第19話 妖精女王の浄化だよね。


 僕たちはいたずらをする妖精たちをこらしめるはずだったが、いつの間にか瘴気に飲まれていた妖精の少女と戦い、瘴気を浄化したのだった。


 その後、妖精の少女アニーと和解し、妖精女王様の容態を見て欲しいと頼まれて、それを引き受けることにしたんだ。


 トオルとリリィ、ゴン太は妖精の少女アニーと他の妖精に連れられて、森の奥深くに隠された妖精たちの庭園へと向かっていた。


 なんの変哲もない寂れた森の中の木の一本の前に連れて来られる。「ここが庭園なの?普通の木だと思うんだけど……」「オラも違いがわからねえだ。なんでここに連れてこられただ?」リリィとゴン太は首を傾げているよ。


 僕は顕微眼を持っているからすぐに違いがわかったよ。「アニーと似たような魔力で作られた入り口が見えるね。でもちょっと瘴気が混ざってるし、入り口が不安定な気がするよ。これって大丈夫なの?」


「トオルって魔力が見える魔眼持ちなの? 妖精たちでも感覚でしかわからないのに…… 瘴気が混ざってるのは女王様が私と同じように瘴気に犯されているからだと思うわ。魔力も減っているから、庭園を守る結界にも影響が出ているのね。」


 妖精女王の庭園には、妖精が狙われたり、攫われたりしないように普通には見えない結界が張られているようだね。ただその結界も女王の体に影響が出て、綻びが出てるようだ。早く女王の容態を見ないとね。

 

 アニーが口元で何かを呟くと、木の中に祠ができる。その入り口を通ると荘厳な世界が広がっていたよ! 「すごいわ!! 空の色は夕焼けと夜空が混じった黄昏の色をしていて、空気には蝶の鱗粉のようなキラキラとした粉が舞っているわ!」リリィは目をキラキラとさせているね。


「ここは伝説の通りだ! 地面には青色や空色のキノコが生えていて、遠くには湖とそこに浮かぶ木の根と石造りの大きな城が天空に浮かんでいるだ!!」ゴン太が興奮して叫んでいるよ。


「すごいね、其処彼処そこかしこを色とりどりの羽をした妖精たちが空中に浮かんでる! あれ、でもみんな元気があまりないね……」僕は妖精たちの元気があまりないことを悲しんだ。結界に瘴気が混ざっていることが原因かもね。


「そうなのよ、女王様があの人間に陥れられてから、庭園の空気がおかしくなったの。みんな元気がないから外に出る子も多くてね……」アニーも悲しそうに語る。


 そうか!オーラン村に妖精たちが来ていたのも住処にいるのが嫌で女王様のためになんとかしようとした結果かもしれない。


 僕たちは妖精女王様のいる城に向かったよ。妖精たちも元気がないからか、1回もいたずらをされずに城についた。「なんか緊張してきたよ。僕は礼儀作法に疎いからさ。」「そんなの僕ちゃんも知らないわよ。」「オラもだ。」「大丈夫よ。女王様はそういうの気にしないわ。」


 城の入り口を抜けると、廊下がずらっと並んでいて、部屋もいっぱいで、その一つに謁見の間があるイメージだったのだが、中には部屋が一つあるだけだった。


 その部屋に入るとまず目に入ったのは黒い瘴気が部屋中に漂っている様子だった。その瘴気の発生源の元を辿ると黒色の澱んだ羽を生やした老婆のような歳を取った女性がベッドに寝かされている。「この方が妖精女王よ……」アニーは俯いて手を握りしめて辛そうな様子だ。


「人間ですか。アニーが連れてきたということは信用はできるのでしょうが、私個人としては信用も信頼もできないといった気持ちですね。どうしてここにきたのですか。」掠れた声で話す妖精女王は人族の僕に辛辣な様子だった。きっと辛い目にあったんだろうね。


「ちょっと! あなたの容態を見るためにトオル君はここにきたのよ!」「そうだ! 妖精女王だかなんだか知らねえが客人に対して随分な態度だなぁ!」「リリィお姉ちゃん、ゴン太師匠、良いんだ。きっと女王様にも事情があるんだ。女王様、まずはお名前を教えてくださいませんか?」


「つっ!? ゴホン、私の名前はセレスです」女王様は少し驚いた顔をした後、ゴホンと咳をして名前を教えてくれたよ。


「トオル、リリィ、ゴン太。私から謝るわ。女王様は人間に攫われた間抜けな私を救ってくれたばかりにこんな御姿になってしまったの…… 前はもっと明るくて、美しい女王様だったのだけど……」


 アニーが事情を話してくれたよ。まず妖精のアニーが奴隷商人によって人間に連れ去られた。妖精たちの庭園の場所を探る人間たちがいたらしいね。懲らしめようとしたアニーが返り討ちにあい、捕まってしまったらしいね。


 そこからセレスが話してくれたよ。妖精は元々人間のペットやコレクションとして人気があるため捕まると悲惨な目に遭うことが多い。最近もアニーが攫われて、妖精女王が人族の貴族の屋敷に乗り込んだのだが、それは罠だった。


 攫われたアニーは助け出したものの、瘴気を操る術によって魔力の塊である体を瘴気に蝕まれ、意思の自由まで奪われそうになったらしいよ。隙をついて逃げ出してきたらしい。


「まさか人間が瘴気を操る術を開発しているとは…… 私の体はもう限界です。瘴気に支配された怪物になる前に私を殺してください。」セレスはやつれた表情を浮かべる。


「セレス様、大丈夫です。僕があなたを助けます。」「女王様! トオルはすごいんだから! 私の瘴気もトオルが水色のオーラで消してくれたの!!」僕の言葉の後にアニーが興奮した様子で言葉を続ける。「トオル君に任せればそんなの楽勝よ!」「トオルの魔気はすごいんだべ!」


「そんな……? 魔気で瘴気が消せるはずがないのに……?」半信半疑のセレス様を落ち着かせて、少しの間だけ立ってもらう。魔気は体に纏うことで発動するためベッドに寝かされている女王様を包み込むのはそ、添い寝くらいしかできないの……


 セレスはリリィとゴン太に支えられて何とか立っている。アニーはふわふわ浮かびながら祈るように手を組んで目をつぶっている。早く助けないと…… 僕は集中してまず顕微眼を発動する。セレスは体のほとんどが瘴気に犯されていたよ。顕微眼で見ると人間でいう心臓に当たる場所が瘴気の核になっているようだった。


「ふーっ。『魔聖気』!!」僕は深呼吸した後、白に近い水色のオーラでセレスを包み込んだ。「これはっ!! 体が浄化されていく……?」オーラは支えているリリィとゴン太も包み込んでいた。


「すごい…… 体の悪いところが癒やされていくわ」「これは生命魔法に似たものであるだぁ」ゴン太師匠が気になる事を言っているが今はスルーする。


「つっ…… 体の中心が…… 痛い……」瘴気も浄化されるわけにはいかないと抵抗しているようだ。ダメだな、このままの魔聖気の出力では瘴気は浄化できるだろうがセレスに負担がかかりすぎるよ。もっとMPがあれば……


 そんな時にセスと会話していた内容を思い出す。魔細胞を錬菌術で強化すればMPを増やせるといった内容だったはずだ。ぶっつけ本番だがここでやってみよう! 


 自分自身に顕微眼を向け、魔細胞があることを確認する。うん、しっかりあるな。対象の把握をして、錬菌術を並行して発動する。「錬菌術発動。対象は自分自身の魔細胞!」


 すぐに体中から魔力が溢れてくるよ、ただ脳が焼き切れそうなくらい痛む。多分魔聖気と錬菌術の併用で負荷がすごいんだ。ただ体の方はすこぶる調子がいいのはなぜだろう。


「すごい! トオルに空気中の魔素が集まっていくわ!!」アニーが叫んでいるな。僕の体は青白く発光していた。今のMP量ならいける! 僕は有り余る魔力を魔聖気に注ぎ込んで叫んだ!


「『魔聖気・改』!! 全ての瘴気を浄化しろ!!」僕は全ての魔力をオーラに注ぎ込んだよ。そしてなぜか勢い余ってセレスの体を正面から抱きしめてしまったよ、誰も気づいてないよね?


「トオルのオーラが完全な純白になってる!」「オーラが妖精たちの庭園全体に広がっていくだ!」「なんて優しいオーラなの……」


 僕の魔聖気は庭園全体を包み込み、疲れていた妖精たちの体を癒し、微弱な瘴気も浄化したみたいだね。庭園の結界の瘴気も浄化して、結界の綻びまで修繕したみたいだ。


 「もう大丈夫、セレス様も庭園も浄化できたよ。」僕の言葉の後、セレスに変化が起きたよ。セレスの黒い羽根がキラキラと輝く虹色の羽根に変化していく。老婆のような見た目だったのが、20代くらいの透き通るような肌の白色の長身の美女に変わっていった。サファイアのような青い目が綺麗だな。


 胸のサイズはBくらいだな。水色のドレスを着こなしていて、スレンダーでとても綺麗だ…… 僕は抱きしめていた体を離して至近距離でじっと見つめていたよ。


「わ、私をそんなに見つめられると、こ、困るのですが……」頬を赤らめて恥じらう表情は可憐だ。無言で見つめているとセレスはモジモジしながら、僕に擦り寄ってきた。


 そして僕を抱きしめた後、ありがとう、これは感謝の気持ちです、と言って僕の頬にそっと手を添えてキスをしてくれたんだ。これは妖精たちの伝承で語られることになる、僕と妖精女王セレスの馴れ初めだった。













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