第21話 中間テスト日ですが、なにか?

 さて、やってきました憂鬱な日。

 私としてはやれることはやってきたし、平均を超えれば良い。


「大丈夫かなぁ……」


 ふと横浜市営地下鉄でそんなことを呟いてしまう。


「大丈夫だ、初音さんなら」

「……マジメガネが言うなら、信じてあげたいけど、自分自身が一番信用ならないからなぁ……」


 なお、今日のマジメガネは眼鏡をしている。

 そっちの方がリラックスして受けれるらしいとのことで反対はしなかった。

 それはさておき弱気な私である。

 基本的に強気な私にしては珍しいしぐさらしく。


「らしくないぞ、初音さんらしく」

「にゃにをー」


 ネクタイを引っ張って、彼の顔を私に近づけてやる。


「マジメガネこそ、緊張してんじゃないの?」

「……」


 無言かい。嘘でも大丈夫と言えないのがマジメガネの良いところであり、悪いところでもある。


「抜く?

 感情、抜いてく?」

「初音さん⁈」


 さわさわと下腹部も触ってやる。くっくっくっ、逆痴漢である。


「冗談よ、冗談。これぐらいいつも通り、返しなさいな」


 いつもなら頑なに却下してくる筈だ。

 それが慌てたままということは、相当にきているらしい。


「すまない……」

「謝らなくていいわよ。

 マジメガネはマジメガネの戦いがあるんだから。

 委員長に勝つんでしょ?」


 そう委員長との闘いだ。

 入学試験主席、当然に満点に近い勝負になるだろう。

 授業中、先生の話を聞かずに大学生の教科書とか読んでるのを観たことがある。それでも指名で当てられるとスラスラとどんな問題でも解いてしまう相手だ。

 私なんかと比べて戦うべき相手がはるか遠くだ。

 例えれば、私が猫を相手にするのなら、しどー君はライオンを相手にするようなモノだ。

 それだけでは無い。

 首位を狙うのなら、お嬢も居る。

 そして妹ちゃんも得体が知れないらしい。

 クラスの先生もこんだけ秀才をよく集められたものだ。

 私も含めて考えると厄介者を押し付けられただけの可能性もあるが。


「……あぁ、絶対勝つ」

「そんなに力んでたら、勝てるものも勝てなくなっちゃうわよ……?

 やっぱし抜いてこうか?」


 マジメガネの力み具合に心配になってしまう私。

 学校の試験で落ちた妹に被ってみえたからだ。


「……それもいいかもな」


 マジメガネの言葉に眼を丸くしてしまう私。

 冗談一つ言ったことのないマジメガネから、冗談が飛び出してきたのだ。

 さすがの私も驚くわ。


「冗談にしては面白くないけど、それぐらい言えるなら大丈夫かな」


 くふふ、と笑って返す。


「ありがとう、初音さん」

「いいえ、これぐらいはいつもしてくれてることのお返しよ」


 礼を言われるので礼で返す。

 さて、横浜市営地下鉄を出たらバスを経由して学校につく。

 クラスにはいつも通りの時間だ。


「どうだい、マジメガネ?

 僕に勝てるイメージは沸いたかね?」


 とお道化るようにちょっかいをかけてくる委員長。

 それだけなのに、なんだなんだと委員長とマジメガネに視線がクラス中から集まる。


「……正直、イメージは沸いてない」

「弱気だなぁ、つまらないぞ?」


 委員長は心底残念に言い放ち、


「僕に勝てる見込みがあるのは、君を入れて三人なんだからホントーに頑張ってほしい」


 と、力こぶしをぎゅっと握る。


「他のクラスにも居るだろう?」

「いや、彼らは相手にならないね。正直、このクラスが一つ抜けてるのは間違いないよ。

 よくもまぁ、こんだけの人材を一か所に集中させたもんだ先生は」

「押し付けられただけ説あるけどねー」


 私が割って入る。


「どうみても面倒じゃん。委員長もお嬢も妹ちゃんもマジメガネも私も……あと、野球部のあれにそのマネージャーとか諸々」


 先ほど考えてたことを言ってやる。

 委員長は委員長として、何事も楽しもうと狂っている。

 お嬢は虐め事件を起こしたり、仕返しされた相手を好きになるという狂い具合を見せている。

 妹ちゃんは、最初、髪の毛や地肌が白なのを隠して学校に通っていたし、最近は委員長に突っ込みを入れられる唯一無二の存在だ。

 マジメガネはマジメガネだし、私はパパ活や援助交際をしていた。


「なるほどなるほど、確かに一理ある」


 私の言葉に楽しそうに反応してくる委員長。

 何というか底が知れない笑みだ。

 中二から援助交際してきて多くの男性の感情を観てきた私が、経験が無い感情を向けられている。それがどれだけ異常か判るだろう。怒りでも悲しみでも喜びでも無い。それは不気味というのが形容に値するだろう。


「初音君、君は利発だね。

 僕が褒めるに値する」

「委員長に褒められても嬉しくないわよ……」


 正直に言い返してやる。


「それは失敬。

 さて、そろそろ僕も自分の席に座って、少し勉強するとするかね」


 と言うだけ言って去っていく委員長。


「気にしないほうがいいわね。

 しどー君?」

「……ゴクリ」


 隣がまたまたマジメガネモードになっている。

 そんな調子で大丈夫かな、っと心配になったのでムンズとあそこの部分を掴んでやった。


「っ!」


 さすがに叫ばなかった。

 ばれたらヤバイのはよく判っていらっしゃるようで。


「ほら、生き抜いて、深呼吸」


 私はそう促しながら、手を放す。


「あぁ、ありがとう。すーはーすーはー」

「どうせ委員長もいつもの戦略でしょ、自分が勝つための……それだけしどー君のことを脅威に思ってるんだから、自信持ちなさいな」

「あぁ、判った……」


 それでも緊張した面持ちを保ったままのしどー君。それが裏目に出なければと私はしどー君の幸運を祈りつつ、自習に入るのであった。

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