第29話 お弁当話ですが、なにか?
お弁当と言えば青春の香りがする。
好きな人に渡すもあり、母親や家族から渡されるもよし、学園青春の端に登場しやすい。
クラス内でもお弁当持ちはそこそこ多い。
特に委員長妹ちゃんからその兄に渡される光景は日常茶飯事だ。毎度毎度、妹のお弁当を高々とあげて嬉しそうにするのはどうかと思う。なお、それをニコニコと受け入れる妹もどうかしている。後、お嬢もニコニコとそんな様子を受け入れているのもどうかしている。
頭オカシイ。
「お弁当ねー」
とはいえ、羨ましくはある。
あんなにも嬉しくなってくれるものなのか、あんなにも嬉しく食べたいものなのかと、ついつい考えを巡らせてしまう。
「風紀委員としても止められないのが難題よね、あれ」
「まぁ、不順異性交遊でも何でもないからな」
さておき、私達はそんな混沌めいた教室から抜け出し、いつも通りに食堂だ。
私はいつものサラダうどん、しどー君は焼き魚定食にし、テラスの端に陣取る。
少し物陰になっている割と指定席になっている感がある場所だ。
噂ではカップルがいちゃついてるから居づらいらしい。
困ったカップルもいたモノだ(棒)。
「絶対、あの兄妹は家でズブリしてると思うんだけどなぁ……」
「学校でズブリとかいうのはヤメロ。
風紀委員の前だからな、一応」
いつも通りにお堅いセリフが彼氏から飛んでくる。
今日はマジメガネスタイルしどー君である。
「家でなら獣でもいいもんね?」
「っう……」
日曜日にやりすぎて、朝起きた時間は既に髪の毛を乾かすだけでセットする暇が無かったのだ。
それなので私は珍しく普通に流したロングだ。
私もしどー君も、何というか、タフでね?
「食事中はそう言う話をだな……」
「ある意味で食事だからいいじゃないの。
兎な私が狼なしどー君においしく食べられちゃうのよ」
「初音?
流石に公序が乱れた発言で反省室行きしたいか?」
メガネのないしどー君がまじめな口調で言ってくれちゃうので、私はおどけた調子で、
「バッチこいよ?
反省という名の精神棒を受け入れることもやぶさかではないぞい!
というか、やれ!」
「……はぁ」
しどー君が笑いながら呆れてくれるので、追い打ちを仕掛けることにする。
「お仕置きプレイとかよかったわよね……♡
風紀委員と援助交際少女の更生プレイ。
しどー君もビンビンだったし」
「だから、TPO考えろと……」
これぐらいはコミュニケーションで、近くに人が寄り付かないから出来る会話だ。
しどー君も随分、ただれたモノである。
付き合ってまだ短いというのに、色々なプレイをさせている気がする。
「そういえば、しどーくんは私のお弁当食べてみたい?
お弁当は中学校の頃、妹の分と一緒にしか作ったことないけど」
私、初音は料理が得意だ。
確かにプロ級というわけではないが、和洋中なんでも出来て、得意料理は肉じゃがだ。家庭的でビッチらしくないとオジサン達に言われたことがあるが、出来た方が良いとも言われた。
「初音のスケジュールが過酷になるから無理だろ……」
「そうでもないけどねぇ」
朝仕度は手慣れたモノで時間は掛からないし、考えてみても作れる。
とはいえ、否定が来なかった。
つまり、食べてみたいのだ、彼は。
「エッチした翌日は難しいかなぁ。
ムラっと来るのもその日の気分だし、お互い」
「初音はいつもだろ……」
やれやれと言われるが、
「うん、そうよ? 悪い?」
目をぱちくりさせて、何が悪いか問いかける。
「開き直るな!」
「今更よ、い・ま・さ・ら。
ビッチだもーん」
それにだ、
「しどー君とするの好きだもん」
ニコっと彼にだけ向ける微笑みで本心を伝えてやる。
それを受けた彼は顔を赤らめてくれるので、心の栄養が補給されていく。
えへへへ。
「……僕も、初音とするの好きだがな」
「ふぁ⁈」
その一言で一気に心の満腹ゲージが突き抜けた。
普段、こんな所で言われない発言で意表を突かれ、心臓がダイレクトに愛撫されたかのようにバクバクしてる。
ヤバイ。
カロリーオーバーで熱がこもる……!
「うう、恥ずかしいセリフぅ……」
「ちゃんと伝えないと、初音、不安になるし。
自分が僕に合わないとか言い出しそうで……」
「それはそうなんだけどぉ……」
ちゃんと私を理解してくれる彼氏が素敵すぎてまぶしい。
「TPO……考えよ?」
「お前が言うのか、お前が」
「だってしたくなっちゃうもん」
発情スイッチが入りかけている自分が居る。
普段、どんな場面でも抑えきれている私だが、今日は緩い。
だって、今日は危険日。性に貪欲になっている。
生で出されたら、っと思うとお腹の奥の方がキュンキュンと興奮してくる私はヘンタイチックだ。
「初音、大丈夫か?」
「流石にちょっと、おかしい」
さておき、
「お弁当、食べたいんでしょ?」
「……」
無言で返してくれる。
基本、嘘がつけない上に素直に返してくれるしどー君だ。
彼が今、私の事を思って言葉にしないことは良く判っている。
「私は作りたいなぁ、と思う訳ですよ」
彼の負担にならない言葉を選びながら、続ける。
「私自身、身近な人が作ってくれたお弁当というモノを食べたことが無いのよねー。
ママは料理は最低限しか出来ないし。
それでよく今の仕事、スナックのママが続けられている気がするけど……ともあれ、小学校の時代から羨ましく観てたのよね。
どんなモノか作ってあげたいし、食べてみたい。
だから、作りたいのよ?」
フンスと鼻息を荒くして、言い切ってやる。
「その上で、聞くわ。
私のお弁当食べたい?」
「……勿論。
ただ初音の負担にならないようにだけは頼む。
結構、色々やって貰ってるから」
「よろし!
まぁ、同級生メイド兼ねてる部分は仕事よ仕事。
ビッチはちゃんとお給金分働くし、そこを気遣うのは筋違い。
ね、おぼっちゃま?」
食べ終えた皿を隅に片付け、前の席のしどー君への頭を両手で掴み、耳元で囁いてやった。
「おぼっちゃまはやめろよ……」
「めんごめんご」
珍しく本気で嫌そうにするので謝りながら席に座る。
まぁ、しどー君、全くお金の匂いさせてないのは、そういうステータスを着飾る……というか、ぼんぼん扱いを嫌う節がある。
私も初めてしどー君の家に行くまで知らなかったし。
というか、あの時はしどー君のことをマジメガネとしか認識してなかったわけだが。
「僕も、誰かに作って貰ったお弁当は食べたことないからな。
大抵はハウスキーパーさんの作り置きを温めるか、外食とプロテインで気を使ってた」
「そういえば、注文追加しろはさすがの私も初めての経験だったわよね……。
それに注文やドリンクも手慣れてた感が……なるほど」
懐かしい話だ。
奢って貰った一番初めの記憶である。
あの時はこんな関係になるとは思わなかった訳だが。
「そしたらどうせ危ない日だから今日は控えて、お弁当作りをやるとしますか。
覚悟しなさいよ!」
「あぁ、楽しみにしてる」
ビシィ! っと指を突き付けてやると、しどー君は嬉しそうに笑顔を浮かべてくれた。
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