第23話 デートですが、なにか?

 デートである。

 そういえば、私も同年代の人とデートは初めてである。

 オジサンにつられてカフェだとか、レストランだとかは良く行ったわけだが、最終目的地は基本的にホテルだ。処女だけど。

 何とも我ながら退廃的であると思う。

 さておき、


「おそいなー」


 しどー君よりも先に出たので私より遅くなるのは判っているのだが。

 横浜駅の交番前。

 朝も早いというのにナンパされること何回か。

 そしてしどー君はようやく現れた。


「遅い!」

「まだ三十分前なんだけど……?」

「ふつーはね、男子は一時間前に来るものなの?

 練習でよかったわね?」

「そうなのか」


 素直に頷いてくれるのは相変わらずポイント高い。

 それにだ。


「ちゃんとこの前教えた通りの服装だね、よしよし」

「最近、妹とたまに会うと、別人だと驚かれる」

「カッコいいって?」

「いや、見慣れないから困るって」

「それはカッコいいからよ」


 とはいえ、この男、最初はスーツを着てこようとしてたから何ともである。

 普通はそんなもん着ない。

 全くもって童貞というやつはこれだから。

 コーディネートの内容は、ぴったしのジーパンに白シャツインナー、七分袖赤黒チェックアウターとシンプルに。

 あんまりゴテゴテしても似合わないのは判ってる。

 髪の毛もちゃんと整髪料をつけて清潔感がある。

 なお、眼鏡はさせていない。

 あんなもんさせたらもったいない。


「……初音さんはいつも制服だけど、私服も可愛いね。

 短いスカートから伸びてる細い足も奇麗だし、全体的に動きが軽く見える感じで似合ってる」


 マジメガネなんかに不意を突かれた。

 褒められて嬉しくない女子なんか居ない。

 どうせ無いだろうなと思ってたが真面目におしゃれしたわよ!

 カジュアル系でライトな感じに!

 それなのに可愛いと言われた。

 しかも事細かに!

 私の心も跳ねるわけだ。


「そういう気づかいは満点ね。

 でもね、足が奇麗に映えるとか迄はいらないから……!」


 とはいえ、私がリードするのだ。

 心うちは隠して、そう採点してあげる。


「そういうモノなのか?」

「セクハラよ、セクハラ!

 私はビッチだからいいけど、あんた気をつけなさいよ?」

「わかった」


 素直でよろしい。


「よろし。

 さて、今日は私のリードだから、とりあえずイノダで朝御飯しましょ!」


 と、伊勢丹にあるイノダコーヒーへ。

 少し早かったのですぐに入れた。

 京都に本舗があり、そちらは観光客が並ぶらしいが、ここは穴場なのか空いている。


「モーニングセットで」

「同じく」


 躊躇なく千円オーバーのモノを頼む。

 高校生の財布には痛いダメージとなるが、最近はしどー大明神のおかげで私の財布は潤沢だ。一ヶ月分の給与が入ったのは大きい。

 

「コーヒーの味の違いって判るー?」

「酸い味とかは判るが、そこまで。

 ただブルマンが好みかな」

「私も良く判らないんだよねー」


 そんな他愛のない話を楽しむ。

 基本的にデート何てお互いが楽しむためにあるのだ。

 同じことを共有して、語り合うなんてのは王道よねー。

 おじさんとかとデートするときは、相槌を打ったりすることもあったが……。

 あれはお金の為もあるから、まぁ……。


「会計は私が払うわ」

「僕が払うが?」

「いいのいいの。

 今日だけは私がリードしたいから」


 と二人分を払う。


「ただ、普通は女の子相手はちゃんと払ってあげること。

 いい?」

「判った」


 と釘をさすのは忘れない。

 素直にうなづいてくれるので良い。


「さて、次は山下公園か」

「バスターミナルから、あの二連結している青いバスに乗るのよね!」

「そこまで楽しいものか?

 僕はワクワクしてるけど、女子高生がバスにとは……と考えづらくて」

「ワクワクするわよ。

 だって初めてだし、結構、女子もメカとか好きなのよ?

 ほら、一番奥の動くガンダムも見たいし!」


 っと、私も初めての場所へ。

 観光者も多かったり、マラソンしている人も多かったり、ざわざわとしている。

 テントを張っている人なんかもいる。

 私も千五百メートル走の練習で朝に駆けたが、こういう昼時は初めてだ。


「そういえば、しどー君、横浜住んでるけど、こういうところ来ないの?」

「幼稚園とか小学生の頃の遠足だけかな……。

 地元の人って地元の観光地ってあまり行かない印象があるけど。

 初音さんも、地元の観光地行かないよね?」

「確かにそうねー」


 実はあざみ野に観光地があることすら知らない。あそこは田舎すぎる。

 さておき、ゆっくりと二人で公園を抜け、目的地へ。


「ぇっと、二杯ニ礼二杯だっけ?」

「二礼二拍手一礼だし、ガンダムにするものではない」

「大仏とか見ると拝みたくなるわよね、その心境なの。

 判る?」

「大仏も拝むもので二礼二拍手一礼するものではないからな?」

「そーなの?」


 冷静な突っ込みが入ってくるので聞き返すと、ため息と苦笑いで返される。

 もう、そんなに呆れてくれなくてもいいのに。

 プンスコだぞ。

 さておき、


「これが動くのよね⁈」

「あぁ、そうらしいぞ」


 二人でワクワクが共有されていき、増幅していく感覚を感じる。パパ活では感じたことない感覚だ。

 何というかデートと言うモノはこういうモノなのかと、自分でも新鮮に感じる私自身がいる。

 しどー君はどう考えているのだろうとふと隣を向く。

 目をキラキラさせたいつものマジメガネとは違う、純粋無垢なしどー君が居た。


「……っ」


 頬が熱くなる自分がいることに気づく。


「初音さん?」

「あ、ちょっと日がまぶしかっただけだから大丈夫」


 言われ、そう言い訳をする。


「上、いきましょ」


 誤魔化すように彼の温かい手を取り、先に進もうとする。


「あぁ、って手をつなぐのかい⁈」

「?

 手ぐらいで大騒ぎしない。

 デートでしょ、デート」


 私は大きく溜め息をつく。


「そ、そういうものなのか?」

「そういうものよ。

 それにもっとすごい事はしてあげてるでしょ?」

「それとこれとは」


 真っ赤になるのでニヤニヤしちゃう。

 でもあまり虐めすぎるのもよろしくないので、話題を変える。


「しどー君の手って大きいねー」

「初音さんのは小さくてガラスのようだ」


 不意にそういう例えをだしてくるのは卑怯だと思う。

 ちょっと、心が追い付かなくなる。


「そりゃ、女の子ですし?」

「そうなのか」

「私が男に見えるんかい、あんたは……」


 ショックである。

 それが表情に表れていたのか、しどー君が、


「いやいや、そういう訳じゃなくて、女の子っていう認識に改めさせられた。

 自分なんかよりパワフルだし、グイグイ行くし。

 力強いじゃないか。

 そんな初音さんの手が小さくて折れそうだと気付くと、何というか偏見だったなと」


 この男は一々、心をくすぐってくる台詞を嘘なく述べてくる。笑みを浮かべそうになる私を抑えつつ、怒りと演技。


「そうよ、偏見よ、それ。

 ダメだぞ、ほかの女の子にこんなこと言ったら」

「判った」

「よろし」


 全く、このしどー君は本当に大丈夫なのだろうか、と思いつつ上へと足を向けるのだった。

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