第34話 クラス内キスですが、なにか?

「だめぇ?」

「ダメに決まってるだろ!」


 抱き着き、しだなれながらの私の甘い言葉に、しどー君も叫び返しながら引きはがされる。

 ここまでは想定内。

 攻める。


「プロポーズしてくれたのに⁈

 不順異性交遊にはならないわよ!

 親へのあいさつも終わってる!

 ちゃんとした付き合いの一環だから風紀の乱れにも当たらないし!

 委員長達だってそうでしょ⁈」


 その言葉をきっかけに爆発したようにガタタタタと、皆が私たちを中心に垣根を作る。

 全くもって仲が良いクラスだ。


「ぇ、マジ?」「知ってたけど、彼氏欲しい……」「キス叫んだの三人目だけど、破壊力あるな」「妹ちゃんは家族キスだから別だろ」「結婚決定二組目とかリア充どもめ……」「彼女欲しぃ」「マジメガネの裏切り者ぉ! 末永く爆発しろ!」


「学校規則上はだな……」

「それは理由にならないのは委員長に前論破されてるよね?」


 私は委員長を観て、説明を促す。

 彼は合点いったように、腕を組み、次の言葉を紡いていく。


「初音君の言う通りだ。

 許嫁の件は学校確認済みであれば、学則上の扱いについても生徒会長に確認している。

 ちゃんとお互いに、本気での付き合いならキスぐらいならどうということは無い。後、家族はセーフ」


 相変わらず抜かりが無い委員長である。風紀委員規則どころか、さらに上にまで確認を取っていた。

 最後の一言は非常に蛇足な気がしないでも無いが。


「それに彼女の場合は、援助交際の前科があり、逆にそっちの方が安心できると学校側からもお墨付きでるだろうしね?

 確かに学生の本分である成績下がるようなら問題だとは思うが、実際、今回の結果は逆だった。

 何か問題があるかい、士道君?」


 許嫁が居てタダでさえ風紀を乱れさせている委員長にも得がある話だ。

 予想通りにしどー君の説得に乗ってくれる。


「……それこそ、プライベートではないキスやそういう行為は風紀の乱れが起こりやすくなり、皆の学業の妨げになる可能性がある。

 安易な性交渉に繋がりやすくなり、それこそ責任が取れない人が出る可能性がある。

 また、人間関係のこじれにより、不和を招く可能性がある」

「確かに起こるかもしれない。

 しかし、全ての可能性に対して個々の行いに対して責任を取ると言うのかね?

 例えば、ハサミを禁止しなかったために、間違って手に刺してしまったこともかい?

 君は神か何かかね?

 人間の自制心を軽んじるとも言うし、少し反省したまえ」

「ぐっ」


 とはいえ、あまり私の彼氏を虐めないで欲しい。最後の一言なんかは死体蹴りだ。相変わらず、言葉と頭を使わせると小賢しい。


「ここで提案が一つある」


 私達がお嬢全無視事件を誘導された時のような、悪魔の笑顔がそこにあった。

 禄でも無いことを考えている時の委員長だ。

 予想外の方向に進むのではと、私は警戒度を跳ね上げ、


「風紀委員として君が示せばいいのではないかね?

 高校生としての節度を保ちつつ、純粋な異性交遊というモノをだ」

「ナイスアイディアよ、委員長!」


 手のひらをひっくり返して迎合した。

 サムズアップで大歓迎だ。


「……はぁ……委員長。

 恨んでいいか?」


 マジメガネが、ため息一つ。

 とはいえ、反論が無い。

 自分の中で消化し、受け入れたのだろうことが今の私には判る。


「君が風紀の模範を示すことには変わらない。

 今までと一緒で、恨まれる筋合いはない。

 むしろ感謝して、思う存分したまえ。

 僕らも君を模範として従うからね!」


 マジメガネが委員長に肩を叩かれ、私へと前に出される。


「あぁ、筋は通ったし、理解もした。

 納得だけはしてないが、それは委員長が悪いだけだから、初音は悪くない。

 ただ、ディープはしないぞ?

 あれは学内でやるもんじゃない」

「そこまでは求めてないわよ」


 真面目な顔で言われるので、吹き出しそうになりながら笑顔で返してあげる。


「「「「「「「「「「じー」」」」」」」」」


 とはいえ、私も流石にここまで大多数に見られながらのキスは初めてだ。

 緊張はする。

 逆に私を真剣な眼差しで見てくるしどー君はいつも通りに思える。


「初音、好きだ、愛している」

「⁈」


 突然の好意の告白で頭が真っ白になった瞬間、口元に暖かい感触が軽く押し付けられた。

 そして温もりが離れた。

 余りの不意をついた出来事に、皆も静まり返っている。


「ふぁ⁈」


 私が事態を把握し、音を叫ぶと、爆発したようにクラスが騒がしくなった。


「こんなもんかな」


 それをやらかしたしどー君は、何とでも無いと言いたげに、再び私を抱き寄せる。

 ちょっと待て、こいつ。

 衆人の注目を集めている中で愛の告白をしてきやがった。

 私、心臓がバクバクして口から出そうなんだけど、なんで静しい顔してられるのよ⁈

 なんでそういうところだけマジメなのよ。


「なななななんで、キスだけじゃなかったのよ⁈」

「ぇ、ちゃんと好意があることを示さないとダメだろう?

 真剣な交際的に。

 委員長だって、前、自分のモノだと婚約者相手に発言してたし。

 それにならった訳だが?」


 言われ思う、やはり私の彼氏はマジメガネであった。今はメガネをしていないが。


「「「「「「「「「「うおおおおおおおおお‼‼‼‼‼‼‼‼」」」」」」」」」」


 そしてクラスが音量爆発した。

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