閑話 セレス視点 アニーの救出

 私は金色と銀色にコーティングされた木造と煉瓦で建てられた悪趣味なドレイクの屋敷に侵入することにしました。「魔封じの術が掛けられているかもしれないから最初に魔力を貯めておいた方がいいかもしれません。纏い術・帰してかえして・魔素吸収術!」


 魔素吸収術は纏い術の応用的技術で、妖精族が魔力の塊で魔素との親和性が高いからできる技です。魔細胞がないのにどこに魔力を貯めているのか気になりますか?教えてあげましょう!


 妖精族は別次元からの観測者という側面も持っているので、魔力を別次元に取り込んで貯めておくこともできるのです。これは妖精族が魔法を使わせると強いと認識されている理由です。まあ知らない方も多いのですが、ドレイクは知っていると仮定した方が良さそうです。


 これなら纏い術に使える魔力も貯めておけるから有利である。と思ったのですがこの屋敷の周辺には瘴気が混じっています。「これではあまり魔素を吸収できません。瘴気を取り込みすぎると妖精女王の体でもただではすみませんから……」


 魔素吸収術は全MPの3割増くらいに留めておきました。この判断が私を命取りにも救う事にもなるとはわからないものです……


 屋敷の敷地に入ると周囲の魔力から拒絶されていると感じました。「間違い無いですね。魔封じの術を屋敷の敷地内に張り巡らせています」私の肌にあたる部分がピリピリして嫌な感じがします。これは急いだ方が良さそうです。


「魔力感知は使えますね。アニーの魔力は……」見つけました。屋敷のダンスホールに当たる場所ですね…… 何かおかしいような…… 「今は急いでいるので考えているような時間はありませんね」事態は思ったより逼迫ひっぱくしているのかもしれない。


「アニーの魔力量も心許ない……」急いで屋敷の悪趣味な壁をすり抜けてダンスホールに向かいます。「んっ!!」壁をすり抜ける際に嫌な感じがしました。何かはわからないのでもう考えない事にします。


 屋敷の中を見ている余裕はありません。一気にダンスホールに向かいます。「使用人が1人もいない……」これは罠かもしれない、そう考えますがここで逃げ帰ればアニーを助けることがより難しくなる。


 「私は妖精女王。アニーを助けるためにはぐずぐずしてられない!」罠など押し通って企みを潰してみせる! 女は度胸! 昔トオルに教わった言葉です。この時は誰の言葉か思い出せませんでした。それがよくなかったのでしょう。


 昔のトオルはこうも言っていました。『急がば回れ、急いでいる時こそ慎重に行動して』と口酸っぱく言われていたのに……


 ダンスホールの扉の前に来ました。屋敷の主であるドレイクの顔が扉に彫られています。どこまで悪趣味なんですか、この屋敷は……私はしばらく絶句していました。するとギィィィィッッッと扉が軋んで1人でに開きます。


「この屋敷にようこそ。妖精女王のセレス様……そのようなところに飛んでいないでどうぞ、ダンスホールにお入りください」扉が開いた先の広いホールに1人で恰幅のいい、悪趣味な笑顔を浮かべた商人が腰掛けていた。この男は……扉に彫られている顔と同じ……


「これはこれは申し遅れました。奴隷商人のドレイクと申します。そんな所で黙って飛んでいないでこちらに来てください」ドレイクがパチンッと指を鳴らすと一


瞬で私は実体化し、ダンスホールの中に転移した。「何ですって!? なぜ私はこの中に転移して……」


「これはこれは美しい虹色の羽根、透き通るような白い肌、青空を反映したような空色の美しいドレス、長身のスタイルに目鼻立ちの整った顔、それに慎ましい胸。


うん、実にわたし好みですな。セレス様、率直に申し上げます。あなたが欲しい。アニーと貴方の身柄を交換しませんか?」ドレイクは太った顎を震わせながら、悪趣味な笑顔で信じられない一言を言いました。



「交渉は致しません。それに貴方は生理的に受け付けません。アニーを大人しく帰しなさい」私は凍るような冷たい声を出して返事をしました。この男の何もかもが生理的に無理です。私の愛する男はただ1人……だったのだけど、名前も顔も思い出せない……


「まあまあ、落ち着いてください。初めて会って間もないのですから。それにあなたは自分から私に身柄を差し出して、私のものにして欲しいと懇願するのですよ。アニーよりも私を愛して欲しいと泣き叫ぶのです」気持ち悪い、この男の顔も性格も汚い言葉の全てが嫌です。私は顔が初めて歪みました。


「まあ茶番はこれくらいでいいでしょう」ドレイクがパチンッとまた指を鳴らすと私の体はドレイクから2メートルほど前に転移させられました。ハッとする私は自分の居る場所が紋様の中心である事に気付きます。「まさかこれは……妖精封じの魔法陣!?」


「残念ですが違いますよ? 妖精封じの魔法陣はもうあなたにかかっています。私の奴隷である魔族のキアラが屋敷の壁を通り抜けたものにかかるように仕掛けましした」「そんな! あの違和感は妖精封じの魔法陣? 私たちを別次元に戻れなくする魔法陣をそんな場所に?」ドレイクは……なんて用意周到なんでしょうか。


「この床の魔法陣は何だって顔もしていますね。それはですね、集めた瘴気を対象に植え付けるための魔法陣ですよ……」「そんな……まさか……瘴気を操って相手の意思を反転させる術が使えるとでも!?」もはや目眩がしてきます。ここまでの罠が仕掛けられている屋敷はまるで妖精を捕まえるためのかごでは無いですか……


「その通りです!! あなたは焦って屋敷の部屋にある魔法陣のための触媒を確認して来なかった。まあ瘴気をその身に取り込んだ時点で焦燥感を植え付けられるように操られていたのはは可哀想ですがねえ、これであなたはおしまいですよ、キアラやりなさい」


 そんな、私が憎悪と怒りを感じるのさえ計算付くだったとは。今まで瘴気で視界を遮られて見えませんでしたが、森に来ていた残りの2人が姿を現しました。


「やれやれ、可哀想な女王様だぜ……まあこれもあいつとの契約のうちだからな。悪く思うな。起動! 瘴気術・黒、帰して・白・意思反転」魔法陣が起動する! その前に術者を倒す、いや違います。急がば回れ! 誤用かもしれませんが……差し違えてもドレイクを◯す!


「纏い術・妖気ようき!」妖気は魔気の極みの亜種です。おそらく妖精族にしか使えない纏い術で圧倒的な魔力を闘気のような物理的な鎧に一時的に変える纏い術。昔の愛しい彼が教えてくれたこの術で! 「ハァアアアア!妖気・一閃!」薙刀のように鋭い妖気でドレイクを◯す!


 指を鳴らす隙も与えず、妖気で作られた薙刀でまずドレイクの左手を消しとばす! そして返す刀で右手もぉぉぉぉ!! 「ぎゃああああああ!マリル、何をしている! 私を守れ!」「フッ、貴様なぞ、切り刻まれれば良いのだがな、しかし拙者にも契約がある。悪く思うな女王殿、刀気術・抜刀・一斬」


 マリルはスッと腰を落とすと、捉えきれない速さで抜刀術を展開し、妖気・一閃を打ち消す! 私の妖気と同等の強さで一閃を打ち消すとは! 侮れない……そしてまずい、そろそろ……「瘴気術が効いてくる頃だぜ?」ガァアアアアア!? 私のいや、俺の黒い感情が溢れだぢてぐるううううううう。


「帰して・白」そ、そんなあああ、あれほど憎いと思っていたドレイクが今は……そんなあああ、私が俺に消えていくううう……











『諦めるな。いつだって諦めなければ活路は見えてくる』この……声は……俺の、私の最愛のおおお、トオオオオル!! 『瘴気を一時的に自分のものにしろ。後は今の僕が助けてあげるから』トオル! いつだってトオルは正しかった。ここは……やるしかない! 女は度胸!!


「纏い術・瘴気・宵闇!!」私は一時的に拒否していた瘴気を受け入れました。その力は纏い術・妖気では同等だったマリルも……「そんな!? 此奴瘴気を自分のものにするとは!! しかも……強い……強すぎる!!」「あたいの瘴気術でも御しきれない……!!」2人を斬り捨てて、ドレイクに一瞬で向かう!


 妖精封じの術で封じられていた転移も今なら使える! ◯す!! ドレイクを◯すううう!!ドレイクの元に一瞬で移動し、宵闇の瘴気でできた薙刀でドレイクをおおおお斬る!!


「そこまでです、女王様」なぜかアニーがドレイクを庇うように出てくる。「アニー! 何をしているの! この男は今ここで!」私は苛立ちを隠せませんでした。なぜこの男をアニーが庇うのです!! 今斬らねば……危険です……この男を殺すうううううううう!!


「どうやら瘴気と同化したことで闇に飲まれているご様子。トオル様はなぜそのようなアドバイスを……」「トオルをおおおお、バカにするなあああああ!」「ここでドレイクを斬れば瘴気と同化しかねません。しかもこのままでは私も斬られかねませんね。はあ…。仕方ありません」


『纏い術・神気・闇払い』その一言は私を唖然とさせました。アニーが纏い術を……使っている……? しかも『神気』ですって?? 纏い術の中でも最上とされるものでは? 主神や神の使いしか使えないはずじゃ…… まさか……アニーは……神の……


「すみません。女王様、時間がありませんので瘴気を一時的にはらわせて頂きます」そう言ってアニーは神々しい気を纏い、刀気のようにして『瘴気』だけを斬った。


「はあ、やはりトオル様の『魔神気』には叶いませんね。瘴気の核だけはのこりましたか……まだ予定より早いのですが……今のトオル様を引き込んで浄化してもらいましょう」


「では女王様……この記憶は『改竄かいざん』させてもらいます。心魔法・記憶・改竄」私は消えゆく意識の中でアニーの言葉を聞いていた。最後の言葉に唖然としましたが……


「全ては女神『ビリオニア』様の召すままに……」アニーの大人びた笑顔に魅せられながら意識は沈んでいきました……


「ふう、これで終わり……いやまだ後ろの男の始末が残っていますね。まさか妖精の私の能力をコピーできるスキルを持っているとは……流石は女王様の古き友人の末裔といった所でしょうか」


 アニーはやれやれと言った顔でこの場にいた全員の記憶を『改竄』して、アニーの存在感に震えていたドレイクの意識を奪ってこの場からセレスを連れて妖精たちの庭園へ去った。















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