第24話 デート別れですが、なにか……

「わぁ、凄い凄い!」

「確かに凄い」


 デカいアームや足が動くたびにはしゃぐ二人、これを外から見たらどんな風に見えるのだろうか?

 私はふと考え、落ち込む。

 おそらくとも言わずカップルだろう。

 そんな資格は私にはない。


「やっぱり観光地になるだけあったわね!」

「あぁ、そうだな。

 初音さんと来れてよかった」


 こうストレートに言われると悪い気はしないが、不意打ちされた気分でムカつく。

 なので意地悪する。


「腕、あたってるぞ!」

「あててんのよー」


 引っ付いてやる。

 誰がどうこうと関係ない、今日はデートだ。


「外人も同じようなことやってるので問題なし!」

「そういう問題じゃない!」

「いいじゃんいいじゃん、こんな美少女つれてさー。

 役得しなきゃね?

 デートだもん」

「美少女なのは認めるが……」

「あ、そこ認めてくれるんだー」


 ニヤニヤ。

 彼の赤くなる頬が凄く嬉しい。

 温かい頬をつついてやるとフニフニする。


「セクハラ臭いと思うんだが、それ」

「じょしこーせーにセクハラとかいわないのー。

 そっちこそセクハラよ、セクハラ」

「いつも初音さんにやられてるよね?」

「あれはいいのよ、教育だから。性教育よ、性教育」


 言い切ると、しどー君が苦い笑みを浮かべてくる。


「しかし、デートって楽しいものなんだなぁ……。

 同じことを経験し、話題にして、共有する。

 これは知らない楽しみだ」

「提案した甲斐があったってものねー。

 ただ、難しく考えるのは禁止ね?

 こう経験しとけば、女性に対して赤面したりだとかで無様な真似を晒さなくて済むようになるから。

 感謝しなさいね?」


 自分も共有するというのに心がときめいたのが初めての経験だったことを隠しつつ言ってやると、


「ありがとう」


 素直に感謝されるので本当にこそばゆくなる。

 畜生……この女殺しめ……。

 そんな気分を誤魔化すように、


「さて、お昼めざしつつブラブラしよっか」


 時間を見れば十三時、あえて時間を外すということもあって遅めを狙っている。

 中華街。

 景徳鎮という店に入る。店のうりは麻婆豆腐とランチ。

 ランチは八百円程度だが、一般メニューを観ると二千円がデフォルトなお高いお店だ。


「よく知ってるな、こんなお店」

「調べたのよ。

 デートなんだからしっかりした所に来ないと」


 正直に答えてやった。

 頬を赤らめると思ったのだが、茫然とした目で私を観てくるしどー君。


「おーい、しどー君平気?」

「あぁ、ちょっと意外で吃驚した。

 ありがとう」


 ニコヤカな彼の笑顔を得られて胸がときめく。


「なによー、そんなに私が考えてるって意外だったの?」

「いいや、そうじゃなくて……入ろうか」


 困ってる困ってる。

 ニヤニヤしちゃう。


「自分も頑張らないとなーって」

「頑張りすぎて自傷はだめよ?

 ほら胸かしたげるから、リラックスする?」

「人前だからやめろよ」

「ふーん、人前じゃなきゃいいんだ」


 黙ってしまう。

 一昔前だったらムキになって言い返しそうなものだ。

 成長したものだと思う。

 とはいえ、ちょっと空気が気まずくなったので、


「注文お願いします!」


 と、誤魔化すように発言しウェイトレスにランチセットを二つ頼む。

 そして一呼吸を置いて、


「そういう時は、粋な事一つぐらいいなさいよ。

 例えば、君を他の人に見られたくないとか、何とか」

「そんな臭いセリフ、よくポンポンうかぶなぁ」

「そりゃ、言われ慣れてますし」


 パパ活ならびに援助交際オジサン語録である。


「最近はそっちからは離れてるけどねー。

 人を知るという勉強面では良いんだか、悪いんだか、わからないけど」

「僕は良いことだと思う」


 しどー君はまじめな言葉で続ける。


「だって、君という花が他の人に汚されないから」

「ぷっ、口説いてるつもり?

 今、勉強してすぐ応用利かすのは良いと思うけどねー」


 冗談だと思い、クスクスと笑ってやる。

 彼の顔は笑ってなかった。


「そんな顔やめてよ。

 大体、結婚だとか、好きだとかいうおじさんと同じ顔してる。

 遊びなのにねぇ」

「僕は本気だ」


 あー、これはマジだ。

 マジメガネはメガネをしていなくても嘘や冗談を言わない。

 ……どうするかなぁ。


「しどー君。

 優しくしてくれた女の子にすぐ惚れるのはどうかと思うよ?

 てかね、私は遊びよ、遊び。

 ビッチだし」


 言いながら席を立つ。


「それでも、僕は」

「よく考えてみ。

 穴こそ空いてないけど、一般的に観れば私は汚れてるの」


 しどー君にデコピンを観まいしながら言ってやった。


「そんなことは……」

「あるの、私はそれを誇りに思っていたし、今でも後悔はしていない……穴は開いてないけど。

 けれどもマジメガネのしどー君がそんな女にいい様に誑かされてるだけよ?

 最初に言ったよね?

 『経験がないと悪い女の子につかまっちゃう未来しか見えないんだぞ?

 食べられて、旨い事搾り取られちゃうって寸法よね』

 って、しどー君は私の事かと聞いたけど、そのとおりよ?

 だから、こんな女に惚れるのはダメ」


 ちょっと説教じみてしまったかもしれないが、私なんかに惚れても彼にはメリットなんかない。これは間違いない。


「私の外観が良かったということなら、そっくりな年子の妹を紹介するわ。

 生真面目でお似合いだろうし」


 そう、しどー君にはちゃんとした普通で真面目な可愛い子がお似合いなのだ。


「でも、僕は……!」

「それ以上は言わさないよ」


 私が彼の口元を人差し指で抑える。


「結果はどうあれ、しどー君は傷つく。

 私はあんたの事なんか……」


 ……。


「嫌いなのよ」


 言い切ってやった。

 そして、声を張る彼を無視して中華街から飛び出していった。

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