第14話 運動会後ですが、なにか?

 運動会は予想通りというか、何というか、私たちのクラスが優勝した。

 確かに予定通りにいかなかった部分もある。委員長が妹の急病で抜けるという危機だ。それ自体は代打の野球部が頑張り、何とかなった。

 優勝式が終わった。

 打ち上げと称し、優勝クラスに振舞われたジュースを飲みあっているが委員長たちの姿は無い。そして優勝の立役者であるお嬢も打ち上げに入るや否や、挨拶だけして居なくなってしまった。

 何かが起こっている気がするが、私には関係ないので無視することにする。

 三人の複雑な関係は三人で解決して欲しい。

 あまり足を踏み込んでも地雷にしかならない。


「それよりも……」


 私は、お礼を言いたい相手がいるのだ。

 千五百メートル走で無理をさせて熱くなった足に氷嚢を括りつけつつ探す。

 クラスは三学年分のテンヤワンヤになっており、この瞬間なら、誰に見られても大丈夫だろうと思ったのだ。


「初音」


 と不意に声を掛けられて振り向くと先ほどの、記録保持者の女の子が居た。

 クラスも別だというのに、このトンチキ騒ぎに飛び込んできたらしい。


「足、治ったんだ」

「そうでもないわよ、今は熱持ってるもん……やっぱし完治はしてないみたい」


 そう言いながら氷嚢を取り付けてる足を見せてやる。

 正直、痛くはないので大げさだとは思うが念のためだ。


「いんや、あの速さならマラソンは無理でも中距離以下ならやっていける。

 間違いないね、私の見込みでは」

「……それが何か?」

「陸上部に入部しない?

 私も張り合いのある相手が欲しいし、最後のスパートは痺れた。

 よくもまぁ、体育推薦じゃないのにあんだけの力を出せたもんだわ。

 それに陸上は走るだけじゃないし、きっと今の初音にも合う競技がある筈」


 手を向けられる。

 けれども私は結論が出ている。


「……悪いけど、現状に満足してるし、走りに未練はないの」

「風の噂できいたけど、援助交際し始めたのって、きっと、走れなくなったからだと思うし、それに……」


 私は彼女の唇に指をあてる。


「今の私は、援助交際よりも、陸上よりも楽しいものを見つけたのよ」

「……ぁ、そうなんだ。それなら良かった」


 引いてくれる。


「例の風紀委員とのことね、幸運を祈るわ」


 そして、彼女はクラスの喧騒から離れていく。


「祈られても……遊び甲斐があるだけなんだけどなー……」


 いやぁ、特別な感情は沸いているが、恋かどうかは知らないし。

 ただただ、しどー君といると楽しいのだ。

 さてその本人を探していたのだが……いた。


「しどー君♡」


 私は他の風紀委員と飲んでいた彼の耳元で囁く。

 ビックリしたように振り向かれるので心外であるが、


「ビックリした。

 初音さんか、お疲れ様。凄い粘り強い走りでビックリした。

 本当に陸上部だったんだなって……感動した!」

「いや、その褒められると……照れるわ」


 素直に褒めてくるので照れてしまい頬が熱を持つのがわかる。


「その足、大丈夫なのか?」

「へーきへーき。ちょっと熱を持っただけだから。

 久しぶりに本気出したからだけだしー」


 安心させるように氷嚢と足を一緒にブラブラさせる。


「保健委員も大丈夫って言ってたし」

「……良かった」


 しどー君が安堵の息を吐いてくれるので、私も安心する。


「それよりしどー君、応援ありがと。

 大きな声でよく聞こえたわ」


 そう素直な気持ちと微笑みを向ける。


「あぁ、どういたしまして。

 必死に走る初音さんを見ていたら込み上げてくるものがあって、気づいたらクラスに戻って叫んでた……恥ずかしいことに」


 彼からも気恥ずかしそうに頬を指でポリポリとかく様子が返ってくる。


「恥ずかしいことなんかじゃないわよ。

 私はそれで頑張れて、最後のスパート決めれたんだし」


 彼も笑顔になってくれる。

 素直に嬉しくなってしまう自分を抑えきれず、どうしたものやら悩んでいると、しどー君の周りに居た風紀委員の人たちが、


「凄かったな、あの走り」「あぁ、ハンデを貰っていたとはいえ、最後に差し返したもんな」「この子が要注意観察人物とは思えないんだが」


 と若干、コメント返しづらいことも言われる。

 その筋では有名になってしまっているらしい。

 うん、二度とパパ活や援助交際できないヤツよね、これ。

 する気もないけど。


「士道の応援も凄かったな。反対側に居た俺にまで聞こえたぞ」「確かに」「自分のクラスに戻りたいといわれた時は面をくらったけど、いいものが見れた」「熱血マジメガネって感じがした」


 と、しどー君が揉みくちゃにされはじめる、


「士道、こんな可愛い娘を囲ってるのか、羨ましいぞ」「風紀委員長として、マジメガネを取り調べせねばならぬな、これは」「ほれほれ言うてみい、家で何をしてるんだ」

「僕は至って普通に家事手伝いして貰ってるだけです。あとは勉強を教えたり……風紀員ですから……で、先輩方の思うようなことはありませんよ」


 とマジメガネが言うもんだから、からかってやるつもりで、


「マッサージはしてあげてるでしょ」

「っ⁈」

「マジメガネ?」「士道?」「制裁か、制裁か? 風紀委員的な意味で」


 士道君が慌てて私の口を防ごうとするがもう遅い、先輩たちに羽交い絞めにされてワッショイワッショイと連れ去られてしまった。

 ちょっと悪いことしたかな……。

 いやまぁ、Bまでは(私が勝手にしてることだけど)事実だし、仕方ないわよね、うん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る