第5話 お布団ですが、なにか?

「マジメガネ……士道君、まだ起きてる?」


 私が背中を向けあっている相方に声をかける。

 現状、デカいキングサイズのベッドに男女二人並んで同衾している状況である。

 流石のサイズなので、身を寄せ合うことなどないのはいいことだ。

 お互い好き合っている仲では無いし、今日だけの関係だ。

 さて、どうしてこうなったかというと、最初は士道君がソファーで寝ると断固として言っていたが、流石に家主を……と一悶着。

 かと言え、士道君の言い分では女性をソファーで寝かすのもという優しい話で、……一悶着。

 という平行線があり、ベッドのサイズを観て「これなら二人で寝れるわよ」と私が提案してこうなった。お互い頑固であるなーと思うと、笑えてくる。

 服は男物のリネンの寝間着……マジメガネのを着ているが、下着は着替えを持っているので問題なかった。そら、処女を開通する予定だったのだから当然の用意だろう。

 というか、稼ぎの為に普段から下着は一着持ち歩いている私である。脱ぎ立ては高く売れるのだ。

 そんな話をマジメガネにしたら、「……そういう需要があるのは知っているが、実際やるのはどうかと思うぞ」と冷静な突っ込みが入ってしまった。オタクなのにそういうことには興味がないらしい。


「起きてる、というか寝るつもりはない……寝っ転がってれば多少は回復するしな」


 しばらくして、マジメガネから真面目な返答が来る。


「なによ、それー。私が寝てる間に何かするとでも思ってんの?」


 私は心外だと、マジメガネの方へと寝転がりながら向く。見れば耳元に眼鏡掛けが見える。眼鏡をかけているということは本気で寝る気がないらしい。


「さっきみたいな写真を撮られたらイヤだからだ」

「やらないわよ……体をくっつけて楽しみたいならくっつけるけど」


 ビッチは受けた恩の分は返すのが筋ってモノだ。

 一飯一宿の礼としては安いもんだ。


「そう油断させて、僕のあられもない姿を取って恐喝するつもりだろ?

 エロ同人誌みたいに」


 マジメガネも私の方を首だけ向けて呆れ顔で見てくる。マジでメガネを外してないので私も呆れてしまう。


「あんたそーいうこという所はオタクな考えなのね、士道君。

 大丈夫大丈夫。

 そんなことしたら委員長が怖いからやらない」


 虐めどころの騒ぎではなくなる。

 吊し上げ喰らうならまだしも、学校に居られなくなる可能性すらある。

 ウチの虐め嫌いの委員長ならやる。間違いない。


「それもそうか……」


 士道君もそれを聞き、確かにと頭を縦に振ってくれた。


「委員長、傑物よね。

 お嬢への虐めをやめさせた後に、委員長として虐めはいけないと題目を掲げつつ、スポーツ大会の鼓舞に切り替えるなんて」


 ちなみに私は虐めに関しては意図しない傍観者であり、関与していない。

 今後の地位を固めるために処女を売るのと、他人を下げて地盤を固める方法の二択なら前者を取る。何故ならば、他人に迷惑をかけることがビッチとして嫌だからだ。自分で自分を決めて、それを評価されるのがビッチとしての生きざまだ。


「あぁ……誰にだって出来ることじゃない。僕だって虐めを止める様、注意していたが、根本的な解決は図れなかった。正直言えば、悔しい」


 腕を上にあげてグッと握るマジメガネ。

 本気で寝る気がないのか、メガネをしたままだ。


「ほーん。マジメガネにも悔しいっていう気持ちがあるんだ」

「そりゃあるさ」


 マジメガネは強く言ってくる。


「根気強く正義の説得を行っていれば、一人ずつ一人ずつでも最後には判って貰えると思ってた。けれども、現実、皆が縋りついたのは誰も責任を負わない術で、それですべて解決した」

「ときに正義は正解じゃないってことよね?」


 ぐうっと士道君がうねる。


「だが、僕は正義を通す生き方しか知らないんだ」

「それも変えてあげようか?」


 ニコリと微笑みながらマジメガネに近づき、彼の顔を両手でこっちに向かせる。


「なんだい……⁈」


 チュっと、デコにキスしてやった。


「な、な、な!」

「ほらこれで不純異性交遊。

 やっぱりあれよ、アンタは少しは女というモノを知るべきだし、それどころか人心を操る術を少しは得るべきよ。あんたの評価、女生徒からの知ってる?」

「……マジメガネ」


 少しの間、驚いた士道君が頬を赤らめながらそう自分を評してくる。

 足りないので足してやる。


「堅物マジメガネ、融通が利かない、頑固な風紀委員」

「……それも知ってる」


 口を尖らせてひねくれているマジメガネが可愛い。


「知ってるなら少しは柔らかくなりなさいよ、クラスメートの誰がそんなもんに好感を持つと思う?」


 そして私は更に続けてやる。


「クラスメートの誰がそんな人の言葉を聞きたくなる? 規則は確かに守らなくちゃいけないかもしれないけど、アンタから言われるのは正直、嫌ね」


 完全にマジメガネを否定する言葉だ。援助交際をしてきていろんな人と付き合うことになった経験が生きているなと私自身ながら思う。


「あのね、人はお金だけでも動かないし、大義だけでも動かないの。

 ちゃんと判って貰う努力をしなきゃ」


 処女を失おうとしていた私に言われたくない言葉であろうが、気にしないでおく。 

 そして核心的に判らないことを聞いてみる。


「風紀ってそもそも何のためにただすの?」

「……」


 帰ってきたのは沈黙。そして数秒後に、


「風紀の乱れによって、様々な周りの人たちに迷惑を掛けない様にだ。また少しの乱れから大きな乱れに繋がることも窓ガラスの法則からも言われていることで、些細なことでも注意をしていくことで、生徒自身の安全に繋げる為だ」


 うーん、難しくて良く判らないが、


「つまり、それって外様に優秀な生徒達である様に体面を保つためよね。クラスメートの為じゃない。確かになぁなぁにしろって言ってる訳じゃないし、私みたいな不純異性交遊は捕まえた方が良いのは確かだけど、スカートが短いとか、セクハラよセクハラ。少しはモラリティというかキャパシティーを持て!」


 実際、毎日、私もスカートの長さで注意されている。

 その時は、五センチ短くし、見せパンツであったし、怒られる理由も判るのだが、オシャレしたい年頃なのだ。


「行き過ぎた正義は、堅苦しいだけで、誰も共感しないわよ」


 と、最後に締めて、私は士道君から離れた。


「……セクハラ……僕がセクハラ……」


 ショックを受けたマジメガネが上半身を起こして、悩み始めている。

 あまりよくない兆候である。

 理想に現実をぶち当てて破砕した気がする。

 マジメガネが私と反対を向いてブツブツ言って倒れる。


「あーあー、やちゃったかなぁ……」


 こういう説教臭いのは援助交際の時もで、つい、悩んでいたり、間違っている行動をしている人を見ると言ってしまうのが私だ。

 面倒見がいいビッチで悪かったわね。

 だから、最期まで面倒を観ることにする。

 私も起き上がり、豊満な胸を押し付けながら士道君の後ろに抱き着いてやることにする。


「な、な、な、な、な」

「暗い顔はダメよー、ほら豊満な私のボディでも感じて考えをシャットダウンしなさいな。今考えても意味が無いし、深く考えても答えは出ないんだから。今ある快楽に染まっときなさいな」


 私は彼の耳元にそう甘く囁いた。

 するとマジメガネの体のこわばりが解けた気がする。


「……すまない」

「こういう時はありがとうって言うのよ」

「……ありがとう」


 しばらくするとスウスウと寝息が士道君から聞こえ始める。

 なんというか、私の妹と一緒で愚直なんだな、って思うと笑みが浮かび、私にも眠気が襲ってきた。

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