第18話 宣戦布告ですが、なにか?

「僕に勝つと、そう聞こえるような話のようだったかい?

 マジメガネ君。

 おっとメガネが無くなったから、士道君と正式に呼ばないといけないね」


 大きな腕振りをして、委員長はその蒼い色の眼をニコリと弓のように曲げて、嬉しそうに言う。一々、大きな素振りをするヤツである。


「是非、チャレンジしてくれたまえ。

 だが、今回、僕もちょっと約束事があってだね。本気でやらして貰うんだ」


 そしてしどー君の目の前で右手を掴む。

 強い意思のこもったそれは、人目を引く。

 いつの間にか、クラスの全視線が委員長に向いているのが判る。

 圧倒的なカリスマ性を持っているのは私にも良く判る。


「お嬢と勝負でもしてるの?」


 だが、空気を読まないことが出来るのもビッチの特権だ。

 相手に飲まれたら負け。

 そんなことは良く判っている。


「それもあるが……最終ライバルは……妹だろうなぁ……」

「買ってるのね、自分の妹のことを」

「あぁ、怖い」


 お嬢のとなりにいる白髪美少女な彼女に目を向けるとビクンと一回飛び跳ねるが、ハムスターの様な蒼い視線で私に睨み返してくる。

 なんというか、愛でたくなるのが妹ちゃんだ。

 

「中学時に全テストで全平均点を叩き出すことは異能としか言えない。それを解放して全開で僕に挑もうとしているんだ。怖いに決まっているだろう?!」


 ゴクリ。

 なんだろう。

 良く判らないが、バカな私には唾を飲みこむことしか出来ない。


「なんだ、それは……まるで最初からクラス全員の回答が判っていて、調整したとでもいうのか⁈」


 しどー君が恐れおののいていることから鑑みて、本当に恐るべき事態な事は判るがどうしたものやら。データ系キャラみたいな口調は負けフラグだから止めてほしいが。


「あぁ、将にそれだ!

 僕は楽しみで仕方ない。その勝負に負けたら何でもするという約束をしてしまったしね」


 フハハハハと笑いだす委員長。

 いつもの委員長ではあるが、遊びというか余裕が見えない。

 大胆不敵、国士無双、唯我独尊な態度と思える言動でいつもしているのに、それが薄味に感じる。


「委員長、実は緊張してるー?

 遊んでる感じが無いよー?」


 なので突っ込んであげる。


「手厳しいが事実だ。

 初音君は良い観察眼を持っている様だ。

 マジメガネをここまで引き立てたりしたのも君の手管だろう?」

「そりゃ、モチのロン。

 私以外気付かなかった原石を磨くのは楽しかったわよ。

 というか楽しいのよ」

「ほほうほほう、それはそれは楽しそうだ。

 僕も一枚嚙ませてもらっても?」


 と、しどー君に触れようとするので、その手を払いのけながら、


「私だけで十分よ」

「残念だ」


 心底残念そうに委員長が言う。

 こいつホモでもあるんじゃないかと、要らぬ警戒をしてしまう私が居る。


「そういえば風紀委員として聞くが、妹との関係は正常なモノなんだろうな?

 ある筋からの情報で怪しいと聞いたんだが?」


 しどー君が私からの情報提供で攻めを始める。

 が、しかし、委員長は余裕のある笑みのままで、


「おっと、僕の妹への愛は兄妹愛あるいは姉弟愛に決まってるだろ。

 ずっと別れていて行き過ぎているのは判っているが、これでも血縁だ。

 雪のような白い肌に蒼い眼、美男美少女、こんなにも共通点がある。

 後、明晰な頭脳」


 よくもいけしゃあしゃあとこんだけ自分と妹を褒められるものだ。


「ちなみに……」


 と、お嬢に眼をやりながらしどー君が続けようとすると、


「あぁ、彼女なら婚約した仲だから不純異性交遊に当たらないね。

 もししてたとしてもだ、純粋な異性交遊になる。

 親同士の挨拶も済ませてる。

 学校にも許可を得ているし、確認してもらってもいい」

「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」


 クラス中が驚きを発した。

 沈黙が訪れる。


「驚くことでもあるまい。

 僕の事を愛してやまない彼女の愛を受け入れた。

 それだけだ」

「ちょっと待って!

 あんだけ妹を虐めてた女に惚れたんか!」


 クラスで行われた虐めの件を蒸し返すようで嫌だが、突っ込まざる得なかった。


「物事はもっと多面的に観ないとダメだぞ、初音君」 

「そうですわよ」


 鈴の鳴る様な声をさせお嬢まで会話に参加しはじめた。


「私が嫌っていたのは、私自身が未熟モノで、一番で無ければと拘っていたからでして……別段、今はそれに拘りありませんし……ねぇ、クラスカーストトップの初音さん?」


 柔和な笑みで激烈な一撃を放ってきた。

 実質、お嬢の敗北宣言だが、頭のどこかでひかかってたクラスカーストをいとも容易く相手は捨てたのだ。それがゴミだと言わんばかりに。

 クラスカーストに未だ拘っている私自身がちっぽけな存在に見えてきてしまう。


「それに私がこの方を好いているのは能力とかで無くて、人柄というか存在そのものですし」

「はは、嬉しいことを言ってくれる」


 二人で抱擁し、回る。


「キスしてよろしいでしょうか?」

「仕方ないね?」


 そして二人が軽くキスをする。

 美怜ちゃんが怒っている以外は皆、時が止まったかのように制止してしまった。

 そして、爆発音。

 うおおおおおおおおおおおおおおおおっと、クラス中から解き放たれた声が隣のクラスまで響いたのか。人が更に集まってきて、噂が広がっていく。


「風紀委員のマジメガネ君、これで彼女と僕の関係性に問題があるとでも?」

「……全く無い」


 ペラペラペラと風紀委員会の冊子を観ていたしどー君が敗北を受け止める。

 そのしどー君の顔は冷静ではなく、慌てた様子だった。

 そりゃそうだ、目の前でイチャつかれたのだ、表情も硬くなる。


「――ただ、少なくても学校での性交渉などは慎んでくれないと困る。

 それは別の風紀に引っかかるからな」

「勿論だとも、僕たちは清い青春を送るつもりさ」


 赤い顔をして胸に抱き寄せたお嬢を見せびらかしながら委員長がそう断言する。

 なんというかショーが上手い。

 委員長選もこの手のショーでかさらっていった。


「……で本題に戻ろう、士道、僕に挑むのだね?」

「あぁ、挑ませてもらう」


 委員長は嬉しそうに微笑みながら大きく頷き、


「賭けをしようじゃないか。負けた方が一つ、秘密を明かすのはどうだい?」


 右手をしどー君へ。


「……判った、必ず勝つ」


 その手をしどー君の右手が掴んだ。

 ついでに食券でオッズが立てられて、9;1で委員長が有利になった。

 私? しどー君に賭けたわよ。

 報われない努力なんて無いモノ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る