第30話 マムのトラウマと解呪だよね。

第30話 マムのトラウマとマムの解呪


「んん……ここは……どこじゃ」

「マム様、マム様、目を覚ましたのですか!! ガオウ様を呼ぶんだ!」

何故か、いつもよりマムは自分の声が高い気がした。それに何か大切なものを失った気がする。それはなんじゃ……? と考えているとガオウが息を切らしてマムの休む部屋に入ってきた。


「ああ……マムよ、そんな幼い体になってしまって……これからどうすればいいんだ」

「マム様……俺たちがふがいないせいで……」


ああ、そうだ。マムは思い出してしまった。自らの誇り高い肉体と気高い精神を汚されてしまったのだ。


「妾は……わらわはああああ……ううっわああああん……」

マムは涙をこらえきれなかった。子供のように泣きじゃくる自分の心にもショックを覚えた。彼女の誇りは汚されてしまったのだ。


それを黙って見つめていたガオウも涙が止まらなかった。

「マムよ、わが娘よ……やはり俺が行けばよかったんだ……」

「ガオウ様、マム様……」

「俺たちのせいで……」


その後はマムは屋敷に数日間引きこもったままだった。だがガオウに狩りでも行って来いと言われて久しぶりに家を出た。


その時に村人から受けた視線にマムはショックを受けた。それは同情と奇異の目線だった。同情はまだわかる。だが妾の姿はそんなに変か、村人を守るために死闘を繰り広げ、呪いを受けたというのに……


「ああ、マム様が見たこともない幼い姿に……」

「痛ましくて見ていられないぞ」

「あんな姿、オーガ族にふさわしくないわ」


ひどいように思えるが、オーガ族は元々160センチはあろうかという成体で生まれてくるため、オーガ族の幼い体を知らないのだ。それが尊敬していたマムがそうなってしまったというのが受け入れられなかったのだ。心の防衛反応とも呼べるかもしれない。


「こら、お前たち! なんだその言い草は! マム様はふがいない俺たちを守るために戦ってくださったのだぞ!」


「ああ、またマム様の親衛隊が来たわ」

「こわいこわい」

「家に戻りましょう」


こうして、マムと一緒に戦った4人の村人とほかの村人たちに亀裂が生まれた。だがほかの村人たちにはランドロス村から漏れ出た瘴気の影響もあったとだけ言っておこう。


狩りに行っても、マムは前のように一発で鹿をしとめる膂力を失っていた。マムが本気の力を出しても以前のように大弓を引けないのだ。それが余計マムの心を打ちのめした。


ガオウとマムの関係は変わらないものだったが、ほかの村人との関係は悪化してそれ以降変わらなかった。ガオウすらもどうすればいいかわからないほど村の空気は悪くなっていった。




トオル視点に戻ります。


「マム……過去にこんな事が……」

「トオルよ、妾の過去を見たのか? 答えてくれ!! 妾をあの時助けてくれたのはトオル……なのか……?」


「それは……わからないよ」

今の錬菌術では過去に戻るなんてできない、だがトオルは思い出す。スキルは進化する可能性があることを。ミリアは錬菌術はレベル5でマックスだと言っていたがこれから進化する可能性がある。トオルはその事実を重く受け止めるのであった。


それに「お母さま」というのは何だろう……また謎が一つ出てしまった。


マムの記憶からは興味深いスキルの使い方があった。そもそもどうしてマムの記憶が読み取れたのかがわからないがマムを一時的に強化して瘴気の影響に負けないようにするというのはよい使い方だと思った。


瘴気を浄化する菌を作れるのではないかとトオルは考えてつく。

「マム、ちょっと待ってて」

自分の手に「魔聖気」を纏い、錬菌術を発動させると……

「菌核! 魔聖気菌!」

青白い「魔聖気」を帯びた白い靄のようなものができた。これならば、僕が時間がかかり繊細な脳の核を浄化しているうちに心臓の核を浄化できるのではないかと思った。


セレスの時のように「魔聖気」で一気に浄化してしまえばいいのではないかと思う方もいると思うが今回は核が二個あり、どうしても一遍に浄化しようと思ってもタイムラグが生じる。


それはマムにとっては致命的になり、片方の核が一気に細胞を若返らせてしまう恐れがあるのだ。だから今回は同時に同じタイミングで二面作戦を仕掛ける必要があるのだ。


マムに作戦を伝えるとトオルに身を寄せてきてこう言ってきた。

「妾は……誇りを取り戻したい、トオルには負担をかけるが頼めるかの……?」

上目遣いで涙を潤ませたマムはたまらなく、魅力的に見えた。


トオルは心配させまいとにっこりと笑って、マムを抱きしめる。

「安心して、すぐに解呪するからね、お姫様?」

「――な、なにを言うのじゃ! 急に変な扱いをするでない!」


顔を赤くして、アワアワしているマムを満足気に見てトオルはこの愛しいマムの誇りを取り戻そうと心に誓った。


「マム、そろそろやるよ」

「う、うむ。トオルに任せるのじゃ」


森の中で悪いが、少しだけ広場になっていてお花畑が広がっている場所にマムに横になってもらう。


そして、最初にマムの体が解呪の負担に耐えられるようにマムの細胞を一時的に強化する。


「これは……やはりあの時の……」

マムが独り言をつぶやいているうちに顕微眼と魔聖気を発動し、魔聖気を帯びた瘴気を浄化する菌を作り出していく。


「行くよ!」

マムの心臓の上あたりに左手を添え、頭に右手を添える。左手から「魔聖気菌」と呼ぶべき菌を、右手に魔聖気を発動させて顕微眼で様子を探っていく。


「これは心地よいの……ウグッ」

どうやらマムの呪いも防衛本能で活動を始めたようだ。だが細胞の強化によって今のところは細胞が若返る様子はない。


脳の核の様子から見ていこう。どうやら核は脳幹に根を下ろしているようでそこから脳内のいろいろな機関に影響を及ぼしているようだ。ここは慎重に行った方がいいと判断したトオルは周りの網目のような末端の呪いから浄化していく。


心臓の方はどうだろう。トオルの命を受けた「魔聖気菌」は心臓にまとわりつく呪いを表面から浄化していく。しかし、心臓自体が呪いの核となっているようだ。こちらも時間がかかりそうだ。


少しだけだが、マムの手足が縮んできた。

「ううっ、トオル……」

トオルの鼻から血も出てきた。これはまずい、このままではマムの解呪の前に呪いがマムを細胞核まで戻してしまうかもしれない。そして負担がトオルにもかかり、共倒れになってしまうだろう。


まずい、こんな時に頼みのミリアが念話に出ない。さっきから呼びかけているのだが、ダメだ。


ここはどうする……そうだ! 自分の細胞を強化して出力を強化するしかない。自分自身に錬菌術をかければ!


「ううっーー錬菌術!」 

自分に錬菌術をかけた! 出力が増えた! もうどんな副作用が来るのかはわからないがやるしかない。時間との勝負だ! マムの脳と心臓の解呪を進めていく!



『ふふっ、順調に錬菌術のレベルを上げているようね』

頭の中でミリアの声が聞こえた気がしたが、今は構っていられる時間はない!


「魔聖気・改弐!! マムの呪いをすべて浄化しろ!」

トオルの鼻からだらだらと血が流れていた。なぜか、自分の手足が少し縮んだ気がした! それでもいい! マムを救うんだ!


マムの脳と心臓の呪いが浄化されていく。体中に広がっていた呪いの網目が消えていく。そしてマムの体がまばゆく光ると大柄な女性の体に戻っていく。


だが、トオルの体がどんどん縮んで若返っていく。このままでは赤ん坊の姿にまで戻っていくだろう。


トオルの脳内では狂気的に喜ぶミリアの姿が浮かんでいる気がした。

『これで本当に赤ちゃんプレイが、いや本物のトオルの赤ちゃんを甘やかすことができるわ!! 私の思惑通り!』


何を言っているか理解できなかったが、ミリアよりもマムに甘やかされた方がうれしい気がしたよ。


『そんなことはさせないわ』

『誰っ!? この念話に入り込むなんて!』

『あなたが忘れた存在よ。ビリオニアとでも名乗っておきましょうか』

『ビリオニア……? いやまさか……!!』

『そのまさかよ。全く私の記憶の一部を引き継いでいるからといって勝手なことをして。トオルは赤ちゃんにさせませんよ』


『ぐぬぬうう』

『トオル、細胞を強化するということは細胞に若返りさせるということなのよ。たまたまマムの場合は老化を細胞にかけていたから助かったものの……』

トオルはおぼろげな意識の中でその言葉を聞いていた。そうだったんだ……あとでマムにお母さんに謝らなきゃ……なぜか、マムのことをお母さん呼びしていたんだ。


『フフフ、やっぱり記憶は忘れても魂は覚えているのね』

『ビリオニア、一体どうして、私の邪魔をするの!』

『あなたが狂気に狂っているからよ、その経緯はどうであれ……』

『経緯……? 何のこと……?』


ビリオニアは今は知らなくていいことよ、と言って、今はこれくらいしかできないけどと言ってトオルの若返りを止めた。


『さあ、心配したお仲間が木々の隙間から見守ってるわよ。そろそろ起きなさい』

そういわれると急に意識が覚醒していく気がした。


『愛しているわよ、たらたらし君、誰よりもね』

『何を言ってるの! 今は実体すらないくせに!!』


二人の女性が言い争う声を目覚ましに僕の意識は覚醒したよ。











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