第32話 森の毒と希望の薬だよね。
「最近、魔物たちの楽園では瘴気に侵された獣以外にも毒獣という強い毒を持った獣が出てきてやがるんだ」
ガオウが気になる話を始めたよ。
「瘴気はランドロス村が襲われたときに森に広がったんだよね? 毒獣はどうして発生したの?」
「それはわからん。妾たちも調査はしているのじゃが……どうやら毒獣が食べる物に毒が含まれておるのかもしれんな」
そもそも瘴気とは何だろうと思って質問してみると……ガオウが答えてくれたよ。
「瘴気ってのはな、昔いた邪神が使った魔法によって生まれたんだ。そいつは暴虐の限りを尽くして世界を滅ぼそうとしたんだ」
「その魔法から生まれた瘴気を生み出す異物があってじゃな。その異物は一説では邪神を呼び出す像とも言われておる。ランドロス村はそれを封印する仕事を任されていたのじゃがな……」
マムが悔しそうに唇を嚙みながら話してるよ。ガオウも暗い顔をしながらこう言ったよ。
「マム、お前のせいじゃねえ。邪神教の奴らがすべて悪いんだ」
「それはそうなんじゃが……」
マムがまたつらそうな顔をするので、僕はあえて空気を読まずに質問してみた。
「瘴気を浴びるとどんな影響を受けるの?」
「瘴気は生物の体内に入るとその生物の攻撃性を高めたり、体の一部を異常進化させる作用があるのじゃ。瘴気の影響でまともな思考ができなくなるという作用もある。おそらく普通の獣が毒獣に進化するのも瘴気のせいじゃ。また周囲の植物にも影響を与え、毒性のある実や花が咲くこともあっての……」
「なるほどね、毒性のある実や花を食べた獣が毒獣になってるんだね」
「ランド村でも狩猟の時に毒獣に襲われて怪我をして苦しんでいるやつが少なからずいるんだ。午後からオババのところに行くなら、そこで解毒薬を作れないか?」
それは大変だ。魔物は体が強いので生死をさまようほどではないが、次の狩猟に出れずに寝たきりになっている者もいるらしい。そこで獲物をオーラン村で解体しておくように頼んだ後、オババの家に行ってみるよ。
「あら~トオル君じゃない? 錬金術で妖精女王のセレスを助けてくれたことを聞いたわよ~~?久しぶりじゃない~~」
「オババ、久しぶりだね」
オババは後ろからついてきているマムとガオウを見て、ん? と異変に気付く。
「あら~~マムの体が大きくなってるじゃない~~! もしかして呪いが解けたの~~? 私も薬で何とかできないか手は尽くしたんだけどね~~どうにもならなかったの」
「妾の呪いをトオルが解いてくれたのじゃ! この通り体も元に戻ったぞ!」
「それはいいわね~~トオル君、いいわね~~、でも……」
「トオルは渡さんぞ、まあでもお主は忘れ形見があるからの……」
オババの過去に何があったのかは知らないけど、何か事情があるようだ。ちょっと聞いてみたい気持ちはあるけど重い話かもしれない。
僕が一人で考え込んでいるとオババがあら~~? と疑問の声を上げる。
「マム? ステータスの加護が減ってるわよ?」
ん? 僕が鑑定したときには魔神アランの加護と鬼神の加護があったけどそのどちらかがなくなったのか!? オババに聞いてみると……
「その二つの加護じゃなくて、???の加護という私の上位の鑑定スキルでも名前がわからない加護があったのよ~~。でもどこかで見たことがあったような~~」
それは何だろうな、でも何か気になることのような……
「まあ、それはいいのよ~~、今日は3人で何をしに来たのかしら~~?」
先ほど聞いた事情を説明すると……
「それは大変ね……薬師の出番だわ! 苦しんでいる人がいるのは放っておけないし。トオル君、錬菌術で手助けを頼める?」
オババはいつものほんわかとした雰囲気ではなく、真面目で情熱的な姿勢になったよ。その姿はいつもより凛々しく、美しく強い女性に見えて何か心の中で惹かれるものがあったよ。
いや、でもリリィやマムがいるのにこれ以上女性に手を出せない……よくないぞ、僕、という天使の僕ともう一人くらいいいだろ? という悪魔の僕が戦ってる。
いきなり考え込み始めた、僕に困惑する3人。うん、考え込んでる暇はないな。話を進めよう。
「薬はどう作るの?」
「毒獣が食べてる毒を含んだ実や花から毒を抽出するのよ。でも毒獣の毒はもっと強いから毒獣の血から抗体を抽出しなきゃいけないし、それだけでも足りないかもしれないわ」
そういった後、オババが僕を意味深に見るので、考えて思いつく。
「そうか! 僕の錬菌術の出番だね!」
「その通りよ~~トオル君も頑張ってね~~」
「もちろん!」
オババの口調が戻ったけど、まあいいか。患者に真剣に向き合ってるのはいいね。
僕、オババ、マム、ガオウで話し合い、方針を決めるよ。
毒獣の住処の実や花の採取と毒獣を狩らなきゃいけないみたいだね。オーラン村とランド村からガラルとリリィとゴン太、ランド村から来ていたマムとガオウがそのまま来るみたいだ。毒獣の数を減らす作戦もするようだよ。
僕含め7人が全員集まるとどこからともなく会話が始まるよ。
「トオル君、狩猟に行ってたのね? 魔獣がいたんだって聞いたけど怪我はない?」
「大丈夫だあ、トオルには魔聖気があるから相性はいいはずだあ」
「リリィお姉ちゃん、ゴン太師匠、怪我はないよ、魔聖気の新しい使い方も覚えたよ!」
どんな使い方と聞かれたので、手の平から魔聖気を打ち出して相手の足元を包み込んだというとゴン太師匠にびっくりされたよ!
「トオル! それは魔弾じゃねえかだ! しかも打ち出した後の魔力操作までしてるだ。ちょっとうらやましいだ」
ゴン太はほめてくれた後、ちょっと暗い顔をして悔しそうな顔を見せる。それが何か印象に残ったよ。
「おお! ガラルじゃねえか! 大剣術はなまってねえか?」
「当たり前だろ! 毎日大剣を振ってるよ。セスの小言が止まらねえがな」
ガハハ、アハハと笑いあう二人の仲は良さそうだった。
毒獣の住処に行く途中で聞いた話だとガオウはガラルに大剣術を教えた師匠らしいね。道中楽し気に話していたよ。だが僕以外の5人が何かおかしいと言い始めた。
「森の中から、どこか暗い雰囲気の視線を妾は感じるの」
「そうよね、しかも鳥のさえずりが聞こえないわ。どこかで木の枝を踏んだ音がやけに響いているわ」
「ここの植生もおかしくなってるわ~~毒性のある植物ばかりが生えてるわ~~」
確かに森の中を見ると派手な色の色とりどりの花が咲いていたが、どこか毒々しい様子をうかがわせたね。
「おっと、目的についたようだぞ」
「臭い!」
僕の声が薄暗い森の中に響く。
鼻を突くような強い匂いが漂ってきたよ。それは、何かが腐っているかのような不快な匂いで、瘴気と毒が森の中に染み渡っている証だったんだ。しかも鬱蒼としたうす暗い森で地面はぬかるんでいた。ただ不気味な静寂が辺りを覆っていた。
「これはひどいな」
「ああ、ここ一帯が瘴気で侵されてる。こんな様子は魔物たちの楽園で初めて見るな」
森の様子がいつもよりおかしいのはわかった。7人で来ているので僕、オババ、ガラルとリリィ、ゴン太、マム、ガオウで手分けして毒獣の住処と毒性のある実や花を採取することに決めたよ。
空を見上げても日の光は届かず、うす暗い森の木々に覆われていた。この探索は一筋縄に行かないと思い知らされたよ。
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