閑話 セレス視点 セレスはトオルの側にいたい。


 私はあれから三日後に目を覚ましました。「うぅ、ここはどこですか?」私は自分の居室のベッドに寝かされていることに気づきました。「コホッコホッ、何ですかこの掠れたおばあさんの声は……」隣にはアニーが心配そうな顔をして椅子に腰掛けていました。


「女王様、大丈夫ですか? 二日間寝たきりで目を覚まさなかったのですよ。どうぞお水をお飲みください」私は木のコップで水を飲もうとしましたが……水に映った自分の顔を見て「イヤァアアアアア、誰ですかこの老婆は!?」私はコップを落として、自分を抱きしめて震えました。


「女王様は瘴気を取り込ませる魔法陣を使われて、最後の力を振り絞ってドレイク達から何とか私を連れて逃げ出したのです……私がさらわれるようなことをして……本当に申し訳ないです……」アニーは涙を流して謝っていました。私は目線を落として俯くうつむばかりでした。


「私は貴方のことも人間たちも許せない。今は1人にしてください」自分の口から驚くほど冷たい声が出ました。アニーは驚いた顔をして、体を震わせるととぼとぼと部屋を去って行きました。


「なんでこんなことになってしまったの……」私の半身は瘴気に飲まれてヨボヨボの骨と皮だけの体となっていました。後ろ向きな感情にさいなまれ、アニーも人間たちも許すことができない……そんな気持ちでいっぱいでした。私は膝を抱えて掠れた声で泣き続けるのでした。


それから私は数日間、泣き続けて何も食べない状態でした。アニーはいつも様子を見にきて八つ当たりをする私を慰めてくれて、今思うと本当に助かりました。「アニーのことは許しても良いでしょう。しかし人間は……」


 瘴気の侵食は止まらず、ほぼ全身が老婆になっています。肌はやつれ、緑色のミントのような髪色は白髪になり、空色の自慢のドレスはボロボロになった黒いドレスに……虹色に輝いていた羽は漆黒の禍々しい黒色になりました。「もはやこれまでか……」


 そんな絶望を通り越して諦めの境地に入っている矢先にアニーがトオルたちを連れてきたのです。「人間とゴブリン族の気配がしますね、それもこちらに向かってくる……」ああ、ダメです。瘴気の影響もあるでしょうが、人間が憎い、にくい、ニクイ……


辛辣しんらつな態度をとって帰ってもらいましょう。どうせ助かる見込みもありませんし……」ブツブツと独り言を言っていると扉が開く音がしました。私は背を向けたままこう言いました。


「人間ですか。アニーが連れてきたということは信用はできるのでしょうが、私個人としては信用も信頼もできないといった気持ちですね。どうしてここにきたのですか?」私の声は掠れていましたが、冷酷で思いやりのない言葉でした。


 ゴブリン族の2人が憤慨する中、人間は優しい言葉でこう言ったのです。「リリィお姉ちゃん、ゴン太師匠、良いんだ。きっと女王様にも事情があるんだ。女王様、まずはお名前を教えてくださいませんか?」その言葉に声色にハッとして私は後ろを振り向きました。


 そこからは最初に申し上げた通りでした。その人間はかつて愛し、その生涯に寄り添った愛しいトオルだったのです。しかしこうも思ったのです。『私の知っている昔の若いトオルと今のトオルは瓜二つうりふたつでそっくりです。だけどその中身は同じなのか?』


 これはトオルを監視して、昔のトオルと今のトオルはどう違うのか、見守る必要があると考えました。『それにしても何か他に気になることがあるような……』ドレイクの屋敷で戦った時に昔のトオルの声を聞いた気がするのは気のせいでしょうか?


 話を戻しましょう。私の意思が戻ってきた時にはトオルはもう「魔聖気」を発動させる直前でした。『昔のトオルを思い出しますね』ふらつく体をリリィとゴン太に支えてもらいながら昔を懐かしんでいるとトオルは白に近い水色のオーラを発動しました。


 私は懐かしさのある水色のオーラをみて涙ぐみそうになります。『ああ、このオーラは昔も今も変わらない……』それでも私は昔のトオルの記憶があることを隠さなければいけない……


 取り繕うように驚いたふりをして感想を言います。しかしただの「魔聖気」では瘴気の核は浄化できないことは経験則でわかっています。正確には浄化は出来るのですが、時間がかかりすぎてお互いに負担がかかりすぎて持たないのです。


『今のトオルはまだステータスが低いのでしょう、やはり私の命はこれまでか……』私が苦悶くもんの声を漏らすとトオルは何かを思案する顔になりました。


 この顔のトオルは突拍子もないことをしでかします。私は今のトオルにも惹かれていく自分を感じました。『この顔のトオルは信頼できます。人間は嫌でも昔のトオルだけでなく今のトオルも信頼しても良いかもしれません。』


 トオルが覚悟を決めた顔をすると魔力量が一気に増大しました! 何をしたのです!? 昔のトオルにはないMP増加のスキルでも持っているのでしょうか? 私は戸惑いながらも魔聖気が強くなっていくのを感じます。『ああ、幸せな気持ちになります……』


 トオルが叫びました!「『魔聖気・改』!! 全ての瘴気を浄化しろ!!」これはすごい! 私の瘴気の核だけでなく、妖精たちの庭園全体に広がって、中にいる妖精や結界も浄化して行きます。『昔のトオルは『魔神気』というオーラをつかっていましたがそれに近いものです』思考を重ねていると……


『キャッ!』心の中で幼子のような声を出してしまいました! 突然、トオルが抱きついてきたのです! な、なんで! もしかして私と過ごした記憶がトオルにもあるの!? しかし当の本人もちょっと不思議そうな顔をしています。恐らく本能的に察している部分があるのでしょう。


『し、幸せですううう』顔は自然とニヤけていました。そしてある事に気づきました。私は過去の幸せな記憶に浸っていて、今のトオルを見ていなかった。過去に囚われていては幸せはいつまで経ってもこないです。


『もしかしたらミリア様も同じかもしれない』あの方はトオルと幸せな生涯を何回も過ごしていますが、最初に出会ったトオルを忘れられないのでしょう。でなければ毎回同じ顔で背丈まで一緒にする必要はありません。


『もしかしたら今のトオルならミリア様も救ってくださるかもしれない』おぼろげにそう思いながら、私は今のトオルとの抱擁ほうようを楽しみました。ああ、この瞬間がいつまでも続けば良いのに…… 永遠にも似たこの瞬間を強く感じながら、私は完全に浄化されました……


 その後私は少し前の姿を取り戻しました。『うん、この姿ならトオルにもガッカリされません!』内心でガッツポーズしているとトオルは顔を赤くして、無言でぼーっと見つめているではありませんか!


 し、仕方ありませんね、これはキス待ちの顔というやつでしょう。私がお姉さんらしくキスしてあげましょう。すこしモジモジしてしまいましたが、お姉さんらしく抱擁してから、頬に手を添えて唇にキスをしました。


 隣でリリィがわなわなと震えていましたが、知りません!トオルが可愛すぎるのがいけないんです!トオルは目を瞑ってキスを感じていました。今はこれで良いでしょう。トオルが育ったところを美味しくいただくのが楽しみです!














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