第12話 錬菌術の真理を見せてあげたわよ。


 オババが風邪薬を作ってくれた。ゼリー状の青白い薬は見た目はあまり良くないが味はどうなのだろうか。そうね〜とオババが言うには味もそこまで悪くないそうだ。


 薬草は苦いが、回復キノコのキノコ本来の旨みとスライムゼリーの自然な甘さがあって子供でも嫌がらない味になるのだそうだ。


 そう言えば、山菜が食べたくて仕方がないことを思い出した。主に自分の健康のためにだけどね。オババに食べられる山菜はないかと聞いてみるよ。しかし山菜と言っても通用しなかったため、山に生えてる食べられる野菜のようなものだと言ってみたよ。


「ああ〜! あれね〜! あるわよ。私も肌艶が良くなるから食べてるの〜〜!」


 今まで食べられる野草だと思って採取していたらしい。獣とかが食べてるから自分たちも食べれるだろうと腹を括って食べると意外とおいしかったみたいだ。


 山菜って名前は良いわね〜と言って、山菜、サンサイ、3歳〜 と良くわからない韻を踏んでいた。3回繰り返したのは3にかけているのだろうか?


 リリィお姉ちゃんが興奮した様子で山菜に食い付いた。


「肌艶が良くなるってどう言うことよ、オババ!! ずるい!! 僕ちゃんも食べたい!!」


 山菜はビタミン豊富だから、確かに肌艶は良くなるだろうな、と思いつつも即効性はないだろう、と思ってリリィお姉ちゃんをたしなめる。


「リリィお姉ちゃん。山菜は体に良い成分がいっぱい入ってるから、体に良いんだ。でもすぐに肌艶が良くなるわけじゃないけどね。」


「あら、トオル君も山菜食べたことあるの? あれ美味しいわよね。でも山菜にはいろんな種類があるけれど、すぐに肌艶良くなるわよ??」


 山菜はおばあちゃんの家が、山の近くで山菜を採りにいって食べたことがある。でも肌艶がすぐ良くなるって僕の知ってる山菜と違うよ?


 何でだろう。異世界の山菜は、地球の山菜と一味も二味も違うと言うことか! せっかくなので風邪薬は保存できるガラス瓶に詰めて、山菜を見てみることにした。


「ほらこれよ〜 タラノメとフキノトウとウドよ。よく採るのはこの3種類ね〜」


 地球の山菜と名前がカタカナになっただけで変わらないな。うーん、おばあちゃんの家で採っていた山菜とも違わないように見えるが…… 何か細胞レベルで違うのかな?? でもそれが見えたところで意味がないような気がするな。だって僕は地球の山菜を顕微鏡で見たこともないし……


 頼みの神様ノートにもそんな情報は無いと書かれている。だが最後に赤字で僕のステータスを見よ!! と強調して書かれていた。何だろうとステータス欄を眺めると錬菌術の所だけレベル2となっていた。さっきの回復キノコへ菌革をしたのがきっかけでレベルアップしたようだ。


 どれどれ何ができるようになったんだろう。錬菌術 レベル2の詳しい解説を見ると……


 錬菌術 レベル2


 顕微眼 細菌や細胞膜のレベルまで生物や物体を細かくみることができる。

     生物や物体をX線を通してレントゲンのようにみることも可能。

 

 うーん…… 地味だ。この能力の1個目は生物や物体を顕微鏡で見るレベルで観察できるらしい。2個目はお医者さんが見たら血涙を流して喜びそうなくらい有用だ。


 後で人体の健康な状態の各部位のレントゲン写真を神様ノートで貰っておこう。待てよ、魔物って人体と構造って一緒なのか?? 解剖すれば情報は取れるが、グロくて僕には無理だ…… やっぱりダメじゃん。


 そもそも錬菌術とは何だったっけ、細⚪︎を作る能力と書いてあった。僕は細菌を作る能力だと思ったが、真菌も作りだせた。つまり最初の結論はおかしいな。真菌は細胞核を持つ多細胞生物だったはずだ。ここから推測すると……


 細胞だ!!今更気づいたよ。僕は酵母を作り出した時点で細胞核を持った多細胞生物を作り出していたんだ。菌を作る条件は、その菌の姿形を知ってないと作れない、当時は菌だと思ってたけど違うよ!! 細胞の姿形をみることが条件だったんだ。


 顕微眼はそれを可能にする。2個目の能力によって細胞の構造まで知ることができる。僕は恐ろしいことに気づいた。このスキルは生命を創造する能力だ。植物や動物、人族や多種族、魔物までも想像することができるだろう。僕が生命倫理を守らなければ死人まで新しく創造することができる。


 疑問が一つ、ミリアお姉ちゃん、いやあの女神はなぜそんな神をも超える能力を僕に授けたんだ? あの女神はポンコツで考えなしなのか? 何を考えているのかわからない、解らない、ワカラナイ。


 突然、無表情になったと思ったら、ガタガタと震え出すトオルの異常に気づいてリリィとオババが僕に駆け寄り、抱きしめて何かを言っているが、何も聞こえない。


 僕はこの力が怖い、こわい、コワイ。答えてくれよ、女神ぃ。答えろおおおおおおお!!


『やっとそのことに気づいたのね。トオル君。女神、だなんて他人行儀になったものね。お姉ちゃん、寂しいわ。』


『なんで喜ばないの?生命を創造する能力。何でもできるわよ。世界を創造することもできる。世界征服も容易いわ。あなたは神になれる能力を手に入れたのよ?』


『何でもすれば良いじゃない?? 私はトオル君に喜んでもらいたくてそのスキルを上げたのよ??』


 ふざけるなぁ!!まさかこんな能力だなんて思わなかった!! お前は一体なんでぇ、ま、まさかアナザークラウドでこんな力が必要になる展開が来るのか?? それで僕にこんな力を与えて、誰かを救えってことか……


『うーん、それでも良いわね。どんな戦争が起きてもあなたなら死んだ人をまた創造できる。だからそういう風に仕向けても良いわね。』


 お前、狂ってるよ。何がしたいのか解らないよ。もう怖くて仕方がないんだ。


『知ってる?神ってね、狂ってないと何もできないの♪ 誰かを救うと誰かが死ぬ。そういう運命って本当にあるのよ♪ それはトオル君も体感したでしょ?』


 コワイ、オマエガコワイ。


『うんうん、そうやって怖がるトオル君も良いわね♪』












『まあ、種明かしするとね。あなたの錬菌術はまだ人どころか植物も動物も作れないわ。でもね、錬菌術はレベル5がマックスでレベル5になるとできるようになるわ。そうしたらトオル君は神になってね?』



 カミ、神?? 僕が?? なぜ??


『トオル君、知ってる?? アメコミで有名なセリフ、トオル君も知ってるわ。』


 それは……


『大いなる力には大いなる責任が伴う』


 だろう?? まさかお前、能力を与えた時点で神にするつもりだったのか?? 


『そうよ。あのね、私は元は人だったの。愛しい人がいたわ。でも死んじゃった。あ、殺されたわけじゃないわよ。歳をとって死んだ、ただの自然死よ。』


 ならなんでお前はこんな力を僕に……


『私ね、忘れられないの、あの日々が。幸せだったの。あのトオル君と一緒の日々が。』


『意味がわからないでしょ? でも本当なの。私とトオル君は夫婦だったの。あの日々をもう一度味わいたいの。』


 どう言うことだ?? そう思った矢先、頭痛がする。僕は思い出す、ミリアに初めて会った白い空間での既視感を。俺はあの既視感の理由が分かったような気がした。


 僕は転生したのは何度目なんだ? 僕は何回ミリアに会ってるんだ? 記憶は思い出せないけど、ミリアと他にも居たんだ、大好きなお嫁さんたちが。アナザークラウドに来るのは本当に初めてなのか??


『ちょっと思い出した?? そうトオル君は何回も転生してる。地球の記憶も本物よ。私に会えない人生を体感させて私から離れられないようにしたの♪』


『だって地球では結婚する気ゼロだったでしょ?? やっぱりトオル君には私がいないとダメなのね〜』


『私は思ったのよ。今度はトオル君も神になって貰えば良いってね♪ それなら一緒にいられるわ、ずっとね♪』


『もう離さないし、離れないわ♪ ずっとね♪ 今生で転生は終わりよ♪』


『嬉しいでしょ♪ね、トオル君??』


 僕は怖い、お前が、ミリアが、ミリアお姉ちゃんが…… 怖いはずなのに…… 何でまた心の中でミリアお姉ちゃんって呼んでるんだ?? 全てが彼女の手のひらの上だ。


 僕の感情さえも…… さっきまで怖いって思ってたのに。何故か嬉しい気持ちがあるよ…… ミリアお姉ちゃんの気持ちに応えたいと思ってるよ。わかったよ、僕はミリアお姉ちゃんのお人形さんだ。


 僕は、どうしたらいいんだ?? わからないよ、このままお人形さんのままで良いのか、居たいのか、わからない。


『『ミリアを愛する理由を見つけなさい』』


え、ミリアお姉ちゃんじゃない声がするよ? しかもミリアにもきこえてなさそうだ。


『『私はあなたが守った女の子に加護を授けていた神。あなたの転生は意図的なものでも、あなたの人生はあなたのもの。ミリアにとってあの死因は誤算だった。』


『『あなたはお人形さんじゃない。ミリアはあなたの敵でもない。私もサポートするから、スローライフをしながら、あなたはあなたなりの愛の形を定義するの。そしてあなたはお人形さんじゃないってミリアに見せつけるのよ。』』


『『たらたらし君。頑張ってね』』

















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