第8話 結論から言えば、メガネはデバフアイテムでしたが、なにか?
結論から言えば、学校からマジメガネの家での私のバイト許可が出た。
おかしい。狂ってる。意味不明だ。
だが一番おかしいのは、
「『要監視対象のため』って……!」
書かれた文字を見ながら、私はワナワナと震えながらその紙を掴んでいる。
「学校には全部を正直に話すことになった。
すまない約束を破って……イタイイタイ、踏むな!」
土下座してくるのでそのスポーツカットの頭を踏みつけてやる。
そして床がグリグリグリと音がする勢いで思いっきり踏み、ねじり倒す。
「すまないじゃないわよー!
私、退学になっちゃうじゃないのー!
ぶっ殺すわよ!」
「そこは大丈夫だ、ちゃんと未遂で止めたと報告したから。
それにプライバシーにはちゃんと配慮することは確約をしてもらっている。学校としても風聞に関わるから退学はまずくないですか? 更正の機会を与えるべきでは? と提案を親経由で通したら許可された」
「それなんか脅迫してない?」
というか、脅迫してるな(断言)。
「誠心誠意を込めただけだ」
「いやまぁ、お嬢や委員長あたりとかも同じようなことしてそうな気がするしいいのかなぁ……」
お嬢はクラスのマジモノの、ヤのつきそうなお家の娘様である。委員長は『委員長だし』で片付くほど本当の天才というヤツであり、何をしでかすかわからない。
ともあれ、このマジメガネが大丈夫だというのなら大丈夫だろう。
嘘や気休めは言わないのは短い期間の付き合いながら知っている。
「それに良くとれたわね、バイト許可。
進学校だから普通出さないからって聞いてるのに……よくもまぁ……」
「家庭の事情で収入に困ってるから、今回の未遂に繋がったと説明したら取れた。事実、君から証言取れてたのが大きい。裏も取りやすかったのもあるな」
存外、事前報告すれば、うちの学校は寛容なのかもしれない。
「……なんだかなー。まぁ、裏取りも何もうちの収入が少ないのは事実だし」
パパママ二人が働いて、やっと二人の姉妹を高校に入れるぐらいだ。
◆
結論から言えば、条件は最低週平日五日、仕事さえ終わらせておけば拘束時間なし。月四十万円(手取り、所得税分などは別考慮)。
しかも、ちゃんと私の専用部屋(ベッド、ドレッシングルーム付き、内ロック可能)を用意してくれて、交通費の差額まで出してくれる。
断る理由が無かった。
そんな感じなので住み込みで働く方向で決める。
どうせ平日も家に帰ったら妹に会うと喧嘩する確率が高いからだ。それはお互いに嫌な気持にしかならないし、前々からよくないと考えていた。
「そもそも何でマジメガネの親は良いって?」
「話したら正義の行いだとゴーサイン出された。提示額も妥当だと言われ、許可も得たし、弁護士が目を通した契約書も速達で送られてきた。保証人欄が有るから、親御さんに了解を取ってきてくれ」
と渡される、二通の契約書。甲乙、つまり、私とマジメガネで保管する分だ。
「ウチも大概だがマジメガネのもどんな親よ。たぶん、うちの両親もOKだすけどぉ……」
マジメガネが輪をかけた真面目になって熱血属性が追加された感じだろうか。
京都の医者だって言ってたけど。
さておき、
「で、おぼっちゃまとでもお呼びすればいいの? それともご・主・人・様?
ふぅ~」
「ふああああ!
耳元で息を吹きかけるな!」
「これぐらい挨拶よ、挨拶。全く、いい加減慣れないとダメだと思うよ?」
良いおもちゃ程度の扱いであるが、楽しいと思える私が居るのは事実だ。
真面目過ぎるのだマジメガネは。
「慣れるか、普通!」
「クラスにもこれぐらいお嬢と普通にやる委員長がいるでしょ、これが普通なのよ、ふ・つ・う。委員長は更に妹ともイチャイチャしてる方が狂ってるわよ。それに慣れたいって言ったのはそっちでしょ」
「確かに……」
私が言える義理は全くないが、クラスの風紀は乱れてるわね、ホント。
委員長の例でいえば、白い妹の頭撫でながら、アヤシイ雰囲気だしてた。あれは近親あるいはその前兆じゃないかと睨んでいる。
さておき、
「とりあえず、離れてくれ。
今の状態じゃ僕の精神が擦り切れる方が早い」
「なれなさいよー、まったく。あ……」
マジメガネが私を引きはがしにかかるので、ちょっと足がもつれた。
倒れる……っと意識が向いた瞬間、テーブルの角が見えた。
あ、死んだわ。
カランコロン。
頭への衝撃を覚悟していたのに、聞こえたのは乾いた音が床を叩いただけだった。
「ごめん、女の子に力が強すぎた。テーブルの角が当たってたら危なかった」
気づけばマジメガネが私が引き寄せてくれて、事なきを得ていた。
本当に済まなそうな顔をして、眼つきも優しそうで……あれ?
「このイケメン誰よ?」
「いけめん?」
正直な感想を述べて指さしてやった。
マジメガネかと思ったら、全然違う人が私を助けてくれていたのだ。
「イケメン、誰だ? メガネが無くて見えないんだが?」
よく見れば、なんだかよく見たことのある顔つき。
よく聞いたことのある声。
そして床に落ちているのは丸眼鏡。
「あったあった、あんまり目が良くなくてな」
顔にメガネがパイルダーオンしたらいつものマジメガネだ。
ちょっと待て。
ちょっと待て、ちょっと待て、ちょっと待て!
なんでこんなにもったいない事をしているんだ。
優し気な雰囲気が消え、全くもって私ガリ弁、融通が利きませんて顔が名刺になっている。
「あんた、コンタクトレンズにしなさい」
私はガラスのテーブルを叩いて、即座に提案した。
「妹にもよく言われるが、眼にモノを入れるのは怖いんだ」
苦笑いをしてごまかそうとするが、それを許せなくなる私がいる。勿体ないは許されないのだ。貧乏性臭いが事実、貧乏だからだから仕方ない。
「子供かあんたはあああ!
全く、何で素材を活かそうとしないのよ。
これだからネクラになって童貞のままになって、女の子と触れ合う機会もなくなるのよ!
私の妹もそうだけど!」
キレそうになる。
いや、キレた。
というか、キレていい。うん、間違いない。
「とりあえず、今週土曜日、コンタクトレンズ屋に連行ね!」
「いやでも、塾が……」
「いいわね?」
「はい……」
不承不承に了承されるが、それでもいい。
「見た目で第一印象決まるんだから、これぐらいはやんなきゃ……!」
「そういうものなのか?」
勉強メガネの癖にメラビアンの法則を知らないらしい。
要約すると見た目が第一印象で大きな割合を占めるという話だ。
「そういうもんなのよ、まったく。
第一印象は三秒で決まるって、オジサン達も言ってたわよ。
だから、大抵のオジサン達は清潔にしてたし、髭も整ってたりちゃんと刈り取られてた!」
私は続ける。
「女の子から見たら清潔感もない、ネクラな男性……マジメガネなんかとか最悪なんだから……!」
「えぇ……」
オジサン以下だと言ってやると不満そうな声を漏らす士道君。
「返事はハイしか求めてないから、いいわね?」
「はい……」
「元気よくしなさいな!」
「はい!」
「よろし!」
ついでだ、ついで。
思いっきりコーディネートしてやる。
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