すぎて手元にどんな植物があるのかわからないことが困った。

 それをオババに言うと……


 「あら、手元が暗いなら、ライトの魔法を使えばいいじゃない~~」

 「ライト」


 昔、セスが使ってくれた「ライト」とは違い、温かみのある炎のような光が薄暗い森を照らしてくれたよ。

 「このライトの魔法は虫も寄ってこないからいいのよね~~トオル君も光属性の魔法の素養があったら使えるわよ~~?」


 「毒獣はどうなの? 寄ってくるの?」

 「そりゃ、寄ってくるさ。ただ目が退化してるから、光に弱いけどな!」

 いや、寄ってくるならだめじゃん!! と僕は思ったけどガラルはこう言う。


 「毒獣を倒して抗体を抽出することも目的なんだからいいだろ?」

 あまりにも堂々と言うもんだから、反論する気も失せちゃったよ。


 ちなみに匂いはどうにもならないので、口に革をなめしたマスクのようなもので対策したよ。


 毒獣の食べる実や花は通称、ドドンゴの花というそうで、彼岸花のような毒々しい見た目をしていたよ。枝や葉に棘のようなものが生えていて、手で直接触るのは危ないらしい。


 だから鹿の革をなめした手袋をして採取するのが一般的なんだけど、それでも棘が刺さるときがあるらしい。


 「うーん、錬菌術で何とかできないかな? 棘が刺さっても毒を中和するような菌の幕を貼れたらいいかもしれない」


 まず、ドドンゴの花を顕微眼で観察すると、花や棘に毒を中和する独自の菌が付着していることが分かったよ。この菌を「対ドドンゴ菌」とかってに名付けてその菌の姿、形を覚えて錬菌術で手袋のように薄く広げて再現する。


 菌同士が結びついて物理的な厚みのある「バイオフィルム」のように仕上がったので半透明の手袋みたいになったよ。これで鹿の革袋が破れてもこのバイオフィルムが毒を中和して守ってくれるね。


 「これで大丈夫! オババもバイオフィルムをつけてその上から鹿の革袋をつければ安心だよ」

 「このばいおふぃるむ~~? はどのくらい持つの~~?」

 「僕の魔力で維持しているから大丈夫だよ。消費魔力はちょっと燃費が悪いから2時間くらいが限度かな」


 ガラルは採取しているときの護衛役だよ。


 二人で採取していると、ドドンゴの花が森の奥に向けて密集している場所があることに気づいた。


 「あそこが怪しいな。確実に毒獣がいるぞ」


 その場所に行ってみるとドドンゴの花だけでなく、霧が立ち込めていてライトの魔法でも先が見えないくらいの濃霧だったよ。


 僕はその怪しげな雰囲気に身震いがした。普通の狩猟とは違い、自らが罠に追い立てられている気がしたんだ。

 「トオル君、これは普通の狩猟とは違うわ。まだ経験が少ないからおびえるのは仕方ない。でもこれだけは忘れないで。私たちの作る解毒薬を待ってる人がいるのよ。守るものを背負える男になりなさい」


 オババは口調を伸ばさずに僕の瞳を強く見つめて言い切った。その言葉を聞いて少しだけ震えが止まった気がした。


 「オババの言うとおりだ。しゃんとしろ、お前はリリィを預かる男になるんじゃないのか」

 ガラルの言葉もトオルの心に響いた。端的な言葉だがトオルの心を奮い立たせるには十分だった。


 「もう昔のあの人にそっくりなんだから……」

 オババは小声で何かを言っていたが濃霧に溶けて何を言っているかはわからなかった。


 「がああああああああ!!」

 突如、濃霧の中から吠え声が響く。

 ガラルとオババが前に出て、僕は後衛につく。魔気を習得しているとはいえ、まだまだ非力な僕を前衛に出すわけにはいかないと話し合った結果がこれだ。僕はサポート兼ヒーラーのような役割になる。


 濃霧の中からそれは姿を現した。全長5メートルはあろうかという山羊の頭に馬のような体格の四本足、そして尻尾は獅子という何とも奇妙な合成獣とも呼ぶべき獣だった。体毛は毒々しい色をした黒に紫が混ざったような感じだったね。


 「こいつは……自然にできた獣なのか?」

 「何かおかしいわね」


 ガラルとオババは自然が作り出したとは思えない獣の形に唖然としていた。トオルは毒々しい雰囲気にまた震えが出始める。だが、先ほどの二人の言葉を思い出す。


 『リリィお姉ちゃんや、マム、セレス、ミリアお姉ちゃんに顔向けできるような男になるんだ』

 『その調子でしっかりしなさい。トオル。でも私のことはミリアお姉たんと呼びなさいって言ったよね』

 『ミリアお姉ちゃん、今はそんなことを言ってる場合じゃ』

 『いいから呼びなさい!!』


 いつもとは違い急に怒鳴るミリアの様子にまたも狂気を感じるトオル。

 『あっ、ち、違うの、これは……』

 『ミリアお姉ちゃん……?』

 『とにかくちゃんと、しなさいね。あなたの能力を存分に生かすことを考えるのよ』


 それから念話は途切れて、ミリアの声は聞こえなくなった。だがいつもとは違う余裕のないミリアに違和感を感じることは抑えられなかった。


 ――ミリア視点――


 「私ったらなんであんなくだらないことで怒って……」

 自分の感情が抑えきれなくなったことに違和感を覚えるミリア。


 「そもそもなんで、私はこんなにトオルに執着しているの……? 何か大事なことを忘れてる気がする……」



 ――トオル視点――


 「何をボケっとしてるんだ!! トオル!!」

 ガラルの珍しく焦った声にハッとする僕。そうだ、目の前に合成獣を何とかしなければいけなかった。一旦ミリアのことは頭から追い出して集中する。


 ガラルは大岩から削り出したかのような無骨な大剣を構え、オババはいつの間にか取り出した漆黒の鞭を取り出して空気を叩いて合成獣を威嚇していた。


 トオルは集中して魔聖気を鎧のようにした魔鎧を纏う。戦国時代の武将でありながら白銀の輝きを放つ武者がそこに居た。魔鎧は濃霧にも負けない光を放っていた。


 ガラルとオババはそれをちらっと見て、纏い術を可視化できるレベルにまで到達していることに驚きながらも頼もしさを覚えていた。


 『纏い術をゴン太に習ってまだ一か月もたってないのにあれか、末恐ろしいな』

 『トオル君の纏い術のレベルはゴン太よりも上ね。あの子はまだまだ強くなるわ』


 二人はお互いに目でコンタクトしてにやりと笑うと、それぞれの武器を携えて駆け出す。それに合わせてトオルも駆ける。毒獣の合成獣との戦いがついに始まろうとしていた。
























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