第20話 宴の準備だよね。


「うう、頭が痛いよ……」僕はセレスとの甘美かんびなキスを楽しんだ後、少しの間気を失っていたようだよ。セレスの居室のベッドに寝かされていたようだ。何か甘酸っぱい良い香りが僕の鼻腔びくうをくすぐる。隣には……


「トオルの若々しい香りがたまらない……フヒ」「ううううーん、トオル君の隣は僕ちゃんの場所だって言うのに……あんな長いキスまでしちゃって……僕ちゃんだってまだ口と口のキスをしてないのに……グスン」


 どうやらセレスとリリィに挟まれて寝ていたようだ。というかセレスの寝言が怖いよ?? 若々しい香りってなんだ? 僕のおっさん臭い匂いでも知ってるのか? リリィは確かに唇でのキスをしてないけど色々とアウトなことしてるよね?


 2人に心の中でツッコミを入れていると先にセレスが目を覚ました。「ふわ〜〜トオルの寝顔がこんなにも近くに……ってあれ? 目を覚ましていたのですか? 先程浄化を終えられてから、倒れてしまったのですよ」「そうだったんだ。確かに頭痛がひどい気がするよ」


「ふわートオルの安心する匂い……僕ちゃんが今のうちにトオル君の君くんをーーって起きてるじゃん!? ト、トオル君は今日も可愛いなーーヒューヒュー」「起きていきなり、リリィお姉ちゃんは何しようとしてるのかな?」「ヒューヒュー」


「リリィはもう少し口笛の練習からしましょうね。それよりもこれから宴の準備をしますよ!」トオルは今日の主役なのでもう少し寝ていても良いですよ? と言われたが、色々と作りたい料理があるので参加させてもらうことにしたよ。


「お、トオル起きたんだな! いっぺん廊下に出てみろ?」 まずベッドから起きてびっくりしたのは城が物凄く大きくなっていて部屋数が増えていることだよ! 入ってきた時には一部屋しかないのに違和感しか感じなかったんだ。


「妖精たちの庭園は私の魔力の状態によって建物や景色が大きく変わりますからね。それよりも外もものすごく変わっていますよ! 見に行きましょう!」「トオル君が起きてから見るって決めてたんだよ!早く行こう!」「トオル、両手に花だべな……オラに春はいつ来るだべ……?」


 ゴン太の嘆きは笑顔で2人にスルーされ、僕はセレスとリリィに手を取られて城の外に出た。初めて入ってきた時も驚かされたがこれは……!! 「前は黄昏たそがれ時の空色でしたが、あれは瘴気の影響もあっての色でした。今は完全な夜空に、虹色のオーロラが一面に広がっていますよ!」


「蝶の鱗粉のような輝きもまた虹みたいに色々な色が増えているね! 僕ちゃんはゴブリン族だからやっぱり緑色の輝きが落ち着くなぁ……」


「今回はキノコだけじゃないだ! 様々な植物の花や葉っぱが咲き乱れてるだ! 白や赤色の花だけじゃなくて淡いピンクの花も咲いてるだ!キラキラと光る葉っぱも綺麗だなぁ」


「前回は妖精たちの元気がなかったけど……今回はものすごい数の妖精たちが元気そうに飛んでるね!」そうしていると、妖精たちに囲まれてしまった。あれ、アニーもいるじゃん。何かモジモジしているのでこちらから話しかけてみるよ。


「みんなこんばんは。アニーもみんなもどうしたの?」「あのね、その私が不甲斐ないせいでトオルに迷惑かけちゃったでしょ? それでみんなに何かトオルに返せないか、聞いてみたら……」「アニー、ここは感謝のチューだよ!!」「チューチュー!!」


「あらあらアニーもみんなもオマセさんねえ。でもあれは簡単にしちゃダメなのよ。」「えー女王様はしていましたよ? アニーもしたいなぁ……」


「ダメです。キスというのは愛する者にするものなのです!」「じゃあ、私もトオルが好きだから、愛してるもん!」「ダメです!」なぜか口論になってセレスとアニーは睨み合ってるなぁ。「まあまあ2人ともそこまでだって。宴の準備するんでしょ?」


 この場の妖精たちやアニーは納得のいっていない表情だったけど何とか従ってくれたよ。アニーだけは本気で落ち込んだ表情だったけど……僕の事をそこまで気にいる要素はあったかな?後で2人きりになったら聞いてみよう。





 そろそろ宴の準備をしなきゃね! まず土属性が得意な妖精たちがパン窯と鍋を火にかけるための釜戸を作ってくれたよ! あれパン窯と釜戸に燃料を投下するところがない? しかもパン窯と釜戸に火をつけるための木材を譲ってもらおうと思ったんだけど……そんなものはないってどういうこと??


「トオル、あのねーー妖精は魔法の扱いが得意だから、火の維持に何かを燃やす必要はないのーー」まだ幼めの妖精が教えてくれた。原理の説明は聞き取るのに難しかったが、燃料に魔力を直接利用するらしい。ガスコンロならぬ魔力コンロだな。


「それはすごい! その魔法の使い方を教えてほしいな!」魔力制御や魔力量に不安がある人は使えないだろうが今の僕にはそんなことは関係ない!なぜか、魔力制御や量がものすごく上がった気がするのだよ、ハッハッハッハ! 後でステータスを確認しよう。


 魔力コンロの魔法の原理を教えてもらい、使ってみることに。イメージはガスコンロと一緒だったよ。ガスの代わりに魔力を通すチューブを使い、そのまま魔力で燃える火を想像して使う。僕は魔力結晶があれば自分で魔力を注入しなくても半自動でできるのではないかと思い付いたよ。


 魔力結晶は妖精たちの庭園の特産物らしいね。生育環境がよく、放っておいても勝手に生えてくるらしい。何か儲け話の種になる気がするな。「トオル君、目がお金になってるよ」おっといけない、いけない。僕は正気に戻ったよ。


 そもそも魔力結晶とはどんな効果を持っていたっけ? すると神様ノートを見る前にセレスが教えてくれたよ。


「魔力結晶とは、魔力を蓄える能力があり、魔法陣などで魔力の方向性を決めると一定の魔力を放出する働きもあります」なるほどなぁ、って魔法陣か!? セスを呼んでこなければ!! って思ったんだけどさ……


「魔法陣がなくても万物に指示する魔法言語がありますよ? それか『魔言』スキルでもレベルが高ければできるはずですよ?」えっ!? そんな便利な言語があるの? 「魔言」スキルでも良いなら今からでもできそうだけどレベルはそんなにだな……


「今回は私がやってあげますよ!『集合的無意識より我は君に指示する。魔力を我の意志のままに放出しろ』」すると魔力結晶から一定の魔力が放出され始めた。これはすごいけど多分僕しか理解できてない……リリィはなんて言ったの?って顔してるよ。


 とりあえず魔力コンロの改良は置いておいて料理をすることにしたよ。今日作るのは白パンとパスタだよ! まずオーラン村の小麦が大量に備蓄されていたのでそこから錬金術で白い小麦を抽出する。


 ちなみにイタズラレベルとは言え、勝手に小麦を取ってきた事をセレスは厳しく怒っていたよ。自分のために取ってきたとはいえ、人様が頑張って育てたものを何の対価もなく頂くなんて最低です! とアニーや他の妖精たちに叱りつけていた。


「後で取った小麦を全て返しに行くか、対価を渡して小麦を少し貰えるように謝るかどちらか選びなさい!」アニーと他の妖精たちは後者を選んでいたよ。本当にごめんなさいといつも爛漫らんまんとしている妖精たちにしてはしおらしい感じだった。


「全くしょうがないわね、後でオーラン村のみんなにも謝ってね?」「オーラン村のみんなが許すなら言うことはないだ」リリィお姉ちゃんとゴン太師匠は許すようだったよ。


 さあ白パン作りに移ろう! パスタの生地も並行して作らないとね!

















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