第9話 美味しい丸黒パンを作ろうね。
ゴン太師匠の稽古が終わり、僕はホッと一息ついたよ。ゴン太師匠が話しかけてくる。
「空いてる時間に基礎体力つけるべ! こんな軽い稽古で疲れてたら、実戦なんてできないだ。基礎体力と筋肉をつける方法を考えるだ! トオルはセンスが良いんだからもっと伸びるだよ!!」
ゴン太師匠が熱血教官みたいになってるよ。でも僕のために言ってくれてるんだよな。どこまでやれるかわからないが、僕なりに稽古や鍛錬をしていこう。せっかく強くなる理由をもらったのだから。
ゴン太師匠の稽古が終わり、昼飯を食べる。元々ゴブリン族や魔物に昼飯を食べる習慣が無く、いつも朝飯や夜飯だけで済ましていたのだが、人族であるトオル君のために、お昼ご飯作ってあげて! とリリィお姉ちゃんが前にセスにお願いしてくれたらしい。
セスは食費が増えると渋面をしていたようだが、トオル君のためにお願い! いずれ財政も良くなるよ! と言われ、了承したようだった。
その時は、僕のためにそんな…… と断ろうとしたがリリィお姉ちゃんが、子供は我慢したらいけません! いっぱい食べて強くなるんでしょ!! お姉ちゃんのために!! と言われ、あえなく僕は撃沈したよ。子供じゃないんだけどな。
次の瞬間、リリィお姉ちゃんの包容力に抱きついて甘えてしまった。リリィお姉ちゃんがここじゃ、ダメよ。2人っきりの場所でね、と言われ、鼻血が出そうになったのは内緒だよ。ガラルがイライラした様子だったけどいつもの事だね。
それはともかく昼飯だ。実はセスにお願いして黒い小麦粉を捏ねてから、発酵させるための酵母を混ぜてもらってたよ。昨日寝る前にパン用の酵母を作っておいたのさ。錬菌術でね!!
まず菌とは何か? 菌は大きく分けて細菌と真菌の2種類があります!!
細菌は、原核生物と呼ばれる単細胞生物で、細胞核を持たないのが特徴だよ。種類がとても多く、病原菌や乳酸菌など、さまざまな役割を担っているんだ。
真菌は、真核生物と呼ばれる、細胞核を持つ多細胞生物なんだ。キノコやカビ、酵母などが真菌に属しているよ。
このパン作りに適した菌は、真菌!! そう酵母だね!! 一応解説しておくよ。
パン酵母は、パン作りに必須の微生物だね。糖分をアルコールと炭酸ガスに分解し、その炭酸ガスによってパン生地が膨らむんだ。パン酵母には、大きく分けて2種類あるよ。
イースト:パン作りに適した酵母のみを純粋培養したものだよ。発酵力が安定しており、初心者でも扱いやすいのが特徴だね。
天然酵母:野生の酵母を培養したものだね。イースト菌よりも発酵力が弱く、酸味が強いのが特徴だよ。手間がかかるが、風味豊かなパンが焼けるよ。
今回はイーストを使ってパンを焼くつもりだね。僕は錬菌術が使えるわけだけどその菌の姿形を知ってないと作れないって制約があるみたい。だからミリアにお願いして、イースト菌の顕微鏡写真を神様ノートで送ってもらったよ。
結構見るのに時間かかったけどねぇ。なんでかって?なんかグロそうなイメージがあって…… 僕、ホラーとかグロいの苦手だからさ。やっぱり躊躇したよね。でも見てみたら、米粒みたいでまだ大丈夫だった。
僕の歴代彼女は、みんなホラーとか見せようとしてきて困ったよ。映画見にいこうって言われて連れて行かれたのがパラノーマルなんちゃらって映画だった時は泣き叫びたくなったよ。他には僕のA◯をホラー映画のDVDに差し替えるとか。その発想がホラーだっつの!!
話が逸れちゃったね。ともかく水が少し入った入れ物に培養しまくって、セスに頼んで、天日干しで乾燥させてもらった。これでドライイーストの出来上がりだね。これを生地に馴染ませてセスに予備発酵させてもらっておいたよ。
セスは生地が膨らんでふわふわになっているのに驚いて、これは腐っているのではありませんか!? と慌てて、聞いてきた時は笑っちゃったよ。これで良いのと言い聞かせて、温度はわからないけど、結構熱めに温めたパン釜で10分から12分くらいで焼いたよ。
狐色になったら、丸黒パンの出来上がり!! 丸黒パンは柔らかくて小麦粉の芳醇なかおりがしたよ。ガラル達と4人で屋敷で食べていたけど、日本のパンには遠く及ばなかった。バターの風味も欲しいし塩気や甘さを感じる砂糖の味も足りない。ああ、日本のパンが食べたいなぁ。
僕は気づいたら涙を流していた。もう帰れない日本のことを思って涙していた。ガラルとセスがオロオロとした顔で何かを言っている中、リリィは僕を抱きしめてこういってくれた。
「思いっきり泣いて良いのよ、遠いところから来たトオル君にはもう帰る場所はない。でも僕ちゃんが、そしてお父さん、セス、オーラン村のみんながあなたの居場所になってくれる。ここを第2の故郷と思って良いのよ。」
ありがとう、ありがとうと言って僕は声を上げて泣いた。それはみっともなく。僕はここを第2の生まれ故郷と思って過ごそうと決めた。僕はこの瞬間、アナザークラウドで生まれ直したのだ。
思いっきり泣いた後、みんなで笑いながら、丸黒パンと鹿肉のステーキと乾しキノコのスープをいただいた。メニューが変わり映えしないって? 魔物達は食事を本来は必要としないため、食事もいつも同じものを食べるのだ。そのため、食事文化が発展しなかったんだ。
それは日本生まれの僕には辛いことだったけど、オーラン村から毎食いろんな料理を食べる食事文化を根付かせていこうと思ったよ。1人暮らしだったから自炊してたからね。うちの母さんは中華料理が好きで色々な中華料理を作ってくれたなぁ。
ごめん、ごめん。また思い出に浸っちゃったね。僕の悪い癖。
『それは超有能過ぎて、窓際に追いやられてる警部殿の口癖でしょ?? 私もシーズン1から見てたのよね〜』
ミリアか、また人の人生を覗き見して。なんで俺がシーズン1から相棒を見てたこと知ってるんだ!!何なら最初のスペシャル放送から見てたぞ!! でもありがとう。僕の心の独り言を拾ってくれるのはミリアだけだよ。
『な、なんで!! いきなり口説いてるのよぉ!! そんなこと言われたらキュンってなるじゃない…… 』
あれ途中からミリアの声が小声になったぞ。何言ってるか聞こえなかったよ。
『私が心配してあげてるのに…… 全く透ときたら、なんで今更鈍感主人公ぶってるのよ!! 良い!! 透が泣いてることが私の責任のように感じて話しかけたわけじゃないからね!!』
ハハハ、心配してくれてんだね。そんな所も可愛いよ、ミリアお姉ちゃん。
『もう!! いきなり、ミリアお姉ちゃんって言われて私の子宮が疼いたわ。人のことをおちょくって!! 良いかしら。透はまだ人族の町に出ることはなさそうだからオーラン村に教会を建てなさい!! そして私に会いに来なさい!!』
別に良いけど急だよね。なんかあったの??
『べ、別に〜〜 リリアナにお姉ちゃんの座を奪われて、嫉妬してるわけじゃないし〜〜!! もうこうなったら私もアナザークラウドに降りるしかないわね。私の仕事ができるほかの天使を女神にしてしまえば……!! ウフフ‼︎』
ツンデレミリアになったところからまた小声になって聞こえなくなったぞ。でも何か不穏なことを考えているような……?? まあ良いか。気にしないでおこう。
『現地で赤ちゃんプレイして、どちらが本当のお姉ちゃんかリリアナに見せつけてあげるわ。ホホホ‼︎』
今のは聞こえたけど、現地で赤ちゃんプレイ…… だと……!? なんて魅力的な、いや酷い仕打ちなんだ!! 僕知らな〜い。面倒事からは逃げるタイプなんだ。しかしミリアはものすごくキャラ崩壊してるな。何があったんだよ。
もういいや。現実に戻ろう。僕もミリアに会いたいから、教会は立てよう。魔神アラン様の教会を建てたいと言ったらガラルたちも許してくれるだろう。
思ったより昼ご飯の時間が色々あって、長くなっちゃったな。次はこの村の唯一の薬師であるオババというゴブリン族のお婆さんに会いに行くぞ!!
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