第31話 初恋の理由ですが、なにか?
「そういえば、なんで私のことなんか好きになったの?」
「……ことなんかなんて言わないでくれ」
行為の後、私がそういうと力強く抱きしめてくれるしどー君が心地よい。
「で、なんで?」
「……恥ずかしい話なんだが」
顔を真っ赤にするしどー君。
どうやら言い難いという事はセクハラの中で好きになってくれたようだ。
「一目惚れだ。こんな気持ちになったの初めてだったんだ」
「……へ?」
全然違う回答が来て、驚きを隠せずにいた私。そして、
「はっ⁈」
余りの想定外に私は声をあげてしまった。
一目惚れなんかは想定外の想定外。
しかも初恋とな⁈
「あの糞真面目な時のしどー君から見れば有り得ないでしょ⁈
ビッチよビッチ、外見からして茶髪の⁈」
五月頭まで
中学の卒業式の辺りから、毎日毎日、おじさんの相手をしており、遊び、お金を稼ぎ、最近ご無沙汰な仲間たちと楽しんでいた。
まぁ、家にいるとそこの妹が受験に落ちて不機嫌だったので、居たくなかったのもあるのだが。
さておき、
「いつよ! いつ!
私が好きだと自認したのは、しどー君が校舎裏で自傷行為してた時だけど、どうなのよ⁈」
バンっ! っと、しどー君と妹の前にパスタを叩きつけながら、声を荒立ててしどー君に詰め寄る。
「初音、落ち着け落ち着け」
「落ち着いていられるものですか!
って、今考えれば……実は私の事好きなんじゃないの、って胸を押し付けた時、否定されていない! それに援助交際を通報しなかった理由にも合点がいく?! 筋が通ることばかりじゃない⁈」
確かにと、今なら理解できることが幾つもあることに気付く。
このマジメガネは嘘は基本つけないし、私に対して意図的についたことは無い。
「今だから言うが、好きな相手に手でやられたり、胸押し付けられるのって、相当困惑の状況だったんだぞ……。
僕は好きだったけど、初音は好意とか全くないのも判ってたし」
「……それはまぁ……わからないでもないけど……」
流石にそれは同情する。
自分が好意を抱いている相手は好意が全くない上におもちゃにされていたのだ。
逆の立場を想像したら絶対ヤダとしか思い浮かばない。
「でだ、僕が初音に一目惚れしたのは……合格発表の時だ」
「ふぁ⁈」
確かに私が観に行ったときにしどー君の姿があったことを確認している。
私は合格(仮)に水を差されたことが理由だと思うが、何でか覚えている。
「凄く嬉しそうに補欠合格の欄で笑顔になっているのを観てたのが印象的でな?
満面の笑みが凄く羨ましくて、輝いていたんだ。
その後、僕の不機嫌そうな顔をしていたのを観て、正直に嫌そうな顔をされたのも裏表が無いんだなって、何故か好意的に思えてな?」
しどー君も私の事を観ていた訳だ。
「帰りの電車でも忘れられなくて、高校に入ったら一緒のクラスだったらいいなと……。
実際、同じクラスになって観ていたけど、やっぱり自分に正直で輝いていてだな……あぁ、いいなって」
「甘酸っぱすぎない⁈ あんたの頭は乙女か何かか⁈」
なんというか、ドラマや漫画の話だ。
「とはいえ、初音にどう好意を伝えれば判らなかった訳でな?
そもそも女生徒との距離の話し方すら……」
確かに入学当初に声を掛けてきても、クラスカーストのトップを取ることに注力していてそれどころじゃなかった。
お嬢を追い落とすのはムリだと諦めが出始め、委員長(妹)を虐めるのも嫌でカーストが固定されつつあり、焦っていたからだ。
だから処女を失おうとも考えていた。
そんな時に声を掛けられても多分、袖にしていた。
「あー……」
今でこそ、マジメガネなしどー君は私のお陰でだいぶまともだ。
童貞でも無くなっている訳だがマジメガネの過去は童貞そのもので、女の子に免疫どころの問題では無かった。
だからこそ、私が女の子を教えてあげていた訳で……。
ん?
「待って、待って、待って?
ことごとく、パパ活止められてたけど、ストーカーってこと否定してなかったわよね?」
「……」
「正直に言え♡」
言い淀んでくれたので、私は詰め寄りながら馬乗りになり、上半身に伸し掛かる。
完全にマウント状態である。
「……探偵を雇って監視してた。
横浜市内に現れるタイミングは初音のSNSから判ってたからな」
「……」
予想外すぎて思考が止まってしまったのだ。
呼吸を忘れたかのように深い呼吸をし、
「先ずは……言い訳を聞こうじゃないの」
「最初の遭遇は完全に偶然だった。
ホテルに入ろうとしていた初音を見つけた時、思わず声を掛けていた。
止めようと思ったのも義務感だ」
ふうっと、しどー君が一息を付き、
「それで正義心が働いて、探偵を雇った訳だが?」
「それだけ?」
私の鍛えられた対人向け直感が言ってないことがあるなと、見抜く。こいつは嘘はつかない、でも言わないことがあるのが判ったのだ、追及の手を緩めない。
「……退学されたら、機会も何も無いだろ……。
もし、初音以外だったら今まで溜めていた小遣いを全部注ぎ込むなんて決断までは至らなかったと思う」
「ぇっと……」
複雑な気持ちが沸いてくる。
流石に引いている自分が居る。
しどー君も突拍子もない行動で外れることは知っているが、それでもだ。
普通なら気持ち悪いという感情が沸くのは仕方ないことだ。
当然、百年の恋も冷めかねない。
体中に寒気に似たゾクゾクした感触が沸いている。
しかし、
「つまり、私のこと、それだけ本気だったということよね?」
「あぁ」
それが判っているからこそ、気持ち悪いという感情が裏返り嬉しくなってしまっている私が居る。
体の震えすら、熱を帯びる。
あんなにもおもちゃにしていたのに、呆れもせず、そして根気良く付き合ってくれていたのだ。
それが無ければ私はこんなにもこの人を好きになるきっかけは無かった。
その事実が嬉しくなりすぎて、このまま押し倒して惚れさせた責任を取らせたくなっている。
自分でも歪んでいるとは思うが、惚れた弱みという奴だろう。
「しどー君、私を思いっきり抱きしめて?」
「は?」
「早くしろ、間に合わなくなっても知らんよ?
このままやったら、多分、ピルも飲まないし、生でやる。
孕むつもりでやる」
心の衝動がヤバい。
私はしどー君が大好きだ。
大好きで、大好きで、大好きなのだ。
だから、私は少しでも沸いたしどー君を否定する感情を殺そうとしどー君をレイプしたくなっている。
今すぐにでもしどー君に支配して欲しくなっている。
「初音」
「何、しどー君……っ!」
抱き寄せられ、いきなりのキス。
舌を入れられ、無理やり絡まされる。
胸をドンドンと叩いて抵抗するが、男女差がある。
しかも、鼻を指で押さえられながらの呼吸を塞がられる形での接吻で抵抗力を奪われていき、体中から力が抜けていく。
いつの間にか、下にいたしどー君が私の拘束を振り払い、膝立ち同士。
離れると、私としどー君の唾液がこぼれ、床が酷いことになる。
「はぁ……あ……あはっ♡」
頭がボーっとし、酸素を取り入れようとする呼吸しか漏れない。
心臓もバクバクしている。
「初音、好きだ」
「え、あへ……♡」
そこで私は正気に戻り、
「……今、とんでもない状態だった⁈」
叫んだ。
不意に言われ、私はその言葉を認識して嬉しくなる。
「初音は僕の事、好きかい?」
「うん……好きぃ……♡
初音……しどー君、大好きぃ♡」
当然の問いに当然のことだと返しながらしどー君に抱き着いて、その胸で頬ずりしてしまう。
「初音」
私を観てくる真剣なしどー君。
「正義という名目を振りかざして、好きな人との距離を詰めれないかと打算があったのは否定しない。
止める度に泊めることが出来て、少しずつだが距離は縮められたことを僕は嬉しく思っていた」
そんなしどー君のそれを最低な告白だと思う自分が否定できない。
「ただ、僕は君が好きだし、もう離すつもりはない。
結婚したいし、子供を産んで貰いたいし、ずっとそばにして欲しい。
これはプロポーズと捉えて貰っていい。
初音は僕のモノだろ?」
それでも、彼の視線を熱く感じ、彼の真剣さが伝わってくるそれは私にとっては十分な言葉で、私の心をくすぐってくる。
「真面目すぎるわよ、言わなくてもいいことまで言って……もうね?
……でもね、私はそんなあなたを愛してる♡」
当然、
「はいとしか言えないわよ、全く……♡」
笑顔で返すしかなかった。
どうしたって私はしどー君のことが大好きで、恋していて、女でありたいのだ。だから、どんな質問にもノーという拒否権なんかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます